主人公に転生したらしいですが既に乗っ取られてヒロインたちはNTRていました

山田ジギタリス

第1話

 軽いノックの音がしたので俺が応えると、扉を開けてがっしりとした女性が入ってきた。彼女はお茶の道具と干した果物が載っているワゴンを押している。


「旦那様、そろそろお休みをとりませんか」


 彼女が誘うので少し休憩を入れることにした。


「あぁ、ありがとう、そうかこんな時間か。少し休むか」

「すこし根を詰めすぎですよ」

「あぁ……」


 彼女の名前はモリー。俺の妻。俺はジョン。この辺りを治める領主で男爵だ。


 元はと言えば、中央で幅を利かせる伯爵家の次男だった。そして剣の才能を認められ英雄と共に活躍したのだが、その褒賞がこの領地とモリーとの婚姻なのだ。英雄様は自分で俺をメンバーに選んだ割には俺に対してはあたりがきつかった。


 まだ、覚えている。最後に会ったときの奴の貌と言葉を。


『やっと目障りなお前を厄介払いできる』

『お前はな、この物語の主人公だったんだよ。聖女もな王女もみんなお前のものだったんだ』

『お前が解決するイベントを代わりに解決してやったんだ、このくらいいだろう』


 そこまで言われてもよく分からない。俺は本来はこのゲームの主人公。そして、奴の言っていた聖女も王女も更に婚約者だったはずの魔術師もみんな無自覚に虜にしてハーレムを築くはずだった主人公。なのにみんな奴にとられていた、らしい。らしいというのはそのゲームを俺はやったことがないから。


『攻略法をしっかり覚えていてよかったぜ』


 奴のにやけ顔が頭から離れない、がそれだけだ。何しろヒロインと呼ばれる少女たちは、俺からするともともと奴の彼女たちだった。それに、彼女たちは俺の好みじゃなかった。なんでだかわからないけど肌を見せすぎだ。三人共マントやローブで隠していたけどその下はほぼ下着のような服装だった。なぜかヒロインたちはケガをしないしケガをしてもすぐに治った。ヒロイン補正というらしい。


 実家の父母も兄も俺にはほとんど関心がなかった。家族という感じもしない。英雄と共に戦っているころはすり寄ってきたけど、地方の人もいないような場所の領主になったとたん手のひらを返してきた。なのであのまま実家にいたらうつうつとした生活になっていそうだったので実家を脱出させてもらってなおかつ領地までもらって好きな女性を嫁さんもらって、俺は勝ち組って感じなんだ。


 そんなことを考えているとそろそろ休憩もおわりだ。カップを置いた時にその音は聞こえた。


かーん、かーん、かーん!


遠くで鐘の音が3つなる。


ガーン、ガーン、ガーン!


近くでも3つ。


 鐘の音が三つは手に負えない野獣か魔獣が出た印。聞こえた方向からすると北西の方か。


「領主様! 音からすると西ノ村だ」


 モリーの父親、ハロルドが飛び込んでくる。彼は男爵領の騎士団長であり自警団のトップでもある。そして、入ってきた彼は腕に侍女のサッシャをお姫様抱っこしていた。サッシャが掌で顔を覆っているが指の間から見える顔は赤くなっていた。ハロルドがサッシャをおろすとハロルドの耳元で何やら囁いて彼女は部屋を出ていった。


「すまんな、デート中に」

「いや、それより急がないと。この間みたいにクマだったらヤバい」


「旦那様、鎧と武具を準備しました」


 いつの間にか着替えたモリーが俺の防具と武具を準備してくれる。


「領主様、馬の準備をしていますのでお着替えを」

 家令のロイドが報告してくれる。


「わかった。すぐに出る」

 戻ってきたサッシャが俺とモリーの防具の点検をしてくれる。

 

 鐘の音は続いている。俺は、ハロルドとモリーと共に馬に乗り現地をめざした。


 モリーは王都の騎士団で男まさりの活躍をしていた女騎士だった。

 

 英雄と一緒に戦っているとき、英雄もヒロインたちもどこか信用できなかったけれど、モリーなら大丈夫、そんな信頼感があった。すべてが終わった後、俺はモリーにプロポーズをした。あのときはかなり緊張したなぁ。モリーが涙を流しながら俺に抱き着いてきたときはうれしかった。だって一生この人と一緒にいれるんだよ。

