第10話初めての授業

 特別教室にやってきた四人を横一列に整列させ、俺はこちらの簡単な自己紹介を始めた。


「お前らの特別教師を務めるスティーグだ。こいつは俺のメイドのミラ。何か細々した用事があったら言え」

「よろしくね」


 ミラは笑顔で頭を下げる。

 そもそも何故メイドがここにいるのか? 四人はどう対処していいか、分からずにいるようだった。


「そしてこいつが俺の下僕のアドルフ」

「誰が下僕だ。副担任だろ!」


 激昂するアドルフと俺のやり取りを見て、戸惑う四人の美少女。おい、何やってんだ。お前のせいで生徒が困惑してるじゃねーか。まったく。


「さーて。ンじゃあ最初は――」

「先生。質問があります」


 シャルロッテが手を挙げた。


「わたくし達四人はどうやって選ばれたのですか? 学年もクラスも成績もバラバラのようですけど」

「あー、それはな。なんだ。お前らの潜在能力を感じ取ったんだ」


 ミラとアドルフの視線を受けて俺は適当のお茶を濁す。


「わたくし達の潜在能力、ですの?」

「それ以上は企業秘密だ」


 俺としては別に明かしてもいいんだが、さすがに信頼関係に関わるので絶対に他言無用と皆に言われてしまった。どうせ教えるなら美少女のほうがいいのは当然じゃないか、最高じゃね?


「それじゃあ、最初の課題を発表する。最初は」


 生徒達はごくりと息を飲む。


「自習ーーー」

「「「「は?」」」」


 総勢何を言っているのかわからず、呆けている。


「じゃあ、そういうことで」

「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください」


 クレアが慌てながら、さっさとベンチに入って休もうとする俺を呼び止めた。


「ジシュウってあの自習ですか?」

「そうだ。お前らが自分で考えて、自分でトレーニングすんの。しっかりやるように」


 手をひらひらさせ、適当にエールを送るとさっさと回れ右をしベンチに座った。

 生徒達は皆唖然としていたが、まあ、これも計算の内だからな。

 ベンチに座って休もうとすると、アドルフが猛然とやってきて怒鳴った。


「貴様、ふざけるのもいい加減にしろ。どういうつもりだ!」

「うるせえな。ご主人様に貴様はねーだろ下僕ぅ」

「う、うるさい。見ろ。生徒達は混乱しているぞ。真面目に指示を出せ」


 早口でまくし立てるアドルフに俺は一拍おいて答えた。


「真面目にやってるって、俺なりに考えがあるんだよ」

「な、なに?」

「俺はあいつらのことを知らない。何が得意で何が苦手なのか。この突き放された状況で何を考え、どんな行動をとるのか。まずは観察だ。俺も新米なんでね。ゆっくりやらせてもらうさ」


 俺はベンチで寝そべり半眼で少女たちを見つめる。

 内実はしっかりと見据えながら。




********


「自習か。何をしようかな」


 クレアは頬に手を当て首をひねりながら、考えているとシャルロッテが喚きだした。


「なんなんですのあの人は! 一番最初の授業が自習? ふざけているのではなくて!?」

「ま、まあまあ、きっと何か考えがあるんじゃないかな。とりあえず、自主錬と思って何かしようよ」


 いきり立つシャルロッテをクレアはなだめた。


「自習かー。本当なら嬉しいのに、先生達があそこで見てるからなー。サボれないし」


 ステラはベンチの方を見ながらぶつぶつ文句を言っていた。この子はしっかり監督しないとだめかもしれないと、委員長気質のクレアを思ったのだった。

 セリスはいったい何を思っているのか。天を見上げボーっとしている。

 しばらく四人で話し合ったが、一先ず個々で自主練することになった。


 クレアは大剣使い。体に似合わず大きな剣で素振りを始めた。

 構えは綺麗だ。一振り一振り丁寧に振って、フォームを確認している。資料の通り真面目な奴だ。


 シャルロッテは魔法使い。呪文の詠唱をスラスラ言えるように練習をしていた。

 あれはかなり強力な呪文の詠唱だぞ。学年一位は伊達じゃないか。


 ステラは二刀のダガー使い。その場でシャドーを始める。

 誰を想定してシャドーしてるんだろうな。うーん。どうにも動きが単調だな。素直なのか想像力がないのか。


 セリスはモンク。何を考えているのか。天を見上げボーっとしていたが、しばらくして正拳突きを始めた。

 何やってんだあいつは。いや、もしかしたら・・・

 ある考えが頭をよぎるが、今は黙ってみていよう。

 結局その日は本当に自主練で終わったのだった。

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