第23話 過去から学び、今日のために生き、未来に対して希望をもつ。

草木も眠る丑三つ時。だったかな。確かに草木も眠るわ。


電気のあった世界、つい1カ月も前であれば。この時間でも多少の光はあるところが多かったし、家の中は照明が普通にあった。


蝋燭なり他の明かりが無いわけじゃないが、少なくとも外は暗い。人類は夜を思い出したのだ。月の無い日はなんとやら。夜襲するには絶好の夜だぞ?



「来たわ雅人。人数は、27人。全員黄色よ。向こうは一人だけ残して全員での行動みたいね。方針を変えたかしら?」


「この拠点が夢の国にでも見えたのかもな。ただ快適なだけなんだがね、避難所と比べてだが。あいつらなんでもかんでもブルジョア認定するんかね」


「さあ、彼らの考えることはよく分からないわ。とにかく、分散される前にやるわよ」


「だな。―八百万の神よ」



俺が祈りとともに意志の力を発動させればこちらに向かってきた集団は全員が転倒しそのまま地面に縫い付けられる。


夜の闇はお前らじゃなくこっちに有利だったようだな。先制であっさり行けたか。


まだ奴らの目的地であった自宅は遠い。避難所とのあいだで進行ルートになりそうなところ数か所を迎撃ポイントとしていた俺たちはそのうちの一つにいた。


そしていくら慎重に歩を進めていたとはいえ突然思いもかけず身体を重たくされれば普通の人間はこうなる。


多少は普通じゃないのかもしれないがダンジョンアタックを繰り返して俺の力だって増している。お前らじゃ相手になら―


「何をした! くそっ、見えない。こちらを見られている? なら!」


一人だけ立ち上がって来るやつがいるな。どういう理屈だ?俺の力が通じていない?


「同士! 借りるぞ!? 喰らえっ!」


ってこいつイカレてんのか?火炎瓶投げつけてきやがった!?


まぁ向こうも碌に見えてない以上は当たりはしないがそれでも住宅街で火炎瓶とは。冬だぞ?火の用心しろよ。


明かりを確保したかったんだろうが滅茶苦茶だろ。まだ使えるもんがあるかもしれないというのに。燃やすのは勿体ない。


「ちょっとびっくりしたわね。でも、いくわよ」


予定通り遥香がバカでかい網を集団に向けて放り投げる。広がればかなりの範囲となるが一人暴れている奴はそこから離れ難を逃れる。


対人用の、動きを制限する網だ。これで重力から解放されても大概は無力化出来るだろう。後はコイツ、村上か。


村上を俺が引き連れている間に遥香が一人ずつ確実に動きを封じて行けばいい。


「なあ村上さん、ここ数日で何があった? あの時はそこまで思いつめていなかったんじゃないか?」


「私は変わっていない! あの避難所はこんな状況でも格差を作って! なぜ平等に仕事を与えない? なぜ平等に分け与えない?」


「んなこと聞いてないんだが、まあいい。思想に興味はないし話にもならなそうだし。それよりどうして俺たちを?」


「貴様らこそ、なぜ避難所の人々に分け与えず自分たちがいい思いをしようとするんだ? ダンジョン産のアイテムを独占する? 武器類を提供しないのはなぜだ? いずれ支配するためか? なら、ここで撃つ」


拳銃を構えバッキバキの目で睨んでくるなよ普通に怖い。両手を上げて村上に見せつつハンドサイン。遥香は少し待っていてくれ。


「独占はしていないんだが、信じないだろうな。それと平等というならそうだな。先にそこに寝ている人たちと同じようにあなたも寝そべっては?」


「ふざけるな! 貴様の妙な力でこうしたんだろうが! だがそれは私には通じない。私は、貴様と平等に、対等な条件で戦える」


うーん、相変わらず意志の力は曖昧でよく分からん。俺たちもそうだったからなぁ。雫くらいだ分かりやすかったのは。


要するにアレか?自身に降りかかる他者の力を無効化できると。逆に海斗の診断してなくて良かったかもだな。混乱するところだった


地力勝負か、それはごめん被りたいところなんだが。


情報によるとコイツ射撃競技で強化選手になるレベルのアスリートだったはず。ショッピングモールでも真田と組んで前線だったし。


ま、俺も前線だったんだぜ?張り子の虎の拳銃よりこっちの方がリーチが長い。


「撃てないとでも思っているのか? コレは特別製の弾だ、撃てるんだよっ!」


パーンという軽い音を発して銃弾が放たれる。


マジかよ!?銃火器は使えないはずじゃ―


「普通の弾丸は撃てない。だが同士の調合した旧来の火薬を使用したこれなら、撃てる。そして私の射撃の腕は日本でもトップクラス!」



あっそ。それなら安心したぜ。


銃弾は俺に向かって真っすぐと飛んできて胸を正確に撃ち―


そして地面に落ちる。ちょっと衝撃は強かったがここは我慢だ。


「はあっ!? どうー」


「最新の弾が使えない代わりに相当に威力を落とした弾丸なら使用可能な訳ね、そんな研究するくらいなら他に労力使えよ。平等とか言うんなら、それこそ奉仕活動でもしてればいいだろ、っと!」


