第13話 繋がる意志

ダンジョン。まぁ白いやつがそう言っているだけなんだが。それでも、普通の空間とは違う気持ち悪さを感じるなここは。


迷宮でこそないものの確かにダンジョンなんだろうな、と嫌でも思わせてくるナニカ。地下牢でないことを祈るぜ。よりによって地下に作るあたりに厭らしさを感じちまうぜ。


そして古いタイプなのも気に入らない。前回少し探索した時もそうだったが今時明かりを持ち込まないといけないのは時代遅れじゃない?不思議パワーで明るくしておいて欲しいものだ。と、昨日は強く思ったりしたな。


音をたてないように気を付けながら前方を棒で突きながら進む海斗は、正しく古きダンジョン攻略者の姿だろう。


しかし、今回はすさまじく順調だ。前回が嘘のように。海斗と遥香の合わせ技の効果は絶大だった。


「先が見えるってだけで大分違うねー。銃が使えるなら遥香さんは最強のスナイパーになれるかも?」


「電気だけじゃなくて便利な道具はことごとく使えない世の中よ?銃が使えるとは思わないけど。悪魔が定めた文明の利器の基準も知りたいところね。リストとかないのかしら?親切さが足りないと思うのよ」


「その辺の検証は俺たちだけだと限界があるからな。黒狼や赤猪があの程度の戦力だったんだ。いくら開戦してたとは言えまだまだ国内に自衛隊なり残ってたはずだろ?

銃を持ってる警察官たちも。それが姿を見かけないんだ。少なくとも銃は使えないと見てる」


「どうですかね?意外と発砲してる警察官の人って少ないんじゃ?魔物も一見すると動物ですし、日本の警察って撃つのに手続きとか凄そうじゃないですか?」


「否定しきれないのは悲しいところね。確かに、こんな異常な状況でも警察がバンバン撃って市民を救う姿は想像しにくいわね。アメリカだと違うのかしれないけれど」


前回と違い、多少の会話もおこないながら静寂の中を進んでいく。緊張感は持つべきだが黙ったままってのも精神的にきつかったからな。


それよりも静寂を保ったまま会話できることが素晴らしい。これは海斗の力だ。


海斗の力は、共有の力と言うか。まだ完全に分かっているわけではないが、検証の結果は凄まじいものだった。


他人が伝えたいものを受け取る能力。それを誰かに伝える能力。そんな感じか?


前回の探索時に海斗は黒狼が見えているかのように戦闘を行った。それは遥香の視界情報を受けったがゆえ。


遥香も自分だけが見えている状況に歯がゆさを感じながらもどうにかして伝えようと思っていたところ、その意志を海斗が受け取ったようなのだ。


そして諸々試していった結果、海斗自身も俺たちに意志を伝えることが出来た。直接脳内に声を届けるアレみたいに。


意志の共有、というか脳の一部を繋げるイメージかな。なのでこうして口を閉じたまま会話が出来るという訳だ。伝えたいと思ったことだけってのが非常に便利。と言うか助かる。理由は伏せておこう。


魔力は多少の会話などは殆んど消費しない様子。距離が離れたりすると途端に消費量が増えるので万能ではないが。別行動時の通信手段に使えるかとも思ったんだが、この辺は今後の課題である。


今回の探索ではとにかく視界が確保できることがあまりにも大きい。時折、黒狼が前方に発見されるが海斗の投石からの流れで楽勝でもある。


油断はできないが、順調なのはいいことだ――



30分ほど進んだころ。入り口と同じような下に降りる階段を見つけた。


やっぱり下に潜っていくスタイルか。そしてある意味で初の分かれ道とも言える。道というか空間は先にも続いているからだ。


周囲を見渡し安全確認ののち、普通に会話を始める。作戦会議の時間だ。


「どうする?降りるか、進むか。取り敢えず俺は進むに一票だ。ダンジョンはくまなく探索したい派でね。もし降りるのが正規ルートだった場合。まぁ降りていくスタイルの気がするが……だいたい正規ルートから外れたその先には何かが期待できるもんじゃないか?」


「アレの言ってたアイテム的なナニカ、ね。それに期待するわけじゃないけど、一応は地下一階?になるのかしら。このフロアを見てみたいとは思うわね」


「私も降りるのはまだ不安ですね。進むほうに賛成です」「僕も進むほうで」


全員一致。決定だな。まぁそっちの方が自然と思う。そして進むこと5分もせずに行き止まりとなる。宝箱の一つもないのはケチじゃねぇか?


