パート7: 王女のお気に入り認定!?
「もっと寄越しなさい! 残り全部よ!」
王女エリザベスのポテチ要求は止まらない。しかし、その前に立ちはだかったのは、聖女セレスティアだった。
「なりません、王女殿下! それは聖騎士様が、わたくしたちのために作ってくださった大切な聖糧なのです! あなた様だけに独占させるわけにはまいりません!」
普段のおっとりとした様子からは想像もつかない強い口調で、セレスティアは一歩も引かずに王女を睨みつけている。美少女二人の間に、バチバチと激しい火花が散っているのが見えた。
(うわぁ…完全に俺、蚊帳の外じゃん…)
俺は二人の剣幕に完全に気圧され、ただオロオロするしかない。
(…ていうか、これだけ人気なら、普通にギルド前あたりで屋台でも出して売れば、一瞬で大儲けできるんじゃないか…? 追放された貧乏生活ともおさらばで…って、ダメダメ! 俺は何を考えてるんだ! 金に目が眩んでどうする! 俺には、そう、世界を裏から操る悪の黒幕的な…そういう野望が!)
自分の内心の俗物っぷりに若干の自己嫌悪を覚えつつも、俺は必死で当初の目的(?)を思い出す。しかし、そんな俺の葛藤などお構いなしに、事態は進んでいく。
エリザベスは、セレスティアの反論を鼻で笑い飛ばした。
「ふん。聖女様、あなたはこの男の本当の価値を分かっていないようね。こんな天上の味を生み出せる人物が、ただの『聖騎士』様なわけがないでしょう?」
まるで『お前にはまだ早い』と言わんばかりの口ぶりだ。そして、エリザベスは再び俺に向き直った。
「あなた、本当に面白いわ! …名前は、リクト、と言ったわね?」
俺は恐る恐る、こくりと頷いた。
「その…『ポテチ』とかいう菓子は、あなたのスキルで作っているの?」
その質問に、俺は一瞬言葉を詰まらせる。スキルであることは事実だが…。
「もしかして…無限に作れたりするのかしら?」
エリザベスの翠色の瞳が、期待にキラキラと輝いている。もう誤魔化すのは無理そうだ。
「ま、まあ…スキルなんで、材料とかは特に要らないですけど…。その、一応、無限、ってことになりますね…はい…」
俺がそう答えた瞬間。
エリザベスの目の輝きが、太陽のように眩しくなった。
「む、無限ですって!? まさか、本当に!? なんて素晴らしい! なんて偉大なスキルなの!」
彼女は感極まったように両手を打ち合わせ、歓喜の声を上げた。そして、次の瞬間、とんでもない爆弾発言を投下した。
「決めたわ! リクト! あなた、今日からわたくしの専属になりなさい!」
「は?」
「専属の…そうね、『専属ポテチ職人』よ!」
せんぞくぽてちしょくにん…?
なんだその間の抜けた役職名は!?
ギルド内が、今日一番のどよめきに包まれた。
「専属!? 王女殿下の!?」
「ポテチ職人ってなんだよ!?」
「でも、あの菓子が無限に食えるなら、確かに専属にする価値はあるかも…?」
「あの男、一体何者なんだ…」
冒険者たちの好奇と困惑の視線が、俺に突き刺さる。
そして、その宣言に最も激しく反応したのは、やはりセレスティアだった。
「そ、そんな! 専属だなんて、認めません!」
顔を真っ赤にして(あるいは蒼白にして?)、彼女は叫んだ。
「聖騎士様は、わたくしと一緒に旅をすると約束してくださったのです! 王女殿下であろうと、横取りは許しませんわ!」
「あらあら、聖女様が先約だったかしら? でも残念ね、王族の命令は絶対なのよ?」
エリザベスは余裕綽々といった表情で、セレスティアを挑発するように微笑む。
「むぅぅぅ……!」
セレスティアは悔しそうに唇を噛み締めているが、身分の差はいかんともしがたいようだ。
そして、次の瞬間。
俺は左右から、柔らかくも力強い力で腕を掴まれた。
「さあ、リクト! わたくしと城へ行くわよ!」(王女)
「聖騎士様! わたくしから離れないでくださいまし!」(聖女)
右には王女、左には聖女。
二人とも、俺の腕をがっちりと掴んで離さない。
(ちょ、待て! 待ってくれ! 専属とか、ポテチ職人とか、そういうのはいいから! 俺には! 俺にはな! 追放されたのを機に、世界征服とか! 魔王になるとか! そういう壮大な悪役計画があったんだって! 聞いてる!? 二人とも!)
俺の内心の悲痛な叫びは、もちろん誰の耳にも届かない。
王国の第一王女と聖女に同時に取り合われる(物理)という、訳の分からない状況。
俺のささやかな追放ライフと、壮大な悪役への道は、どうやら早くも終わりを告げようとしていた。
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