第7話スティーグ教師になる

 あれから元帥らは目を覚まさないアドルフを担ぎ、スティーグの家を後にした。

 元帥らは帰りの馬車の中で今回の成果を話し合っていた。


「なんとかうまくいきましたな」

「あれでよかったのだろうか?」


 元帥の頭の中では、スティーグが兵として加わってくれればそれでよしであった。

 しかし、思惑は今回も失敗した。しかも、アドルフの暴走によって、対談自体が続けられない事態になるところであった。


「ふう。アドルフ殿が暴走した時はどうなるかと思いましたがね」


 ベネデットは迷惑そうにいまだ気絶から起き上がらないアドフルを見つめた。


「本当にあの男に教師などが務まると思うか?」


 元帥はもっともな疑問を口にした。

 そもそも事前にベネデットからスティーグを教師として招くのはどうだろうかと聞かされた時は耳を疑った。あの傍若無人な男が教育者などと、先ほどのミラではないが、生徒達の人格に影響がないか、元帥は心配だった。


「確かに彼は扱いにくい。お世辞にも教育者に向いているとは言えないでしょうが、それならそれで構わないのですよ。首尾よく彼が、生徒を育成できればそれでよし。できなかったとしても」

「知りたいのはあの男の教育方針、か」

「その通りです。スティーグ、彼の強さは異常です。あの若さで、なぜあれほどの力を身につけられたのか? 才能や努力といった枠を超えている。で、あるならば。彼の強さの秘密を知るために彼を指導者にすればよいのです。指導者は自分のしてきた訓練を教える側にも強要します。今回のプロジェクトの最大の焦点はスティーグの強さの秘密を暴くこと。あわよくば、スティーグのような強力な人材を量産することです」

「・・・指導についていけず(体力的、スティーグと関わる精神的の意味で)生徒が壊れようとも、か」


 帰りの馬車の中で彼らはこんな話をしていた。

 しかし。陰から見つめる視線があることに彼らは気づくことはなかった。


********


「まあ、そんなところだろうな」


 俺は影の使い魔から情報を受け取り、独りごちる。

 あの狸ベネデットの思惑を確認したかった俺は、使い魔を使役し、奴らについていかせたのだ。

 この影の使い魔は非常に優秀で、影があればその陰に取りつき、俺の視点で操作することができる。

 情報が筒抜けとも知らずにぺらぺらとよく喋ってくれた。

 俺を教師なんぞに仕立て上げて、何を企んでいるのかはある程度想像がついていた。回りくどいことをしてくれる。

 確かに俺の強さには秘密がある。

 それはどれだけ才能があろうと、努力をしようと、普通の人間では辿りつけない領域だ。それこそが俺が教育者になることを渋った一番の理由。どれだけ鍛えようと人間では俺の領域までは決して辿りつけない。


「そもそも俺のような人間が複数いたらいけないんだけどな」


 そんな人間が戦争をしようものなら本当に世界が滅びる。

 俺はただ一人の特別な存在。生贄は一人いればいい。


「だが、ふふふ。俺を利用しようとしたらどうなるか。たっぷりと思い知らせてやる」


 一応は金を貰っている以上、俺ができる範囲では手は抜かないが、それでも俺までは到底届かない。

 まだ見ぬ生徒達にはある意味では俺の腹いせになってもらおう。

 ケケケケケと俺は笑った。


「やーな笑い方」


 俺の傍でミラは半眼で見つめながら呆れた表情をみせた。


「本当にちゃんと教える気があるの?」

「金を貰う以上は働くさ」

「その辺は一応人でなしって訳じゃないのよね。最低限ではあるけど」

「俺の様な善良な人間を捕まえて失礼な」

「はいはい、言ってなさい」


 はぁとため息をつくと、その後で妙にもじもじとしだした。


「そ、それでなんで私まで連れて行くの?」


 なんだそんなことか。


「他に行く当てでもあるのか?」

「な、ないけど」

「ならいいだろう?」

「だ、だから」

「ん?」

「それだけじゃ私を連れて行く理由にはならないでしょう?」


 まあ、そうだな」


「わ、私が必要?」


 顔を赤くして妙にもじもじを続ける。なんだろう、女のアレの日か?


「まあ、必要だな」

「そそそ、そう、なんだ?」

「さっきからなんなんだ?」

「な、なんでもない!」

「ふーん、まあいいや。とにかくいるんだよ。すぐに俺にお茶を入れる人間が。それが下手くそだとしてもな」


 すぱっこーーーん!


 いきなりスリッパで叩かれた。


「何をしやがる!!」

「知らない!!」


 何を怒っているのかしばらく口をきいてくれなかった。

*********


 それからしばらくしてアドルフが俺の下僕に加わることが正式に決定した。まあ、あちらでは色々揉めたんだろうが、そんなことは俺の知ったことじゃない。

 さすがに下僕では体裁が悪いので、俺を補佐する副担任という地位を与えられたアドルフとミラと共に俺は王立学園バレンティアの特殊講師となることが決定した。

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