第33話『アリーナ・エル・ミンスローはもう大人なんです!』
悲しい事件があった。
とても、とても悲しい事件があった。
私が子供なのでは無いか。という疑いが生まれてしまった事件だ。
しかし、大人な私はあまり気にしない様に流してゆくのだった。
そして、落ち着いた心で地図を見つめて、魔力減少の謎について考えるのだった。
大人だから!
落ち着いて謎を解き明かすんだ!
「アリーナ。元気出して……」
「大丈夫です、私は落ち込んでなんていませんから。大丈夫です」
「そ、そう?」
何故か引いているエルフリアさんをそのままに、私はふぅと息を吐いて呼吸と気持ちを整えた。
そう。私は落ち着いているのだ。
そして、話を逸らす訳では無いけれど、皆さんから見える場所に地図を広げて、先ほど見つけた情報を共有するのだった。
「実はですね。先ほど発見した事がありまして」
「例のアリーナ様とエルフリア殿が調査しているという物ですか」
「はい。ミンスロー家の近くにある木々の魔力が通常よりも多く失われていて、それが原因でがけ崩れや家屋の倒壊などが起こっているのです」
「それは結構危ないですねぇ」
「そうですね。それで、魔力がどの様に失われているかを調べていたのですが……どうやら色々と見えてきたようです」
私は地図を広げながら、魔力の状態を全員に説明するべく指をさしながら口を開いた。
「まず、今回の魔力喪失現象についてですが、原因が二種類あると私は考えています」
「二種類?」
「はい。まずは以前エルフリアさんが仰ってくれた、魔物を食べる何者かの存在。この存在は街道や町などを移動し、その場所の魔力を無作為に奪っていると思われます。故に、例えばこの街道からこの村へ移動し、村の中を移動して、いくつかの木々から魔力を奪ってまた移動。という様な事をしていますね」
「なるほど……確かにその様な動きに見えますね」
「ここなんか、街の中で買い物をしている様に見えますもんね。出店を順番に見ていて」
「確かに。そうですね。出店を順番に見るというのもそうですが、何かしらの意図が感じられるような物であると思います」
「たしかにー」
一つ目の案は皆さん納得された様で、地図を見ながら何度も頷いている様だった。
流石はエルフリアさんの案だと思う。
そして、もう一つ。最近見つけた事を話して行こうと私は次なる話題へと移った。
「後、もう一つの原因。それは、魔力の消える現象が波紋の様に広がっているという事です」
「波紋?」
「そう。水に石を投げ入れた時に、石を中心にして、円が広がっていきますよね。その模様を波紋というのですが、それに似た現象が起こっているのです」
私はペンを取り出して、同じくらいの数字となっている場所を〇で囲んで、軽く線で繋いでいった。
そうすると、ミンスロー領からはみ出るくらいに大きな円形の一部が見える様になっていく。
しかもその円は外へ行けば行くほどに大きくなっていくのだ。
「これは……!」
「確かに波紋の様に……!」
「やはり、そう見えますか」
「えぇ、確かに見えますよ。円の全体は見えませんが、これは確かに波紋ですね」
「しかし、これでは円が大きすぎるのでは? ミンスロー領だけでは収まらないですよね?」
「はい。そうですね。私たちはミンスロー家だけで起こっている事かと思っていたのですが、もしかしたらもっと広い範囲で起こっている事象なのかもしれません」
そう。
そうなのだ。
私は彼らに伝えながらゴクリと唾を飲み込んだ。
私やお父様の考えではミンスロー家の近くで異変が起きている。もしかしたらその範囲が領地の端にまで影響を与えているのかもしれない。
なんて考えていたが、とんでもない。
エルフリアさんの転移で様々な場所を調べた結果、どうやらその範囲は私たちが考えていたよりもずっと広いと思われるのだ。
円の一部から全体像を想像すると、もしかしたら隣国の一部も影響を受けているかもしれない。
いや、そもそも私たちが観測できないもっと大きな円がある可能性もあるのだ。
