第31話 一見して馬鹿げていないアイデアは、見込みがない。

市ヶ谷司令部。永田町及び東京駅方面を教団に抑えられてはいるが、現在の日本の中枢の一つとも言える場所である。


ここには自衛隊の将クラスや政治家なども駐留している。総理は流石に前線となっているここではなくて都庁にいるそうだ。そっちが政治的な意味での中枢だろう。


しかしここには決定権を持つものも多くいる。電話もメールもなくリアルタイムの情報伝達が不可であるからだろう、ここで決まることも多い。特に軍事関連に関してはそうだ。役割を思い切って徹底的に分離し困難に当たるという事らしい。


俺たち齎した情報は、救出した部隊も知り得る範囲で後押ししてくれたこともあり。


現在のところ最重要の検討項目の一つとなっている。教団幹部の魔物化についてだ。


今迄は争ってるとは言え内戦的な感覚で、戦後のことを考えると殲滅などは取りづらく、交渉だって試みてた。


しかし人ではない相手かもしれない相手ともなれば対応だって替える必要があるだろう。それにこの先状況は悪化していく可能性だって大きいのだ。


「ここに来てから気付いたわ。それに、これも多分合ってる。久し振りの直感ね。紫。また新しい色を発見したことでね。

 私は勘違いしてたのね。青が味方、黄色、赤と敵意が増すのかと思ってたの。ダンジョンや魔物は敵意の塊だったというのも大きいけど」


「そうだな。俺も勘違いしていたよ。黄色と青が敵意の有無。だからその中間が緑。そして青が人間、というか魔物とかの魔力的な存在ではないもの。

 赤が魔力的な存在。紫はその中間か。人間から魔物への過渡期ってことかもしれない。すぐにはそんな存在は現れないだろうし、思い込まされたな」


「でもそうすると、私たちもいずれは赤に変わっていくということですか? 少しずつ力が強くなっていって、いずれはってことになるんでしょうか?」


「どうだろうな。しかし単純に力だけでもないと思うぜ、浅井は強かったが俺たちと比べて圧倒的に意志の力が上だったって訳じゃない。

 装備や戦い方の工夫が大きかったろ。それなら俺たちも既に紫くらいにはなってるんじゃないか? 少なくとも二つの指標。

 この場合は人類への敵意と意志の力などの魔力的要素の深化。これを満たして魔物化していくんだと思うが」


今回新しく知ったように、まだ知らない指標があるのかもしれないがな。どっちにしろ分からないことだらけで、推論のなかで動くしかないわけで。


大事なことはこれからどう動くか。


幸いにしてここ司令部でも俺たちはすんなりと受け入れられた。陳情書による一定の信頼と、先の戦闘による信頼と。


異変後の世界においては実績は十分にあるわけで、能力もそうだが実績ってのは大きいよな。


お陰で旧体制側が持ってた情報も色々と貰えたし、協力体制のなかで新しい検証もできたし。


俺たちが市ヶ谷に来てから一週間。情報のすり合わせと共同演習を兼ねたダンジョンアタック、江戸城攻略に向けた準備など。


色々なことが出来た。もともと今の体制は割と柔軟性が高い。


やることが多く緊急性も高いものが多く。また前例のないことばかりの状況のなかで、教団側に古い体質の者が多く流れたこともあって。規律を維持し流動性も確保しているという異変前の日本では考えられないような先進的な指導体制が築かれていたのだ。脅威を前にした時の日本人の団結力って凄いのかもな。


教団のような例外だって勿論いるわけだが、旧体制側は至極真っ当で、俺たちにとっては非常にたすかるそんざいとなったわけだ。


体制側にとって一番に優先することは国民の安全だった。だから避難所の安全度を高めるために人員を割いて周囲の巡回などを行っているし、流石首都東京というだけあって様々な備蓄も各所にあった。それを分配していく作業など。


