第10話 その痴女、コンプライアンス違反
ゼルネリカのレベリングは順調だった。まあ、このダイモンズソワレ、レベルを上げるだけなら簡単なんだ。特にPvE――つまりNPCの怪物相手なら、レベルを上げるのが最適解だった。問題はPvP――つまりプレイヤー相手の戦闘だった。
PvPはマッチングという手段で、似たレベル帯のプレイヤー同士が戦えるようになっていた。そのマッチングはデュエルと呼ばれる決闘以外にも、一方的にインスタンスに敵として侵入され、襲われる、侵入プレイというPvPにも適用された。レベルを上げるとそれだけ複雑なビルドのプレイヤーが侵入してくる。その危険性を孕んでいた。
「なんだァ、その女! 痴女か! 痴女なのか! 何にせよ、いい女を連れてるじゃねえか!」
そのMNKという名の赤い人影は言った。
侵入されたのは分かった。警告が表示され、侵入者を倒すまではインスタンスから逃げられなくなる。普段なら待ち構えて不意打ちしたりするけれど、味方がいる場合は目立つこともあり、開けた場所で遊びながら堂々と待っていた方が良い場合もある。
ダイモンズソワレでは本来、プレイヤーの声なんて聞こえない。ましてや、敵として侵入してきたプレイヤーだ。まさかオレたちの前で立ち止まり、しばし動きを止めた後、そんなことを言ってくるとは思わなかった。
「彼女には手を出すな。ホストはオレだ。ホストが目的だろ」
「ヒーッハハ! それは昔の話だろ! 今はホストを
「なんだって!?」
本来はホストを倒せば侵入したプレイヤーは強制的に元の世界へ戻される仕様だった。
「ククッ、二人とも倒した後で言ってやるゼェ! 『見抜きいいですか?』ってナァ!」
この外道が!――とでも言えばいいんだろうか。何だか目の前の男の言葉選びが可笑しくて吹き出しそうになった。今の世代の冗談はよくわからんが、黙ってここで殺されてやるわけにはいかなかった。特にゼルネリカには触れさせない! 男の意地だ。
「オレがお前を殺るしか無いってことだな!」
「そういうこ――ふおっ!」
キランッ!――ゼルネリカから青い流星が飛ぶ!
キランッ! キランッ!――続けざまに流星を放つゼルネリカ!
「話してる最中に襲ってくるとはいい度胸だ! フンッフンッ!」
MNKはゼルネリカからの流星の魔法を左右に
ゼルネリカはといえば、全て躱される流星に、ますます必死になって杖を振る。そんな必死なゼルネリカをかわいいななんて思いながら眺めつつ、オレは何も無い場所へと移動。すると、くるりと前転してきたMNKの背中がちょうど目の前に。すかさず
「ギャアアアアア!」
MNKは強靭をあまり上げていなかったのか、それ一撃で沈んだ……。
「PvPをするのに強靭を上げてないって……。そもそも動きが雑すぎるだろ……」
レベルもまだ低いし、こんなもんかなと思っておいた。
「ノリト! 怖かった!」
「ああ、もう大丈夫だよ、ゼル」
相手が相手だったもので茶番のようにも感じられたが、ゼルネリカの怯えは本物だった。彼女を安心させるためにも、強く抱きしめておいた。
◇◇◇◇◇
アルルーナの拠点へ戻ると、珍しいことにヒロが座って胡坐をかいていた。
オレたちの姿を見かけたヒロは、すっくと立ちあがる。
「ノ、ノリト、後ろの女子……そんな装備どこで拾った!?」
硬い声でそう聞いてきたヒロ。
「オレもよく知らない。流行りだそうだ」
「こんな……こんな……こんなコンプライアンス違反な装備があったなんて……」
「気持ちはわかるがそこまでか?」
確かに最初こそ驚いたが、ゼルネリカが傍に居て幾らか見慣れてしまったし。かつて雨後の筍のように量産された昔の課金ゲームの過激さを思えば、そこまでの衣装では無かったはず。
「そこまでも何も……今のこのエロには厳しい時代にこんな際どい服、見つかったらSNSで叩かれまくるぞ! 組織的に叩く連中が居るんだ。昔存在したというR18コンテンツなんか今では闇でしか手に入らなくて、反社組織のシノギになってるくらいだ。知らないのか?
(世の中、そんなことになっているとは……)
「仕方がない、ゼル、他の服に――」
「待った! 待ったノリト! 俺はこの子の衣装、支持するぜ……」
「コンプライアンスは良いのか……」
「実装させたゲーム会社が叩かれるだけだしな。着るのは自由だろ。それにすごく……いい」
オレは兜の奥のヒロの視線――なんだか下の方を向いている――が気になり、そっとゼルの前に立ち位置を変えた。
「ところで君、お名前は? オレ、ヒロっていうんだけど、これから一緒にインスタンスでもどう?」
するとゼルネリカはオレの背中にくっつくように身を寄せてきた。
「彼女はゼルと言ってオレの恋人だ」
「恋人!? ノリトお前、恋人が居たのか! 恋人とゲームしてるなんてチクショウ! ダイモンズソワレは遊びじゃないんだぞ!」
「いや、ゼルとはここで出会った」
「出会い目的でダイモンズソワレをやりやがって……この……羨ましい! 俺が先に出会っていれば!」
(いや、お前は先に出会ったし、なんならゼルネリカを惨殺しただろ……)
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