第8話『海底二万里』ヴェルヌ
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー パート3』の最後に、主人公であるマーティをたずねて、親友のドクが機関車型のタイムマシンに乗って現れる場面があります。
ドクは、マーティに結婚した妻・クララとふたりの息子を紹介するのですが、この子どもたちの名前が「ジュール」と「ヴェルヌ」といいます。ドクと妻のクララは、ともにフランスの作家、ジュール・ヴェルヌの愛読者で、彼の名にちなんで息子たちを名付けたのでした。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の監督ロバート・ゼメキスもきっと大好きだったろうジュール・ヴェルヌの作品で、もっとも有名なもののひとつが、今回取り上げる『海底二万里』です。
以前、このエッセイで幼い頃のわたしが股関節炎で入院したことを書きました。小さな子どもが入院すると「かわいそうに」と感じられるのでしょう。親戚が大勢お見舞いに来てくれました。病気(ではありませんが)のお見舞いに手ぶらで出かけるのは気が引けるもの。
みなさん退屈な入院生活の気を紛らわせるお見舞いの品を持ってきてくれるのですが、中には本を差し入れてくれる人もいて、そのうちの一冊が『海底二万里』でした。
むかしの記憶をもとにネットで検索したところ、小学生だったわたしが読んだものは、「集英社版 少年少女世界の名作 海底二万里」と分かりました。小学校低学年から中学年でも楽しく読めるようリライトされている『海底二万里』です。時間はたっぷりあるのでおもしろく読みました。入院の記憶と共にジュール・ヴェルヌの『海底二万里』は、わたしにとって特別な本となったのです。
☆
ときは1866年、大西洋に謎の巨大生物が現れた! 異形の〈怪物〉の目撃譚に人々はおののき噂した。白鯨か? 伝説の怪異か? はたまた超自然現象か? 議論が沸騰するなか、アロナクス教授はその正体を暴くため、使用人のコンセイユとともに高速フリゲート艦に乗り込む。それが、驚くべき旅の始まりになるとも知らずに──。
怪物の正体は、地上世界を見限って、海中世界をすみかとすると決めた謎の男、ネモ船長とその仲間が操る
『海底二万里』がすばらしいのは、広大な海と海中世界を舞台にする物語を描ききったことです。海は地球上に残された最後のフロンティアです。人類は、地上はもちろん、大空や宇宙で起こることも知り尽くそうとしていますが、海――それも海中や海底でなにが起こっているのか、ほとんど知ることができていないのです。
SFだって宇宙を描いたものは掃いて捨てるほどあるのに、海底を描いたものは驚くほど少ない。いまだに小説を書くための情報が集められないからです。
そう考えると19世紀に『海底二万里』が書かれたのは驚くべきことです。ジュール・ヴェルヌの知識と想像力は桁はずれとしか言いようがありません。まだ、SFという小説ジャンルがなかった時代なんですしね。
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『少年少女世界の名作 海底二万里』(ジュール・ヴェルヌ作、那須辰造訳、集英社)
半世紀くらい前の本なので、いまでは手に入れることは難しいと思いますが、この本で『海底二万里』に出会えてよかったです。
いま図書館から岩波少年文庫版を借りてきて読んでますが、原作にはリライトではカットされている科学的な蘊蓄がてんこもりとわかりました。とにかく読みにくいし、現代の知見からすると誤った記載も多く、子どもの読み物としてはイマイチと感じました。
蘊蓄の部分はカットして、ネモ船長とノーチラス号の海中冒険の部分にのみ焦点を当てた抄訳で読むのが、大人も子どもも一番楽しめる読み方だと思います。
ジュール・ヴェルヌ(1828-1902)は、フランスの小説家。H.G.ウェルズとともに「SFの父」と呼ばれたりもします。でも、個人的には、科学的知識をふんだんに駆使した冒険小説の名手だと思っています。なによりウェルズよりもおもしろい。『十五少年漂流記』や『八十日間世界一周』といった有名な作品も冒険小説ですよね。
那須辰造(1904-1975)は、和歌山県出身の小説家、児童文学者。このエッセイを書くために調べるまで知らなかった人ですが、SF読みならだれもが知ってる福島正実の師匠に当たる人らしい。いちSFファンとして感慨深いです。
次回は、那須正幹『それいけズッコケ三人組』を取り上げます。
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