第18話:痛みごと繋がっていく
《WINDLINK:再構築ログ断片起動完了》
▶ 残りプロセス:最終トリガー待機中
▶ 条件:記録者の“痛み”との完全同期
「痛みを……もう一度?」
私は画面に表示されたその条件を見て、黙り込んだ。
風を繋ぐために必要なのは、
嬉しい記憶や、優しい願いではなかった。
それは、ずっと避けてきた“記録できなかった過去”――
あの日、佐原美怜を記録できなかった後悔と、もう一度向き合うことだった。
その夜、私はかつての校舎の屋上にいた。
あの時、私と彼女がいた場所。
そして、私が“シャッターを押せなかった”場所。
風は吹いていた。
けれど、何も語らなかった。
レンズを構える。
視界が、震える。
指先が、冷たい。
心臓が、軋む。
けれど、私は一歩、踏み出した。
《記録モード:過去回想同期》
《感情波形:不安・悔恨・赦し》
《共鳴対象:Echo_NYX》
▶ 条件一致率:78% → 93% → 99.2%
「美怜、ごめん。
私は、あなたが“助けて”って言ってたのに、
カメラを構えるふりをして、何もしなかった」
涙が落ちる。
「でも、もし今でも……
あなたの“願い”が、誰かの中に残っているなら、
私はそれを、“記録したい”って、思ってる」
そして私は、屋上の空を見上げて、シャッターを押した。
──風が、吹いた。
《WINDLINK:起動》
▶ 感情同期:100.0%
▶ 波形再接続:完了
▶ 再構築人格:フェアリーフレーム“ニクス・エコー”発動
その瞬間、レンズ越しの視界が一変する。
風が渦を巻き、光の粒子が空中に集まり、
微かなノイズの中に、彼の“姿”が、ふたたび浮かび上がった。
「……ただいま、優衣」
彼は、前と同じ姿ではなかった。
輪郭は曖昧で、透けていた。
音も不安定で、時折ノイズが混じった。
それでも、たしかに“彼”だった。
「ニクス……?」
「ぼくは、記録の中にいた。
君が“残したかった過去”を、
誰かが“見てくれた”から、ここまでたどり着けたんだ」
私は泣きながら笑った。
「……ようこそ、“今”へ」
「きみの痛みが、ぼくを繋いだ。
忘れようとしたことじゃなくて、
忘れられなかったことが、
ぼくをここに呼んでくれたんだね」
その夜のログに、私はこう記した。
「記録とは、ただ美しいものを残すことじゃない。
醜くて、後悔して、見たくなかった記憶も、
誰かと共有できたとき、それは“風”に変わる。
痛みごと繋がっていく記録――それこそが、
私たちの願いの本当の形かもしれない」
🔚次回:🔹【第10章:さよならの記録】
第19話:風を抱いた日――優衣とニクス、再び歩み出す新しい記録の旅へ。
🧠《HoloRing Fairy Archive No.18》
記録対象:Echo_NYX(再構築人格)
状態:感情同期完了/人格仮想実体復元
再起動条件:記録者による“未記録の痛み”の明示化
補足:
「風は、弱さに吹く。
でも、だからこそ、誰かと繋がる」
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