「待って!先が視える。これは、もしかして?」


遥香が何かに気付くと海斗を通して俺たちにも遥香の言いたいことが共有される。コレは?


確かに向こう側が視える。そしてそれは、見覚えがあるというほどこの場所に来ているわけではないが、知っている光景のようだった。


「進めるか試すか。無駄にするにしても30分程度の道のりだ。今の俺たちならそんなに疲れる距離でもないだろ?」


「ちょっと待って最上さん。まずは石を投げてみるよ。なんかの罠とかだったら困るしね」


それもそうだ。いきなり通るには不安が大きいな。そして海斗の投げた石は一見すると行き止まりに見える目の前の壁をすり抜け向こう側に落ちていく。


特に攻撃を受けるようなこともなさそうだ、と。その後に棒を差し出し、指、腕と入れてみるが問題ない。


魔物の死体でも持って来れば良かったかもだけど仕方ないだろう。俺は一見すると壁に見えるその空間に足を踏み入れその先に向かう。


そして少し進んだ先で振り向けば、そこにあったのはやはりというかなんというか。上り階段だった。



「これはループしてるってことかしら?ご丁寧にこっちからは通れないし視えない。物理的、魔力的なマジックミラーってとこかしら?」


「言い得て妙だな。しっくりきた。遥香に視えないということは魔力的ななにかが施されているんだろうな。ってことはあの階段を下に行けってことらしいな」


発見した上り階段を昇ればそこは駅。つまり入り口に戻ってきたと。真っすぐ進んでいたつもりだったんだけどな。


まぁ微妙にカーブしている可能性も否めないが、それでもわざわざ変な仕掛けまでしてあるのだからループの可能性も高いだろう。


それと壁に遥香がいち早く気付いた件だが。海斗の力は情報は共有出来ても能力は共有できない。あくまで意思を繋ぐだけ。


なので遥香との視界共有は出来ても遥香が視えていないものは俺たちにも視えないし、当然にして遥香が一番に気付く。


雫の治癒も使えない。ただ、痛みの程度などを雫に伝えることは出来る。雫が言うにはその感覚を知ることは出来るのは診断に役に立つらしいので有用ではあるのだが。


ま、万能な能力はないってことだ。科学だってすべてを解明してたわけじゃないし。


ということでまた30分掛けて同じ道を進み。下り階段まで戻ることになった。


道中でまた時折黒狼と遭遇したってことは、そういう事なんだろうな。リポップなんだろう。そして一周目で倒した黒狼の死体が見当たらなかってことは。そっちもありがちに一定期間で消えるとかそんなとこなんだろう。


下り階段を下りている最中はそんなことを考えながら進んだ。

思考の一部は海斗を通して皆にも共有しながら。


地下2階はどんなところか、宝箱の一つも欲しいなどと思っていたのは、自分でもどこか順調な探索に油断していたのかもしれない。


そして――全員が階段を下りて周囲を見回したその時には、そこがどんなところか直感的に理解した。


目の前には野球場みたいな広い空間。


上を見れば先ほどの行き止まりのように、階段には蓋がされたように閉じられ―恐らくさっきみたいに魔力的なナニカで戻れなくなっているのだろう。


広い空間の先には大きな象?か。ただし全身がやけに堅そうな、というか無機質な。


仮称、石象が見える。


狂暴な顔つきが遠目にもはっきりと伝わるぜ。そして今までの魔物には感じなかった、殺意も。


突然に放り込まれたここはボス部屋、なんだろうな。2階でいきなりかよ?


心の準備が出来ていないままで、ダンジョンアタック2回目にして初のボス戦が始まるのだった――

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