第19話
今にも崩れそうな古書の上に手を置いて、ゆっくりと立ち上がる穴虫さん。「穴虫さん!」と強めに言っても、目を向けようとしてくれない。ますます怪しさが増す。
「やっぱり隠してますよね。白状してください。隠され続けるのも気持ち悪いんで」
僕は穴虫さんの進路を、両手を広げて塞ぐ。けれど、穴虫さんは僕の方へと確実に歩いてくる。
「菅野君、邪魔だ。のいてくれ」
「言うまでどきません」
僕は信念を曲げない。ちょっとやり方が子供っぽかったと思いつつも、今さら引けない。
ジクイムシが文字を齧る音がすぐ近くで聞こえる。多分、積まれている一冊目のところにいるはずだ。対処しなければ。そう思っていた時、穴虫さんは左手を古書の上に乗せた。ジクイムシが羽ばたく音がした。
「菅野君に隠してることなんてないよ」
「今まで散々嘘つかれてるんで、信じません」
「それは酷いなぁッハハハ」
「笑い事じゃいんすよ!」
僕は初めて、穴虫さんの前で声を荒らげた。だからか、穴虫さんは目を丸くする。
「僕はノジさんのことが心配なんすよ。どうして分かってくれないんすか!」
「……分からないわけじゃない。ただまぁ、色々とあるんだ。この歳にもなるとな」
穴虫さんの左手が僕の肩に触れる。あとでしっかり洗濯をしようと思った。
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