そうなれば被害の範囲はもっとより大きなものになっていくだろう。
もしかしたら、全世界を巻き込んでいるかもしれないのだ。
「ねぇねぇ。アリーナ」
「はい。なんでしょうか。エルフリアさん」
「この円はさ。アリーナの家から離れると大きくなるんでしょ?」
「そうですね」
「じゃあ、逆の方はどうなってるの?」
「逆の方、ですか……?」
私はエルフリアさんの言葉を聞いてから周囲をスッと見回した。
カズヤさんやタツマさんと視線を合わせつつ、一緒に地図へと視線を落とす。
「これって、円が小さくなるほどに影響が大きいんでしょ?」
「そう、ですね……」
「じゃあさ。このもっと円が小さい場所って、どうなってるのかな……」
「どうなってるのかって」
私はエルフリアさんの細い指が辿っていく先に目を動かしてゆく。
私の家を通り過ぎた向こう側。
そこには何があっただろうか。
「ここは……エルフリアさんが住んでいた森が……あったはずです」
「うん。私も何となくそうじゃないかなって思ってた」
「では、森に何かが居る。という事でしょうか!」
「そうなるんじゃないかな。森の中に魔力を集めてる奴が居る……と思う」
「そう考えると、波紋とは別に動き回っている何かも、森から出てきた存在という可能性も……?」
「あると思う」
エルフリアさんがコクリと頷いて口にした言葉に、私はゴクリと唾を飲み込んで緊張に震える手を握りしめた。
魔力が何かしらの原因で喪失している現象。その原因を調べる様に言われた。
しかし、その原因を私はどこか天候や何かしらの自然現象の様に考えていた。
だが、どうやら、その原因には何かしらの意思が入り込んでいる可能性があるらしい。
「どうする? アリーナ」
「わ、私は……ひとまず、この件はお父様に報告するべきだと思います。私たちだけでは、対処が難しいと、思います」
私は震える声で、何とかエルフリアさんに今重要な事を告げた。
ドキドキと胸が高鳴る感覚がある。
何か間違えた事を言っていたらどうしようという様な気持ちもあった。
しかし、エルフリアさんはフッと笑うと、分かったよと言って私の手を握ってくれた。
私の不安をかき消すように。
そして、私に顔を近づけて来て、額をコツンと軽くぶつけて、言葉を紡いでくれる。
「大丈夫だよ。何があっても私はアリーナの味方だから」
「エルフリアさん……」
「怖い事は全部、私が倒しちゃうから!」
「ありがとうございます。私も、何かあったらエルフリアさんの為に戦いますね!」
「我も、お二人の為なら命をかけますぞ!」
「幼女の為に命をかける。当然の事でゴザルな!」
「カズヤさん。タツマさん……。ありがとうございます」
「いえいえ。幼女の為ならば、この命惜しくはありませんぞ!」
「そうそう。幼女の命と我らオッサンの命。比べるまでもありませんからな!」
「お二人とも……」
私はクスリと笑って、二人にハッキリと告げた。
どんな時にも曲げてはいけない大切な事実を。
「私は子供ではありません。大人です」
「もう! アリーナ、まだ言ってるの?」
「エルフリアさん。私は何度でも言いますよ。私は大人です! 子供ではありません!」
「でも、刀使えたでしょ?」
「それは……! そうかもしれませんが! でも! 見てください! ほら! 私がこの魔力喪失現象の原因を一部見つけたんですよ!? これは大人でないと出来ない事だったでしょう!」
「いや、でも、魔力を食べてるのが居るんじゃないの? って言った私も子供って扱いだったけど」
「エルフリアさんも大人なんです! そうに決まっています!」
「アリーナはメチャクチャだなぁ」
アハハと笑うエルフリアさんにも、ニコニコと微笑んでいるカズヤさんにもタツマさんにも、私はハッキリと告げた。
大切な事実を。
「私は大人です! アリーナ・エル・ミンスローはもう大人なんです!」
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