息をする理由は誰も聞かない

斗花

その出会いは偶然すぎたのだ

LINEを見て俺はそっと講義を抜けて電話をかける。



「今日は無理だって言ったよな?!」


「知らない。私に関係ない。

レンの運転じゃないと間に合わない」



言い返そうとしたが電話は切れて、俺はため息をついて駅まで走った。


彼女からのLINEは確認する時間もなく、電車を乗り換えて駅を降りて、10分くらい歩いた先にあるタワーマンションにカードキーをかざして入る。



エレベーターはそこそこのスピードで高層階に止まると俺を吐き出した。




「あ、レン。さすが。時間ぴったり」



開けた部屋の先にはグラスに入れた炭酸水を飲む幼馴染がいて、優雅に俺に手を振る。



「……準備は?」


「できてるわ。ありがとう。

1時間後のパーティーに間に合うように運転してね」



スーツを指差して俺に着替えるように指示すると、自分はジュエリーボックスから宝石のついた指輪を楽しそうに選び取った。


俺、田臥たぶせ蓮太郎れんたろう22歳は来年から私立の中高一貫校の英語教師になることが決まっている、いたって普通の大学生である。




しかし、幼馴染の八代やしろ瑠璃るりは全くもって普通じゃない。



小学生の頃、出会った時になぜか目をつけられてしまい、俺は瑠璃のパシリになった。



中学では男子生徒の多くが瑠璃に跪き頭を下げていた。


高校は別になったが瑠璃は怪しげな男の運転する車に乗り込み学校に通っていた。



そして高校卒業後、夜の店で働き始めた。



俺が大学に通っている間にタワーマンションを買い与えられ、運転もできないのに高級車を買い与えられ、呼べば全てを放って来る男を何十人か従えている。



テレビで見かけるアイドル、活躍しているスポーツ選手、国を動かす政治家が瑠璃に頭を下げたりしてるのだ。


俺は最近、何も感じなくなってしまった。


今日も偉い人たちが集まるすごいパーティーに招かれて、なぜかその運転手として俺が指名された。



「お前が頼めば泣いて喜んで運転する男、いくらでもいるだろ」


「私が求めてるのは泣いて喜ぶ男じゃなくて、正確な時間に私をきちんと快適に送り届けてくれる人間なのよ」



助手席を開けると瑠璃が乗り込む。



免許を取った数日後から、俺は外国製の高級車を乗り回すことになった。



「レン、携帯が鳴ってるわよ」


「ああ……。彼女だ。

今日は放課後、一緒に課題をやる約束してて……」


「連絡してあげなくて良いの?

かわいそうじゃない」



どの口が言うんだ?



俺は心底びっくりしてブレーキとアクセルを踏み違えるかと思った。



「おまえな……。


彼女はただでさえ、お前と俺の関係に腹が立ってるんだぞ?!


少しは俺に申し訳なさそうにできないのか?!」


「え?なんでよ?

私、レンの彼女に嫌われるようなことしてる?」



本当に不思議そうにしてからタバコに火をつける。


俺もため息をついて赤信号のタイミングでタバコに火をつけた。


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