軍関係者や行政担当者、その他人材に関しては地方とは比べ物にならないほど潤沢であったため他で見てきたよりもここは順調だったらしい。


もっとも、そこから地方へとその手を広げていくことに関してはなかなかに難儀したようだが。車や電車などの移動手段が無いからな。人の足でフォローしきれる範囲はそこまでもなかったのだ。日帰り出来ない範囲はある程度足元が固まらないと危険の大きいと判断されたのだ。


そして新たな脅威であるダンジョンと魔物の研究に、秩序を乱す教団との争いと。

それぞれに人員を割いたがそれは最小限となった、ダンジョンは本当に極少数で細々と攻略を進め。対教団では前線を構築し守勢を保った。


しかし俺たちの来訪で潮目は変わった。いや、元々変わりかけていた潮目がはっきりと認識されたというべきか。


ある程度の範囲の安全の確保が終了したことと、教団も放置できない存在になってきたことで。


旧体制の優先順位が変わり教団への対応が重要視されるようになってきたのだ、


先だって新たに対教団の部隊を設立し、そこに俺たちも協力することになり。この一週間は毎日複数のダンジョンを彼らとともにに攻略した、


意志の力を使ってくる奴らを相手にダンジョン産の装備も十分韻確保し、また司令部全体でもある作戦を立案。


異変から2カ月が経とうとしている今、ようやく反攻の準備が整った、と言えるんじゃないだろうか。


「最上君、色々と助かったよ。我々もダンジョンのことに関してはなかなか手を付けることが出来てなかったからな。

 しかしいざコッチを進めてみれば順調じゃないか。昨日の教団との遭遇戦でも以前よりもずっと上手く戦えたしな。」


「竹田さん。そうは言っても混乱の最中に全く新しいことに手を出すってのは難しいでしょう。まずは過去の常識に合わせて避難を優先。それから順次脅威に対抗していくのは仕方がないのでは? 私たちは他に背負うものが無かったからダンジョンを知ることが出来たわけですし」


「そうは言っても君たちは一つの避難所に大きく貢献したはずだ。そうでなければ陳情書を託されるとは思えん。その実績は、ここでの信頼を高めたのだ。私もそうだがね。そして今の状況を作り出してくれた。君たちのこれまでの行動は間違ってなかったということだ。誇ってくれていい」


「ありがとうございます。あなた方の行動だって同じです。もっと東京が混乱してしまっていてはこうは動けなかったでしょう。流石は日本が誇る自衛隊です。目の前で感じて、改めてその思いを深めました」


「お互いににやるべきことをやった結果だろう、しかしいろんな人間がいることも確か。やらないべきことをやる奴らも目の前にいるしな。

 しかし、それも明日だ。明日で一気に日本を復興への道へと舵を切れるようにしたいものだ」


「いよいよですか。対教団の作戦の実行」


「ああ、ハツヒノデ作戦は明日決行と決まった。明日は早いぞ。今日はもう休み給え」


教団との決戦を想定した作戦である。


決戦と言うからには敵の撃滅を目的としており、かつ短期間での終了も目標としている。敵の本拠は目と鼻の先であり、規模だってまだ大きくない。今なら可能だろう、そのための一週間だったのだ。


俺たちもそれぞれ役割がある。絶対にミスれない役割がな。


「いよいよなのね。これが片付けば私たちの目標、ダンジョンの最下層を目指せるわけだけど」


「ダンジョンの攻略だけならまだ気が楽だったんだけどねー。でも、ここを超えないと落ち着いてダンジョンにいけないし。

 僕たちだって世界を元に戻してはいおしまい、じゃないもんね。元に戻したらすでに人類絶滅じゃ、バッドエンドだもんね」


「私は、ハッピーエンドが好きなんです。だから皆さん頑張りましょう。私も、頑張りますから」


「そうだな。短い間だったけどここまで目一杯頑張ってきたわけだしな、今までの人生全部より頑張った気がするよ。

 それが報われるためにも、明日の作戦の成功を祈ろう。それで終わりじゃないが、一つの区切りにはなるはずだ」


俺も仲間たちも覚悟は出来てる、決戦は、明日だ――

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