 ハロルドはモリーの父、俺の義父だが同じく王都の騎士団で小隊長をしていた。モリーを妻としてこの地に来た時に娘についてきてくれたのだ。ありがたい。サッシャも、今は侍女をしているが王都では騎士団に所属していた。モリーについてきたハロルドに無理やりくっついてこんな田舎まで来てくれたのだ。年の差を気にしていたハロルドも今ではお姫様抱っこで俺の執務室に飛び込んでくるくらい可愛いらしい。


 馬を駆けながらそんなことを思っているとハロルドから注意される。


「顔がにやけてるぞ、ジョン」


 まずいまずい、これから戦うのだ。気を引き締めていかないと。


 村の南に着くと村の入り口で革の鎧を着た男が待っていた。

 

「どこにいる?」

「森の横、北西の穀物畑にクマが一頭。子供は連れていません。体格からして成獣」


 俺の問いかけに彼が応える。丁寧ながら短いやり取りになるのは彼も王都の騎士団出身だから。


「人や動物の被害は?」

「い、今のところありません」

「そうか、それは不幸中の幸いだな。みんな隠れているな。引き続き警戒を頼む」


 案内してくれた男に伝えるとゆっくりと畑に近寄る。遠くにクマが見えたが俺たちに気がついたようだ。クマは逃げようともせずこちらに向かってきた。


「ハロルド!」

「応、さぁこい!」


 ハロルドが前に出てクマと対峙する。その後ろからモリーが槍を構える。俺はクロスボウでクマを狙う。ハロルドがクマの注意を引いている間に俺たちの準備が整った。さぁ、大事な作物を荒らした罪を償ってもらうぞ。




「はぁ、何とかなったなぁ、いててて」

「旦那様、動かないでください。傷口が開いちゃいますよ」


 館に戻ったところでモリーが傷口の包帯を巻きなおしてくれる。クマは無事に退治できた。幸いにも魔獣ではなく普通のクマだった。今回は俺たちだけで何とかなったが、これが魔獣だとこんなものじゃない。幸いにもけがをしたのは俺だけだった。さすがクマ、無傷では退治できないか。


 肉や毛皮、爪などはそれぞれ処理して活用する。特に、肉は貴重なたんぱく源だ。村人全員にはいきわたらせるために鍋にする。毛皮や爪は売って荒らされた畑の持ち主と俺たちで分ける。俺たちがそのままもらうわけではなく壊された柵の修理の費用の一部に充てる。


「魔術師が一人欲しいなぁ」


 俺が独り言のように言うと、ハロルドも頷く。


「でも、こんな田舎に来てくれますかねぇ」


 モリーの言う通りだ。こんな田舎には来てくれないだろう。


「できれば年上の経験豊富な人がいいけどねぇ」


 その言葉を聞いたモリーの顔が一変する。


「年上、経験豊富……な女(ひと)?」


「モリー、何考えてるんだ……」


「ふふふふふ、旦那様、私一人じゃ物足りないのですか?」


 ちょっとまて、モリーが完全に勘違いしている。俺は女とは言っていないぞ。


「旦那様、私だけじゃだめですか。王都でもあれだけ女性をいっぱい侍らせて……」

「おい、それって、英雄で、俺じゃないぞ……」


「今日はけがをされているから我慢しようかと思いましたけど、これはいっぱいしないとなりませんね」


 おーいモリーさーん。そう言う俺に向かってサッシャさんがモリーの後ろから身振りで何か伝える。おれはそれに従ってモリーにキスをした。長く長くキスをした。


「俺には、モリー、お前しかいないよ」


 ポーっとしたモリーに言うと、しばらくそのままだった。


 正気に戻ったあと慌てるモリー。


「わ、私ったら」

「魔術師は男がいいよね。でも、モリーがそいつに惹かれたり……」

「そんなことはありません、私はジョンひとすじですから」

「あぁ、俺もモリーひとすじだよ。お前ほどイイ女はどこ探してもいないからね」

「ジョンったらぁ♡」


 気がつくと部屋には俺とモリーの二人だけだった。夕食に呼ばれるまでの短い間だけど二人でイチャイチャしたのは言うまでもない。


 ただ、モリーはフラグを立てたようで、後に『年上で経験豊富な女魔導士』が我が領に来てしまう。

「えへっ、来ちゃった。ジョン君ったら私を置いて行っちゃうんだから、お姉ちゃんさびしかったんだからぁ」

 

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