第6章『ポテチ英雄の日常と、忍び寄る新たな火種』

パート1: 英雄の目覚めとポテチ狂想曲アゲイン

「うーん……」

俺は、重い瞼をこじ開けた。窓から差し込む朝日がやけに眩しい。

王宮の一室。いつものベッドの上。そして、いつもの……うんざりする一日の始まりだ。


(はぁ…またこの時間が来たか…)


ここ数日、俺は「ポテチの英雄」として、王宮内でちょっとした有名人…いや、完全に祭り上げられている。

王女誘拐未遂事件を(意図せず)解決した立役者として、俺の評判は(勘違いの方向に)うなぎ登りだ。その結果、俺の部屋の前には、朝から見えない行列ができている。


もちろん、俺に会いたいわけじゃない。俺の生み出す『無限ポテチ』が目当てだ。

侍女たちが「今日の朝食のお供に…」と囁き、騎士たちが「一日の活力源に…」と期待し、文官たちまでもが「頭脳労働の前に…」と手を伸ばしてくる。


(俺はポテチ工場かよ…)


もはや日課となったポテチ供給。スキルを発動するのも億劫だが、やらないと面倒なことになるのは目に見えている。諦めの境地ってやつだ。

俺はのそりと起き上がり、とりあえず数種類のポテチを適当に用意する。うすしお、コンソメ、のり塩…定番のラインナップだ。これを部屋の前に置いておけば、いつの間にかなくなっている。便利なシステム(俺以外にとっては)だ。


ポテチを部屋の外に置いた、まさにその時だった。


コンコン!

「リクトー? 起きてるー?」

やけにテンションの高い声。エリザベスだ。


ガチャ。

ノックと同時に扉が開く。おい、プライバシーって知ってるか?


「おはよう、リクト! 今日の気分はどんな感じかしら? 新作ポテチとか、期待しちゃってもいいのよね?」

エリザベスは朝から元気いっぱいだ。その手には、当然のようにポテチを強請るオーラが満ち満ちている。


「おはようございます、リクト様! 昨夜はよくお眠りになれましたか? 今日もリクト様の聖なるポテチをいただけると、わたくし、とても嬉しいですわ!」

エリザベスの背後から、ひょっこりとセレスティアが顔を出す。その瞳は、俺(のポテチ)への期待でキラキラと輝いている。


「リクト殿、おはようございます。本日の警護も万全です。何かお望みのものは?」

そして、いつの間にか部屋の入り口に立っていたブリジット。相変わらずのポーカーフェイスだが、その視線はチラチラと俺の手元…ではなく、俺がポテチを出すであろう空間に向けられている。


(朝から勢揃いかよ…勘弁してくれ…)


俺の部屋は、いつからこいつらのモーニングコール会場になったんだ。


「ああ、おはよう…三人とも早いな」

俺は引きつった笑顔で答える。


「当然じゃない! リクトの一番は私なんだから!」

エリザベスが胸を張る。


「いいえ、エリザベス様。リクト様の一番近くでお仕えするのは、わたくしの役目ですわ」

セレスティアが一歩も引かない。


「…リクト殿の安全を確保するのが私の最優先事項だ。必然的に、最も近くにいることになる」

ブリジットが静かに主張する。


朝から始まった、俺を巡る(というより、俺のポテチを巡る)三つ巴の牽制合戦。

もう見慣れた光景だが、毎朝これだとさすがに疲れる。


「はいはい、ポテチな。今用意するから、ちょっと待ってろ」

俺はため息をつきながら、それぞれの好みに合わせたポテチをスキルで生成する。エリザベスには刺激的なコンソメ系、セレスティアには定番のうすしお、ブリジットにもやっぱりうすしお(本人は何も言わないが、これが一番好きらしい)。


「やったー! さすがリクトね!」

「ありがとうございます、リクト様! これで今日も一日頑張れますわ!」

「…感謝する」


三者三様にポテチを受け取り、早速パリポリと食べ始める。その満足そうな顔を見ていると、まあ、悪い気はしない…いや、やっぱり面倒くさい。


悪役志望だった俺が、なんで毎朝ヒロインにポテチを配ってるんだか。人生って、本当に何が起こるか分からないもんだ。


「それで、リクト。今日の予定は?」

ポテチを頬張りながら、エリザベスが聞いてくる。


「予定? 何もないけど…部屋でゴロゴロしてるつもりだ」

俺は正直に答える。これ以上面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。


「まあ、リクト様! それはいけませんわ! たまには外の空気を吸いませんと!」

セレスティアが心配そうに言う。


「ふむ。運動不足は良くない。軽く鍛錬でもするか? 私が付き合おう」

ブリジットが真顔で提案してくる。遠慮しときます。


「つまんないのー。せっかくだから、どこか面白いところにでも連れて行ってあげようと思ったのに」

エリザベスが唇を尖らせる。


(うわ…なんか嫌な予感しかしない…)

こいつらの言う「お出かけ」とか「面白いところ」ってのは、大抵ろくなことにならないのだ。


案の定、三人の視線が俺に集中する。

「ねえ、リクト?」

「リクト様?」

「リクト殿?」


その目は、期待と、有無を言わせぬ圧力に満ちていた。

俺の平穏な一日は、どうやら今日も朝から終わりを告げたらしい。


はぁ…と、今日何度目か分からないため息が、俺の口から漏れた。

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