第18話 何かを学ぶためには、自分で体験する以上にいい方法はない

世紀末もかくやというショッピングモールがハッキリと肉眼で見える範囲になってきた。すでに同行者も気付いているだろう。というか事前にこの状況を知っていたのかもしれない。


ま、これくらいはいいぜ。お互いに信用しきってるわけじゃないもんな市長?


ショッピングモールには大体200人くらいが籠っているようだ。そしてそのうちの20人程度が黄色反応。


性能が上がった遥香の目には、建物内部の様子もある程度は見えている。それによるとショッピングモール内でもいくつかの集団に分かれている様子だ。


東側にスーパー、中央部にフードコート、西側は映画館と輸入雑貨店があったか?


コレはアレだな。内部も一枚岩じゃないだろ。スーパー部分が一番多く総数の半分以上はそこにいる。


フードコート部分はごく少数。残りが映画館か。


そりゃ交渉も難儀するはずだ。なんせ向こうさんの誰と交渉したらいいのかすら決まってない。


他にも色々と想定できるな、これはシンプルな問題じゃない。と思うんだが、交渉役はどう判断するかね。


「見えてきたな。馬場、まずはメガホンで問いかけようと思うがどうだ?」


「真田隊長、それだと以前と同じ結果になります。聞く耳持たずでこっちが声を出し疲れて撤退、の流れをなぞりますよ」


「そうは言ってもなぁ。他にどうするってんだ」


「それより隊長、前回と比べてどうですか?やっぱり彼ら、意思統一が図れていませんか?」


「取れてないだろうな。折角分散して警備の真似事してるが皆こっち見てんじゃねぇか。それぞれで警護してんだろうな。

 それに、あいつら同士の監視については視線が切れてない。こっちよりお互いを警戒してる様子が見え見えだ」


「ですよね。そうなると結局、私の出番じゃないですよ。交渉の段階ではないです」


「だが放置も出来ない。いや別にウチの避難所が困るわけじゃない。この人らのお陰で水にも余裕が生まれたしな。食料もだ。

 それよりも心配なのは、ココにいる善良であろう人々の方だ。一応はほれ、助けがありますよ、と。見せておかないとな。いずれ内部崩壊して生き延びた少数が合流した時、スムーズにいくだろ?」


「言い過ぎです隊長!出来れば、救う。その方向のはずですよ!?」


「そう言うな村上、俺だって救えるなら救いてぇよ、でもな、この状況じゃ有効な手段はない。いや、あるっちゃあるが、それはもっとお前好みじゃねぇぞ」


内輪もめは済ましておいてくれよ。と言いたくなるが仕方ない部分もあるだろうな。村上ってのは見る限りまだ若い女性だ、


使命感や正義感もあるんだろう。それにこの状況ならそれらの感情が過剰になっても仕方ない。メシアンコンプレックスだっけか?