俺は警察とも連携してるんだぜ。威力落とした弾丸が最新の防弾チョッキ抜けるわけないだろ、痛いは痛いけど。


そして素早く近づいて思いっきりすねを蹴りぬく。重量を増した安全靴えぐいな。


「…ッぐッ、う…」


呆けてるからだよ村上。手を捻り上げて拳銃を地面に堕とした所で余りの痛みからから村上は意識を失う。


ちょっとやりすぎたかもだが死にはしないだろ。雫が助けてくれるさ。その後は知らんけど。そして―


「ッぐッ!? な、何故?」


何故じゃねーよ、と格好つけたいが村上が自ら能力を明かしてなければ分からなかったかもしれない。


村上が能力を自身に向けられた力を無効化するなら遥香の目も掻い潜っていたわけだ。で、拠点に一人残っていた?違う、村上の分のカウントが抜けただけだ。


上手い事離れて様子を見てたんだろうが本当に安全な場所を見つけるのが上手いんだな馬場。遥香の全力の蹴りは痛かろう。うずくまってろ。


お前はあの時から黄色かったもんなあ。お前がいなきゃもっと真田達と協力することも出来たんだが。


出来れば聞きたいこともあるが大体のことは分かってるし、死んだらそれまで、完全に無力化させてもらうぞ。


馬場へ向けて先ほど村上が落とした拳銃を向ける


「ま、待ってくれ。話す。全部話す。いくら何でも勝手に人を殺すなんて無茶だ!」


「内乱罪は元から重罪、収監施設がない以上は死刑で文句は出ないはずだろ? 市長にも真田にも言われている」


そう言っただけで恐怖で失神する馬場、せめて気は強くあってくれよ。首謀者だろ?


話してくれる分にはありがたいがその後は決まってるぞ? 真田の覚悟は本物だったからな。


ま、俺たちは見届ける気もない。これでお役目終了。次は、東京だ。


――――――――◇◇―――――――――――――――――


「しっかし早かったですな。何もあんなにちゃっちゃと動く必要があるのかよ、もう少し親睦を深めるなりなんなり出来ないもんかね」


「いずれ出て行くつもりの者とあまり親睦を深めても仕方ないでしょう。能力も相まって増々離れがたくなるとおもいます」


「離れなきゃいい。問題は片付いたとはいえまだまだ彼らは必要だったのでは?」


「真田さん、私は陳情書を彼に託した。その意味が分かりますか?」


「そりゃあいつらへの約束だったし。あいつらにとっては必要だったんだろ。ただすぐに東京に向かわなくても良かったっていう話だ」


「いえ、行ってくれた方がいい。あれは市として国への支援を要請するもの。それを市は失った、今後は独立独歩でなんとかする、という私の意志です。

 大きな問題は解決し、これからの生活の道筋もついた。次は市としての機能を取り戻すためのシステム作りの段階です。

 そこで彼らに頼っては俗人性が高くなりすぎる。あれに慣れたらそれは毒にもなり得るんですよ。大変だろうがこれからは私たちで何とかしないといけないんです。

真田さんには、期待していますよ」


馬場が捕縛され避難所内の大きな火種は消えた。多くの避難民が知らないうちに。


市長は反乱分子の活動を掴んでいたが、出来れば避難所内での大きな騒ぎにはしたくなかった。不安を更に煽ってしまうからだ。


そうすればこの反乱は収まっても次の火種が生まれかねない。多くの人が集まって生活している以上、避けられないことかもしれないが現状ではそのリスクは最小限に抑えたい。


そこに雅人たちの助けを得れた。そしてここまでの流れの通りに追い詰め、暴発させ、内々に処理することが出来た。


ダンジョンの攻略も旧警察組織を中心に避難所の人員でも少しずつ可能になってきている。少なくとも水と食料はギリギリ自給できる見積もりだ。


そうなればここからは継続可能な都市機能、現代のそれではなく過去の時代の。人々が生活圏を確保するための機能を作っていく段階となる。


継続可能という点で雅人たちの協力は必要が無く、また雅人たちの真の目的までは知らないが、その強い意志は伝わっている。


義理を果たすべきだ。と市長は考えたのである。


市内は安全性が高い区域を居住区としていくだろう。治安維持と魔物対策の巡回部隊も用意されていくだろう。


安全が確保されて来れば農業も再開されるかもしれない。少しずつ仕事も生まれるかもしれない。


現代の領主となった市長と、現代の憲兵隊長兼ギルドマスターとなった真田、その他にも役人や医師など。避難民たちだって協力を惜しまないだろう。


そして官民一体となってここに現代の都市国家を再建していける、かもしれない。


例え電気や文明の利器を失っても。文明を築いてきた人類の英知そのものは彼らの中に残っているのだから。


ふと東京方面を見やり、僅かな期間とは言え戦友のように思える彼らのこれからに思いを馳せる市長―


北条保正の目には穏やかながら強き意志の光が宿っていた――



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