パート2: 聖女様と目覚めのポテチ(のり塩風味)

差し込む朝日で目が覚めた。

カーテンの隙間から差し込む光が、部屋の埃をキラキラと照らしている。


「ん……」


体を起こすと、軋んだベッドが小さく悲鳴を上げた。昨日の疲労はまだ残っているが、固い地面で寝るよりは遥かにマシだ。少なくとも、体中が痛むということはない。


ふと隣のベッドに目をやると、金色の髪を枕に散らしたセレスティアが、すうすうと穏やかな寝息を立てていた。無防備な寝顔は、聖女というより年相応の少女のものだ。


(……本当に、これからどうすっかな)


昨日の追放劇から聖女様との遭遇、宿探しまでの目まぐるしい一日を思い出し、俺は深くため息をついた。金はほとんど残っていない。おまけに聖女様には『ポテチの聖騎士』なんて勘違いされたままだ。悪役ムーブどころか、日々の生活すら危うい。


ぐぅぅぅぅ……。


情けない腹の虫の音に、俺は苦笑いした。

まずは腹ごしらえだ。行動するのはそれからでも遅くない。


俺は懐を探り、意識を集中させる。

『無限ポテチ』――今日の気分は、これだな。


シュルシュル…という軽い音と共に、銀色の袋が手のひらに現れる。描かれているのは、緑色の細かい粒がまぶされたポテトチップスのイラスト。『のり塩味』だ。


袋を開けると、途端に香ばしいジャガイモの匂いと、独特の磯の香りが部屋にふわりと広がった。我ながら、いい匂いだ。


「ん……ふぁ……?」


その匂いに誘われたのか、隣のベッドでセレスティアが身じろぎし、ゆっくりと目を開けた。寝ぼけ眼でくんくんと鼻を動かし、やがて匂いの発生源である俺の手元に気づくと、ぱちりと目を大きく見開いた。


「せ、聖騎士様! おはようございます! そ、それはもしや…!?」


跳ね起きる勢いで上半身を起こし、キラキラとした期待の眼差しを向けてくる。寝癖がついた金髪がぴょこんと跳ねているのが、少しだけ可愛らしい…なんて思ってる場合じゃない。


「ああ、おはよう。腹減ったからな」


俺は呆れ半分で言いながら、袋をセレスティアの方へ差し出した。

「ほら、食うか?」


「は、はい! いただきます!」


セレスティアは恭しく両手で袋を受け取ると、中から一枚、薄いポテチをつまみ上げた。緑色の粒々――青のりが付着したそれに、興味深そうな目を向けている。そして、おそるおそる、といった感じでそれを口に運んだ。


サクッ。


小気味良い音が部屋に響く。

次の瞬間、セレスティアの碧眼が、昨日以上の驚きで見開かれた。


「!!!!!」


声にならない叫び、とはこのことか。

彼女は口元を押さえ、感動に打ち震えるようにプルプルと体を震わせている。


「こ、これは……! なんてことでしょう…! 豊かな大地の恵みであるジャガイモの旨味に、この…清浄なる海の香りを纏った緑の粒々が、完璧な調和を…! 神々しいまでの味わいですわ!」


いや、だから青のりだって。


「食べると、体の奥から力が…聖なる力が満ちてくるようです! 昨日いただいた聖糧とはまた違う、爽やかで奥深い力が!」


プラシーボ効果、ここに極まれり。

俺のポテチにそんな効果はない。断じてない。だが、彼女は心の底からそう信じているらしい。


「聖騎士様…! このような素晴らしい聖糧を、毎日お作りになれるなんて…! やはりあなた様は、神に選ばれしお方…!」


キラキラした尊敬の眼差しが痛い。

セレスティアはそう言うと、再びポテチに手を伸ばし、夢中になって食べ始めた。サクサク、ポリポリという軽快な音が続く。その表情は、まさに至福といった感じで、見ているこっちまで少し幸せな気分に…いや、ならん。


「はぁ……」


俺はもう一度ため息をついた。

彼女の勘違いを解くのは諦めた方がよさそうだ。


(ま、美味そうに食ってくれるのは、悪い気はしない、か…?)


いやいや、それよりも現実問題だ。

セレスティアがポテチを堪能している間に、俺も数枚つまんで腹を満たす。うん、我ながら美味い。日本にいた頃を思い出すな…。


「さて、と」


ポテチを食べ終え、少しだけ気力が回復した俺は立ち上がった。


「今日のことを考えないとな。このままじゃ、宿代だって払えなくなる」


まずは金だ。金がないと何も始まらない。それには情報が必要だ。仕事とか、この世界の状況とか。


「行くか。冒険者ギルドに」


俺は窓の外、活気を取り戻し始めた王都の街並みを見ながら、そう呟いた。

聖女様(勘違い)とのギルド訪問。また面倒事が起こりそうな予感しかしなかったが、今はそれしか手がなかった。

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