第14話 日本人ホイホイ
「アーリガタヤーはどうでした?」
「それが、防具職人のところに偶々S級の狩人が来ておってな。もしあの外皮で防具が作れるのなら、金貨300枚でも惜しくはないと言っておってな。」
「まあ、フルアーマーだとしても4着は作れますからね。」
「そう。確かに皮の価値だけで金貨1000枚はくだらないと結論が出た。」
「でしょうね。実際に大陸では金貨1000枚以上で売れましたから。」
「で、金貨500枚で良いのだな?」
「今回はお友達価格ですよ。名のある防具職人なら、絶対に取り組んでみたい素材でしょうね。」
「分かった。その価格で買い取らせてもらおう。情けないことに、うちの職人が使う道具では腹を割くのがやっとだった。背中の皮は傷も付けられなかったそうだよ。」
こうしてアーリガタヤーを売却して俺は協会を出た。
「アキラさん!」
後ろから協会の受付嬢が駆けてきた。
その横にはムラサキの和服っぽい服を着た女性がいる。
「すみません。城から使いの人が……」
「……ハアハア、アキラ殿ですね。」
「はあ。」
「帝が、アキラ殿との会談をお望みです。よろしければ、城へお越しいただけませんか?」
「いやあ、もうじき夕方ですよ。これから家に帰って……」
「食事を用意させていただきます!」
「いや、この国のメニューはあらかた把握できてるからな。」
「あまいですね。城には転移陣で取り寄せた、各地の食材が揃っているのですよ。」
「転移陣だと……」
「ああ、そちらですか。こちろん資格がおありになれば、その技術をお教えする事も可能です。」
「資格とは何だ?」
「日本に連なる者であること。」
「やはり日本なんだな。」
「これ以上は申し上げられません。如何なさいますか?」
「エリサも一緒でいいんだな?」
「ご家族なのであれば、同行頂いて結構です。」
「分かった。帝に会わせてもらおう。」
「ではお手をどうぞ。」
次の瞬間、俺たちは日本風の庭の中にいた。
「町中で転移なんて使って大丈夫なのか?」
「日本の血が入っていれば誰でも使えるので、ジェイピーでは珍しくないですね。」
「そうなのか。」
「私は日本とは関係ないわよ。」
「エリスさんはどちらのご出身ですか?……いえ、失礼な聞き方をしてしまいました。鬼人や魔人どころか、ドラゴンにも転生者は存在します。」
「まさか……」
「例えば転生者として記憶を取り戻さないまま亡くなり、その子孫という可能性だってあるわけです。」
「じゃああなたも?」
「申し遅れました。タマキ・カスガと申します。転移者の孫にあたります。」
「転移者とか転生者はそんなに多いんですか?」
「100年で5人程でしょうか。立ち話も何ですから、帝を交えて話しましょう。」
俺たちは縁側で靴を脱いで建物に入り、廊下を抜けて応接間に案内された。
「当代の帝をさせてもらっているリョウジ・タカナシだ。血を辿れば初代のワタルに連なるのだが、母も転移者だ。まあ、立場上帝を名乗ってはいるが、母に言わせれば学級委員長みたいなものらしいぞ。」
「学級委員長かよ……」
「学級委員長の意味が分かるとは、アキラは転移者なのか?」
「いや、俺は転生者だ。この姿は、転生前の俺の姿の変身しているだけさ。」
俺は変身前の金髪・ブルーアイに戻った。
「もしかするとアキラ殿は勇者なのか?」
「そうですよ。」
「……とすると、エリサ殿はまさか……」
俺はエリサと目をあわせ頷いた。
エリサも変身を解く。
「エリサは元魔王だが、俺の嫁である事に変わりはない。」
「まあ、そこは構わんが、何でこうなった?」
「最後の時……周囲は完全に吹き飛んで、俺たち二人だけだった。」
「確かに、当代の勇者と魔王の魔力は、歴代最強と言われていたな。それも、ぶっちぎりの……」
