第21話 人類は、客観的真実を見出すことに、高い道徳基準と価値を置く


「――という訳で昨日は散々だったわけです市長。もう少し詳しくお話して頂ければ準備お出来たんですがね。必要に応じた情報共有も含めて。真田さんから聞いているでしょう? ここまでしたんです。もういいんじゃないですか。それともこれ以上にミッションが必要なんですかね、その報酬に」


「正直に言えば分からない、だ。私の出せる報酬が、君が欲しがった報酬がどの程度の価値を持つかは、東京の現状が分からない今は何とも言えない。ハッキリ言おう。場合によっては紙切れだよ」


「それは話を受けた時点で納得してます。最悪紙切れ同然ってことについては。私が聞きたいのは効力を発揮した場合、どの程度の価値があるのか。そしてその場合の対価を、はっきりと示してもらいたい、ということです。この一週間は、信頼関係の構築に足りませんでしたかね?」


「十分すぎるほどに足りている。言われなくても今日はその話をするつもりだったよ。信じる信じないは任せるがね。

 そして対価については当初の想定では十分とも言える。だが、欲が出ているのも確かだ、無論私欲ではないよ。真田さん入ってください」



俺が求めた報酬は、政令指定都市に満たない市町村では1枚しかない紙切れ。しかし場合によっては大きな手札になり得る紙切れだ。


そして場合によってはその名の通り紙切れとしてしか役に立たない。紙の価値はまだまだ高くないしな。


戦時1級特殊陳情書。


異変が起こっていない場合であれば、一般人が手にすることは絶対にない書類。絶対に、だ。これは、戦争関連の被害、それも超大型災害級の被害を戦争に起因して市町村が受けた場合に緊急支援を受けるための物。


地方自治体から国へと支援―自衛隊の出動要請を含めた―を求めるもの。あの日、開戦していたことからその発行権を市長は持っているのだ。


そして俺たちが何故この紙切れを欲しているかについてだが。俺たちの目的地が東京にあるから。


ダンジョンの反応に絞ることでその捜索範囲を広げた遥香の目によって、関東圏で最大濃度の赤に染まった場所が判明したから。


郵便番号100-0001 東京都千代田区千代田 


江戸城だ。


恐らくはダンジョン化している江戸城こそ。日本から伸びるホワイトへの道、と俺たちは考えている。


そして軍などが厳重管理していることも考えられる。だが市の特使的な役割を持てたなら。余計なトラブルや軋轢を回避することだってできるし、場合によっては江戸城へのパスポートにもなり得る。


俺たちの情報の対価としては足りなかった。少し聞いただけでも俺だって足りないと思う。そこで追加の依頼を受けた。


避難所の安定、つまりは特殊陳情書が必要ないくらい安全な状態に持っていくこと。それに協力すること。


ダンジョン攻略、周辺探索、先日の護衛任務等々がそれにあたる。


しかしだ。安定と言ったって何を持って安定とするかは非常に難しい。災害でさえ、その議論には時間がかかる。


ここで長く過ごすつもりはない。出来ることなら最速でホワイトの元へたどり着きたい。後はその交渉だがー


「あんな便利な力があるなら教えて欲しかったところだが、俺たちもすべてを話してなかった訳だしお相子だな。だが、これからは違うんだろう? ショッピングモールを占拠してたやつらからの事情聴取では分からんことも多くてな。協力してちゃっちゃと片づけて、それぞれの仕事に集中できるようにしちまおうぜ」


「事情聴取? 尋問の間違いじゃ? 俺たちも鎮圧に協力していたというのに海斗を見て縋るような目つきでしたよ彼ら」


「警察が調書を取ってんだ事情聴取だろ? あんたがこの非常事態にそんなこと気にするタマかよ」


「ほどほどにしてくださいね真田さん。さて、それじゃあ今後のことだが―」


「一週間です。具体的な内容で指定されては困るので、期間で決めましょう。その代わりその間は全面的に指揮下に入ります。それで如何です? 最悪は報酬を諦めてここを離れる選択肢もありますが、折角ですし出来れば協力したい。」


