第34話シャルロッテ対セリス2
さっきのセリスの一撃で本来であれば勝負は決まっていたな。
保護魔法がなければ骨までいっていただろう。
それはシャルロッテにもわかっているはずだ。
さあ、それを認めたうえでどう動くよ?
(やられましたわ。一回戦で使いたくはなかったですけど、セリスさん相手に甘かったですわね)
シャルロッテは覚悟の決まった顔でセリスを見つめた。
「やりますわねセリスさん。本当に強くなりましたわ」
「先生のおかげ」
「ええ、そうですわね。本当に」
シャルロッテはわずかに目を閉じた。それは何かに祈るようにも見えた。
「ならばこそ、わたくし達はこの観衆達に見せつけなければなりません。わたくし達の力を。そしてなにより恥ずかしくない戦いを先生に観ていただければなりません」
「うん!」
「いきます!」
シャルロッテは火の玉を出現させる。小さいながらその数は十数個。それを上からセリスのいるあたりに無差別に放つ。
絨毯爆撃。
だが、これは今から使う奥の手の為の一手にすぎない。本命はこれからだろう。
セリスが回避に努めている間に、シャルロッテは新たに呪文を詠唱する。
「雷よ来たれ! すべてを焼き焦がす神の威光をここに知らしめよ。集え、集え、集え」
絨毯爆撃を躱しながら間合いを詰めるセリスに焦りが募る。シャルロッテが呪文を詠唱している。それが意味するところは、まだ詠唱破棄できない高等魔法ということ。
セリスは火傷覚悟でシャルロッテに迫る。
しかし、わずかに早くシャルロッテの呪文が完成した。
「いでよ雷球!」
完成した雷球から稲妻がほとばしる。これまでよりもはるかに速い速度でそれはセリスに直撃した。
「あうっ!!」
稲妻を食らい前のめりに転がるセリス。ここまでか・・・?
『こ、これは。シャルロッテ選手が使った呪文は雷系の高等魔法だ! 制御が難しい雷系を学生のうちに使えるとは、すごいすごいシャルロッテ選手。直撃を受けたセリス選手。保護魔法で命に別状はないでしょうが、これは立ち上がれるか?』
もぞりと。
セリスはゆっくりと立ち上がる。だが、相当のダメージを受けたはずだ。ここからどうするセリス?
「降参なさいますかセリスさん。これ以上あなたに手を加えるのは忍びないですわ」
「じょう、だん・・・」
「・・・セリスさん」
「せんぱいは言った。せんせいに恥ずかしくない試合見せるって。ここで終わる訳に行かない・・・」
「!?」
今の言葉はシャルロッテの胸を打ったようだ。
ふん。まだ頑張るかセリス。なら、お前も奥の手を使うしかねーよな?
(あれを、使う)
******
「今からお前らに必殺技を教えるぞ」
「必殺技っすか!」
シルフィーの戦いを見て、こいつらにもう一つ武器をくれてやろうと思ったのだが、必殺技と聞いて目を輝かせたのはステラ一人だ。他の三人はどう反応していいかわからない顔をしている。
んん? 男は必殺技と聞けば喜ぶんだけどな。女子の反応ってこんなものか?
