第2話 町の記録(2)予定外の祭囃子
通院の帰りだった。
といっても、病気というほどのものではない。月に一度、決まった薬をもらうだけの習慣。体調がよくても悪くても、行く日になれば行く。
その日は、朝から重だるかった。
天気は悪くなかった気がする。傘を持っていたような気もするし、使わなかったような気もする。
バスはあまり混んでいなかった。
待合室で順番を待っている間、何度か眠りかけた。
名前を呼ばれてからは早かった。先生と短く言葉を交わし、薬の処方を確認して、会計。機械的な一連の流れ。
駅前の薬局で薬を受け取ると、時計は昼を少し過ぎていた。
帰り道、ふと、音が聞こえた。
笛と太鼓の音。
馴染みのある音だった。あれは、夏の祭りの時に流れる囃子だ。
最初は、空耳だと思った。
体がだるいせいで、何かの機械音をそう聞いたのかもしれない、と。
でも、少し歩いた先の交差点でも、まだ聞こえていた。風に流れてくるような、あの調子っぱずれの笛の音と、湿った太鼓の音。
私は足を止めた。
そのあたりは住宅と小さな商店が並んでいるだけで、人の気配も、祭りの雰囲気もなかった。
あれ、まだ祭りは――と、スマホを取り出して確認した。
やはり、日程は月末。今日ではない。
私はそのまま歩き続けた。
音は、どこからともなく聞こえ続けていた。
ふと、それが自分にしか聞こえていないのではないかという考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。
疲れているだけだ、と。
途中、コンビニに寄って、甘い飲み物を買った。
家に着く頃には、音はもう聞こえていなかった。
念のために、テレビとSNSを確認したが、近所で祭りのリハーサルをしていたという話はどこにも出ていなかった。
別に不思議なことではない。
風向きで、遠くの音が聞こえただけかもしれないし、近所の誰かが練習していたのかもしれない。
あるいは、そう聞こえただけの、まったく別の音だったのかもしれない。
それでも、あのとき確かに私は、祭囃子を聞いた。
予定外の音だった。
ただ、それだけの話だ。
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