「ああ。俺たちはそれでも周囲に配慮しながら戦っていたんだが、気が付けば見渡す限りが瓦礫になっていて、他には誰も残っていなかった。」
「あのまま戦っていたら、少なくとも周辺の大陸を巻き込んで消し去る自信はあったわ。」
「俺もだな。星の半分くらいなら吹き飛ばす自信はある。」
「おい、こいつらの魔力は封印できないのかよ。」
「ムリでしょうね。二人が対峙した時に、龍種は全て南の極地に逃げていましたから。」
「……確かに、預言者も滅びの可能性を示唆していたな。」
「だから、アキラに提案したんです。相打ちした事にして、二人で逃げようと……」
「すげえ!魔王の提案で世界が救われたのかよ!」
「それで、姿と名……ステータスさえも偽装して勇者と魔王は姿を消した。いいですね。やがて二人はムフフで……」
俺たちは変身した。
エリサも魔王の姿はあまり人に見せたくないと言っていたからだ。
「まあ、勇者といえば転生者か転移者ってのが定番だからね。」
「魔王までその血筋の可能性があるって初めてのケースですけどね。」
「まあ、転生者である事が明白になった以上、この城下町に住む事もできるし、自由にしてもらって構わない。」
「城下町?」
「ほら、これを持っていろ。日本人の証だ。」
俺は帝からコインのようなものを渡された。
「これを持っていないとここの結界は通れない。転移を含めてだ。」
「何で?」
「まあ、城下町を見てみれば分かりますわ。ヤマトの城下町は、制限のない町ですから。」
「制限なしって……まさか。」
「アキラ殿が考えているとしたら、タマゴ・納豆・コーヒー・チョコレートにお豆腐……」
「冷凍冷蔵庫に洗濯機。ジューサーミキサーにホットプレート・エアコンにアイロン。」
「全部あるっていうのかよ!」
「当然でしょ。数千人の日本人による英知の結晶なのよ、ここは。」
「……おかしいと思ったんだよ。ジェイピーとかサムライソードとかさ。」
「引っかかったでしょ。日本人ホイホイに。アハハッ。」
「どういう事?」
「何も知らない日本人が、転移とか転生とかでこの世界にやってくるだろ。」
「うん。」
「何とかして生活しようと頑張っているうちに、サムライソードとか扇子とかオオマメとかさ、あちこちに撒かれたエサに喰いついて、ヤマトに引き寄せられちゃうんだよ。日本の知識がある奴ならさ。」
「アキラもオオマメで釣られちゃったんだね。」
「うるせえ。多分、初代の頃からエサを撒いていたんだろうな。」
「ああ。菊やイネもそうだし、船ならイカリやカジなど多くの和名が使われている。その出所を辿れば、みんなヤマトに集まってくれるんだ。」
「タマゴと一緒にタマゴ料理も広めたいんだけど、サイドンの領主が煩いのよね。」
「まさか、サイドンの領主って……」
「そう、祖先は日本人の転移者なのよね。でもその人が卵アレルギーで、タマゴ料理の普及は許さないってね。」
「そんな理由で!」
「その転移者と約束した200年が今年の12月31日で終わるからね。そしたら、一気にタマゴとニワトリが解禁される。」
「まさか……」
「クククッ。1月1日の、プリンとマヨネーズと共にタマゴが全世界に広がるんだ。」
「そ、それはいいとして、何でアレが庭にいるんですか?」
「うん?」
「ああ、コアラですね。この敷地には結構ユーカリが植えてあるんですよ。」
「待って、ナニあれ!」
エリサにコアラの事を説明した。
ちなみに、ここからコアラ大陸まではジェイピーの属国になっており、このエリア外へのコアラ持ち出しは許可されていない。
コアラを持ち出すにはユーカリが必須であるため、事実上密輸は難しい。
【あとがき】
恐ろしいですね、日本人ホイホイ。
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