「あの、先生。あたし達は武器も戦闘スタイルもバラバラですが、共通の必殺技を授けてくれるということですか?」
クレアが律儀に手を挙げ質問する。
まあ、当然の疑問だ。
「順を追って説明するが、お前達に教えるのは必殺技に必要な、ある力だ」
「「「「必要な力?」」」」
「それって加護?」
セリスが聞き返す。
こいつには聖なる加護が付与されているからな。そう考えるのは無理はない。
「それとはまた別の力だ。まず初めに。この世界には魔法を使える人間と使えない人間がいる。何故使えない人間がいる?」
「それは・・・魔力がないからですわ」
何を今さら聞いているのかというふうにシャルロッテが答える。
そう、それがこの世界の常識だ。しかし、俺はその常識を覆す。
「それは正しいが正しくはない。魔力がないんじゃない。魔力に変換する機能がないんだ」
「それは、どういう?」
「この世界のすべての人間には生まれながらにある力がある。体を流れるとても強い生命エネルギー。俺はこれをそのまま『命力』と名付けている」
「「「「めいりょく?」」」」
「まあ、名前は“氣”だろうと呼び名はなんでもいいんだけどな。俺はそう呼んでいる」
聞きなれない単語なのは当たり前だ。俺が付けただけだからな。
「魔法を使える人間は大気に満ちるマナを体内に取り込み、無意識にこの命力を魔力に変換しているんだ。魔法を使えない人間はこの命力を魔力に変換するフィルターのような機能が備わっていない。だから使えないんだ」
「何故、ある人間とない人間がいるのでしょうか?」
「それは一種の先祖がえり・・・いや、今はそれはいい。とにかくこれが魔力の仕組みだ」
「それを使えば、あたしらも魔法のようなことができるんすか?」
ステラが期待を込めて質問してくる。しかし、それは無理だ。
「この世界の自然界に干渉して、火を出したりできるのは魔力だけだ。命力は自身の体にのみ作用する」
「あの、身体強化魔法のようなものでしょうか?」
シャルロッテも加速魔法などを使うからな。興味深げに聞いてくる。
「身体強化魔法は他人にもかけられるが。さっきも言ったが命力は自身の強化しかできない。だがな。魔法よりも強化できる力は強いぞ」
「応用が利かない分、力が強いということですか?」
「そう考えてくれてもいい」
俺はクレア、ステラ、セリスを見つめて話す。
「今からお前らにこの命力の使い方を教えていく。武際まで期間が短いからな。さわりを教えるだけで、自在に使えるようになるのは当分先だろうが、一つの武器にはなるだろう」
「え? あれ? わたくしは使えませんの?」
シャルロッテは独り、仲間外れにされた気分になったのか。戸惑った後、唇を尖らせた。
「残念だが幼いころから命力を魔力に無意識に変換し続けてきたお前は今から命力をそのまま使うのは不可能だろう。拗ねるな。お前には別に魔法を教えてやる」
「本当ですの!」
「ああ、武際ではこいつらもライバルだからな。二人の時に個人授業をしてやるよ」
「こここここ! 個人、授業!」
何こいつ、バグってないか?
いじけるシャルロッテをなだめた後。俺は三人に向かって続きを話す。
「俺が教えるのは命力の使い方だけだ。それを使ってどんな必殺技を編み出すのか。それはお前達次第だ。自分のスタイルに合った必殺技を見つけ出せ」
「「「はい」」」
これ以降、四人は特別クラスに集まることを減らし、個々に必殺技の練習を始めた。
ここで練習したんじゃ切り札を見せることになるからな。
さて、本番までに形になるか。俺も楽しみだぜ。
*****
(使う。あたしが創った。必殺技)
セリスはシャルロッテに向けて前傾姿勢を取る。
シャルロッテの頭上には今だ召喚した雷球がある。この状況でどうする?
「必殺。猪突猛進」
「え?」
セリスはシャルロッテに向かってダッシュをした。
したことを言えばただそれだけだ。しかし、そのスピードは尋常ではない。瞬く間にシャルロッテに迫り、そのままシャルロッテを跳ね飛ばした。
その後もセリスは自身を止めることができず、競技場の端、観客席の方まで行ってしまった。
『・・・え? え? す、すいません。あまりのことに呆けてしまいました。な、なんだぁーー!! セリス選手が一瞬消えたように見えてのはわたしだけでしょうか? 一瞬でシャルロッテ選手を跳ね飛ばし、気づいた時には観客席側にセリス選手が移動しています。これはいったいどういうことだぁーー!』
闘技場全体が一瞬静寂に包まれた後、爆発的にざわつき始める。
いったい何が起こったのか把握できる人間が何人いるか。
シャルロッテはしばらく身動きを取らなかったが、ゆっくりと起き上がる。
「ごほ! げほ! あれが、命力・・・セリスさんの必殺技ですの?」
「そう」
シャルロッテが起き上がるまでにセリスは競技場中央に戻ってきていた。
セリスの必殺技。猪突猛進は直線距離を超高速で移動する技だろう。
自分の強みであるダッシュ力を極限まで生かした技だ。その分、まだコントロールが効かず止まるには時間がかかるようだな。
「とんでもないものを身に付けましたわね」
「そうでもない。使うと体ががくがくになる。使えるのは多分あと一回」
「そう。ではそろそろ雌雄を決しましょうか」
「いく」
セリスは再び前傾姿勢を取る。シャルロッテも手を上に掲げ雷球を操作する。
「猪突――」
「雷球ーー!!」
「猛進」
セリスが超スピードでシャルロッテに迫る。だが、それでも稲妻の方が速い。セリスはそれを浴びるがそれでも止まることなく、電撃を帯びたままシャルロッテに体当たりした。
ふたりはそのまま抱き合うように倒れたのだった。
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