第20話 2-13 オールセン



 生まれたときから死へのカウントダウンが始まっていた。

 17歳の誕生日に死ぬ呪い。

 それは王族の男子にとって避けられぬ運命だ。かつてはその呪いを打ち破る方法を探した時代があったという。しかし、どんなことをしても呪いは消えず。王族の男子は、必ず死ぬというステイグマがより強化されただけだった。


 そして法が改定し、王族の女子が女帝になることが決まると、王族の男子は、生まれた瞬間から将来の梯子を外された。


 王族のお荷物。

 国税の無駄遣いのゴミ。


 それが私だ。


 だから、私が生まれた瞬間に、母親は私への興味を失った。

 愛情を与える矛先を選ぶかのように、誰もが私を避けた。


 それでよかった。誰かを愛してしまっても、愛されても、その人を哀しませるだけだから。だから誰も愛さない。誰からも愛されない。それでいい。


 唯一、同じ運命を背負ってしまった弟だけは、私が死ぬ瞬間まで愛さなければと思った。あの子は、私と違い心根が優しく素直だ。仄暗い世界ではなく明るい場所で真っ直ぐに生きてほしい。

 決して、ただ死を待つ生き方だけはして欲しくない。


 私が死んだ後も寂しくないようにと、弟と同じだけ生きる愛玩物を与えた。誰も愛せないことを知っていた弟は、彼のすべての愛情を与えてそれを愛した。

 それでいい。私はもうすぐ死ぬのだから。それでいい。


 けれど、運命を破る者が現れた。その者は弟の運命を破壊した。とても喜ばしいことだ。彼は人を愛し、人から愛される世界へとようやく足を踏み入れることを許された。やっと真っ当な人間としての運命を与えられたのだ。その一筋の希望を垣間見れただけでも、私は幸せだ。


  ——そう、思っていたのに。

 あの者は、あの少女は、私の運命までもを壊した。

 彼女の光が私の体の中に入り込んだ時、私は彼女の魂に触れた。それは温かく、どこまでも優しくて、そしてひりつくような痛みがあった。


 人の温もりは、痛いのだと、初めて知った。


 


***




「それで、アリシアを最後に見た者は、お前か?」


 ジェラルドがいつになく鋭い言葉を放った。ここは王子宮にあるジェラルドの部屋にある応接間だ。深夜遅くに報告にやってきた王宮騎士団の兵士2名の報告内容は私にも関わりの深い事柄だったため、大急ぎでジェラルド付きの従者が私を呼びに来たのだった。


 深夜だったこともあり、身支度もほどほどにジェラルドの部屋を訪ねると、いつになく鋭い剣幕のジェラルドが兵を叱責する声が響いていた。


 デアビス地区へとアリシアと護衛兵2名で、ジェラルドのペットの捜索へと向かったという。その途中、アリシアを見失った。「店内に入るところを見ましたので、店主に命じて、店内を捜索させてもらいましたが、見つけられませんでした」


 2メートル近い大男である青髪の青年が淡々と状況を語る。その隣には青髪の青年よりもまだ若い青年が、青ざめた表情でブルブルと震えている。護衛対象を見失ったのだ。相当の処分が待っていることだろう。


 アリシアがジェラルドにそんなことを頼まれていたとは知らなかった。一言言ってくれたのなら、私の信頼できる従者をいくらでも貸してやれたのに。そう悔やんだところで後の祭りだ。扉のそばでしばらくジェラルドへの報告を聞いていたのだが、ようやく私の存在に気づいたのかジェラルドが「兄上!」と悲痛な叫び声をあげた。


「状況は把握した。アリシアを捜索する捜索部隊を出そう」寝ている兵士たちを叩き起こさねばと、踵を返す。


「待ってください! 僕も、一緒に行かせてください!」


「デアビス地区はどの地区よりも危険な場所だ。アリシアが失踪した今、さらに失踪者が出れば、大問題だ」


「すでに大問題です。聖女候補生であるアリシアが僕の依頼によって……し、っし……し、死んだら、大神殿との関係性が危うくなる可能性もあります!」


 死という言葉を口にすることさえも恐れている。そんな大切な人を誰かに託すなどしたくない気持ちも理解できる。それに聖女候補生を私用で使った挙句、死なせでもしたら、大神殿に大きな借りを作ることになるだろう。この一件が公になれば、ジェラルドは大神殿にとって最高の駒となる。


「わかった、では、私も行こう」というとジェラルドが「それは危険です! 兄上まで何かあったらどうするのですか?」と流石に困惑している。


「私にはお前を失うことの方が、よほど重大なのだ。それに私もこの件に噛んである方が、大神殿の年寄りが動きづらくなるだろう?」と口元を意地悪に緩ませた。たとえジェラルドを泥舟に乗せる計画を立てていたとしても、私がいれば、一緒には、沈められない。誰が描いた絵かはわからないが、ジェラルドを標的にしたのなら、私だって黙ってはいない。




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