困ってる人の前でなんとかしなくちゃ!と強く思っちまうあれみたいなもんだ。


「雅人。あなたならどうする? 参考までに聞いてみたいわ」


「僕も気になるかな。最上さんの考え。なんか思いついてる顔してるよ」


「どうするかって言われると難しいな。まず状況を解決した方がいいのかどうかすら分からん。いや市役所がどう考えてるかと言った方がいいか。

 その上で、だ。解決したいんなら手段はいくつかあるが、どれも民主的な方法じゃないからなぁ」


「民主的な方法じゃないなら何とか出来るってことですか?私には、ちょっと思いつきませんけど」


雫はそうだろうな。海斗も多分そうだ。遥香は分からん。どこまで割り切れるか、もしくは諦められるか。


「簡単な手段ではアイツら、アイツらってのは世紀末君たちだが、支配層となってしまってる奴らを締める。で、その他の人達を避難所に誘導する。

 それで世紀末君たちをどうするかは僅かに残ってる司法関係者や市長なりが決めればいい。それで一応は解決だ」


「一応、ってことはそれも問題アリってことかしら? 私にはそれでいいと感じられるんだけど」


「私も、それでも仕方がないのかなって、思います。暴力で抑圧してたみたいですし、多少の報いは仕方がないかと」


この施設を開放するだけなら問題ないんだけどな。人間ってのはそれだけじゃない。


「僕はちょっと分かるかも。それで救われた人たちは、殆んどの人はありがとうって思うよね。でも違う人もいると思う。

 行政が暴力的になった、とか。結局は暴力で解決か、みたいな。合流後のしこりになるかもしれないよね。

 今だって、避難所に火種は燻ってるみたいだし。余計な不安は増やしたくないよね。寧ろ放置でもいいんじゃないかって思っちゃうよ」


なるほど。遥香と雫はこの世界でも前の世界の枠で罪を犯せば罰は仕方ないと、恐らく相当な目にあってもココは割り切れるんだろう。


海斗はどちらかというと避難所の問題に対しての心配。集団の心理に対して楽観をしていないからこその発想だと思う。


「因みに私は、魔物を誘導してくるのがいいと思ってるわ。どうせこのモールに籠って対して戦ってないでしょ世紀末君たちも。それに魔物の襲撃から守りつつの解放なら。海斗の言う問題も少ないと思うのよ」


いや遥香は相当に割り切ってたな。モンスタートレインがばれずに実行できるなら俺もその案を採用したいくらいだ。


だが実際には出来ない。調教の意志とかが必要かな?いやそれなんかやだな。動物と触れ合う意志とかならいいか?


まあそんな、今ない手段を考えても仕方がないな。魔物の襲撃が運よくあればいいが、俺たちは誘導したとして、ばれない自信は全くないわけで。


それに、そんなこと考えてると街中に出ない強い魔物が出かねん。フラグってのは恐ろしいものだからな。言霊に近いものを感じるぜ?


それに結局は、だ。俺たちがどう考えようと市役所側の意思が決まらなければ行動は出来ない。真田は相当に現実的な判断をするタイプみたいだが、さて。


「面倒くさいな。突貫するか? 素人の跳ねっかえりばっかだろどうせ。多少事故っても、結果一番多くの人が助かるんじゃねぇか?」


「隊長!だからそれじゃ」


「私も反対です。理由は村上さんとは違うでしょうけどね。それをやったらその後の交渉が難しくなりますので」


真田はものすごく嫌そうな顔をして隊員の二人を見る。元から合わなかったんだろうか?村上と馬場は見るからに相性が悪そうだな。直接言い合わないあたりが特に。


「ああ、そうだ。最上さん、あなたはどう思います? 我々は意見が割れてしまいましてね。参考までにお聞かせ願えれば」


俺に振るなよ真田さん。だがこれは村上を抑え込みたいだけか?それならいいが方針は言わんぞ。


「我々はあくまで護衛ですので。言われたことをするだけです。どうしたらいいとは言えませんし言いたくなですね。

 手伝う分には内容によって協力しますがね。報酬は気にしなくて結構。そこは市長と話すので」


「まあそうでしょうな。ですが何も方針を決めてくれって言ってるわけじゃない。それは私の仕事です。どう見てるか? であればどうです」


「まずグループが分かれていることが問題ですね。向こうの意思が統一されていない以上、交渉自体が難しい。

 次にグループ内の格差というか、支配層と非支配層のような構造も問題です。支配層を排除しないといけないが、排除の仕方が難しい。

 彼ら、特に非支配層ですが。場合によっては魔物はおろか今の状況が大規模停電、もしくは戦争に絡んだ問題と思ってる人たちもいるでしょう。

 そう言った人たちを前に、超法規的な手段は取りにくいでしょう? 現実に法が機能するかは別にして、です」


それと、もう一つ大きな問題があると思うがね。それがあるからこそ、向こうからもこちらを排除するような動きはないんだろうが。


スパイトジレンマ。自分が損をしても相手に得をさせたくないという心理。日本人には特に多いらしいが、その影響もあるんじゃないかな。


各グループごとに思惑はそれぞれだろうが、先に動けば損をする気持ちも強いだろうし、それは他グループの利になる。


しかし原因が思いついたところで俺にもこの膠着状態を解決する手段は思いつかない。どうしたもんかね。


(最上さん。相談があるんだけどいいかな? 出来れば二人にも聞かれたくないかな。僕と最上さんだけで一回話したいんだ)


海斗からの念話だ。海斗の能力も色んな部分で進化してる。なにか思いついたか?


――その相談内容は、上手くすればこの状況を打開できるかもしれない提案で、あとはどう実行するかってところだが。


俺は海斗からの提案を受けて、思考に耽っていった―― 

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