本人は一介の市長などと言うが十分に立派な政治家と。警察組織のなかで上位の職位をもっていたであろう真田。こいつら相手にサラリーマンだった俺が交渉するのは厳しい。特定の交渉ならウチのチームは最強なんだが折衝となるとどうしてもな。 


なので先に切り札切って要望を押し付ける。陳情書の価値に保証があればその限りじゃないがな。


報酬さえ蹴れば立場ははっきり言ってこっちが上。避難所に頼る必要がないからな。それに向こうでの行動を短縮するためにこっちで長居じゃ本末転倒だ。


まぁ人道的な面で気後れはするが、それは本来の俺の役目じゃない。情報提供と、各種物資の提供。一般人としての使命は果たしただろ。


「これまでに最上君には貴重な情報の提供と探索の協力、ダンジョン産アイテムの奉納などなど。様々な功績がある。そしてそれをもとに陳情書を託す理由とするわけだ。だが国ってのは機能してたとしたらなかなか厄介なところでね。

 一地方自治体の陳情などそもそも普通は通らない。戦争関連で実際に敵国の攻撃があったなら別だがね。それに等しい被害か、もしくは陳情書が当面必要なくなった、そのため功績を持ってより必要な者に託した。

 緊急事態につき首長の判断としてそうした。それを尊重して欲しい、と記載したいんだ。それでも国がどう対応するかは分からないんだ。

 向こうの状況が分からないのも厳しい。そしてこの陳情書に流石に嘘は書けない。なので君たちには大きな功績が必要となる。それは異変前の基準でもって、だ。

 ダンジョン産アイテムに関しては緊急時の寄付扱いにされかねん。価値の鑑定などできない、適当に値を付けられる可能性だってある。君にとっては厄介な政治家である私が子ども扱いされる魔境、それが永田町なのだよ」


「その辺のことは詳しく知らねぇがお上のアタマが堅いってことは俺にも分かる。せめて警察からも感状が出せるくらいの功績は欲しいところだろうな」


「2週間。それだけくれないか? 警察及び消防や職員たちへのダンジョンの指導と対魔物のレクチャー。それと力の情報をもう少し詳しく。出来れば発現条件なども知り得る範囲で教えて欲しい。こちらも協力する。それと、もう一つ。気づいているかもしれないが、避難所最大の問題に対しての協力。

 本来であれば一般人に要請する内容ではないが、真田さんからの情報をもとに必要だと私が判断した。そして進捗によっては短縮もありだ。延長はしないと約束しよう。多少の誇張は政治の世界では普通にあるのだからね」


なるほど政治の世界ってのは怖いもんだね。それに、この状況でも慣習からは抜け出せないのが役人ってやつなんだろう。


市長や真田は柔軟な対応も出来るんだろうが、相手のことを知っている市長からの、これは忠告でもあるんだろう。


活動内容もだがその期間も、きっと必要なんじゃないだろうか。そこに基準はないけれど。政治のことは市長に任せた方がいい。


これが悪意からきているセリフ出ないことは確かだろうしな。そもそも一週間という俺の提案自体、大した根拠はない。


異変が11月下旬。それから2週間経ったのが今。気にかけているのは雪。


年が明けてからの方が雪のリスクは高いと思ってのっ提案だったこともある。異変後の天候も読めない


ならここで妥協だな。それよりは、最大の問題ね。そりゃ気付いてるよね。この人達は優秀な訳だし。


俺たちが知ってるのは能力だよりな訳で。ただ能力を知られたら、俺たちだって気付いてることも察すると。


そして、この問題はまさに特定条件下の交渉力が必要。再び能力全快で対応か。


対応自体は出来るだろうが今度その目を欺きたいのはショッピングモールの時と違いあまりにも多数。避難所全体の目を欺くか、それとも。


俺の無い頭で知恵を絞るよりは早めに仲間と話し合うか。ココまで来れば市長と真田にも頼ろう。


東京へ向けての最後のミッション。コレをクリアしていくための算段を、立てていくとしますか。

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