リミテッド・ブレイブ
詣り猫(まいりねこ)
第1話・10年の悪夢
『トルラの町・シュタイン家』
月明かりしかない薄暗い部屋。少年がひとり、ベッドの上で背中を丸めていた。
(とっくに体の傷は消えているはずなのに、血が滲んでくる気がする。あのときの傷が復元された気がするんだ⋯⋯)
額にツノの生えた黒い犬が、ムシャムシャと『ヨーク・シュタイン』の両親を食べていく。それらを全部ペロリと食べきったあと、黒い犬はヨークの方に振り返り、鋭い牙をむき出しにして飛びかかってくる──
「うわあああ!……」
ヨークは、ベッドの上で震えていた。いつものことだ。夜になるとフラッシュバックする。10年間、毎日そんな夜を過ごしている。
故郷のティティル村が焼かれ、友人が殺され、家族が殺され、自分も死にかけたあの夜を、ヨークは忘れることができない。
魔物の群れ。それを率いる道化師。竜は火を吹いて家屋を焼き、ゴブリンが村人に噛みつき、ガーゴイルが槍で友人を串刺しにし、両親は犬の化物に殺された。
「助けて⋯⋯」
彼は暗い部屋で声を漏らし、1人救いを求めるが、救いなんてものは世界中どこに行ったってない。誰も、用意はしてくれないのだ。
だってそうだろう。彼は10年間もこうやって地獄の日々を送っているのだから。
◆
四方に分散した光の玉は、雲を突き抜け、高速で地上に落下していった。
「あ〜、クソ……やっちまったか……」
雲よりも遥か上空に位置する『天上界』──
天上界の神殿からその様子を眺めていた男は、瓢箪に入れた酒をひとくち喉に流し込み、まずは落ち着いた。
彼は清潔な白い衣を身に着けている。無頼な雰囲気を漂わせながらも、高貴さも兼ね備えていた。
彼こそは、調整神『リスティアーレス』
天上界に住まう神様の1人である。
「さすがに見て見ぬふりは出来ないしな……」
リスティアーレスはそう言って、その場で1回転した。彼の服装が変わった。
「まぁ、こんなもんだろう」
◆
「リルリルリルリル」と不思議な音が段々と大きくなり、近づいてくるのがヨークには分かった。
「何の音だろ?」
そう彼が呟いた刹那、ヨークの自宅の天井を、直径20センチほどの光の玉がすり抜けた。その瞬間、部屋中が閃光に包まれる。
眩しくて目を瞑ったヨークの頭上に、光の玉が落下した。
「うわああ⋯!!」
光の玉はヨークの体内に入り、中で広がって、浸透してから消えた。
「今の何だったんだ⋯⋯」
ヨークは自分の手足を確認したが、何事もない。ただ高揚感だけが残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます