隣人

◆◆◆




「……翔真……やっぱり……私ここに残ろうかな……」「……は?……なんで。」北海道へ引っ越す前日、凪砂はそんなことを言い出した。


「だって……心配だもん…………1人で…」俯く凪砂に「大学生だから……俺。……みんな一人暮らしくらいしてる。姉貴は過保護すぎ」あまりに心配をしてくるからケタケタと笑うと「だってえ……」と泣き出した。


「俺は大丈夫だから。姉貴は北海道の生活を楽しめよ」「……うん。何かあったら絶対すぐに連絡してよ……?」心配性な姉に俺はまた笑うと彼女も少し笑った。


二人で晩飯を食べていると、姉貴の携帯にメッセージが届いた。「あ…静音からだ。……ふふっ……静音ったら」どんな内容かは分からないけどあいつは、遠隔でも姉貴を笑わすことが出来るなんて……少し……ほんの少しだけ尊敬する。


「ほんと、姉貴は本当にあいつのこと好きだよな。」少し嫉妬心を混ぜながら言うと、姉は思い出すように笑った。


「ん?……静音のこと?……ふふっ、大好き。私が男なら静音を口説いてた」クスクスと笑う姉貴に「男になるならあいつだろ。」と言うと「あー見えて静音は繊細で乙女なんだから」と笑うから〝あのバイオレンス女のどこが……〟と思ったけど、姉貴

機嫌がいいから、まぁいいか。と流すことにした。


翌日、姉貴は旦那と一緒に北海道へ発った。


「………で、……俺の新しい家は……このマンションか……」マンションは姉貴が用意してくれたもの。「男の子でも危ないから」とオートロックを選ぶ当たり、本当に過保護に感じる。


「えっと……503……か………」5階に上がると丁度お隣さんが部屋に入るところみたいで、ついでに挨拶をしようと近寄った。


「すみません、今日から越してきま………」見覚えのある雰囲気に固まると、目の前にいた女が鍵を開ける手を止めて俺の方を見た。




「あ!……やっと来た!……遅かったじゃない」何故かそこにはあの女……静音がいた。


「は?……なんで……隣人があんたなんだよ」「え?…………凪砂から聞いてなかったの?」そんなこと全く聞いてなくて首を横に振ると「凪砂が「一人暮らしなんて心配」って泣きそうな顔してたから…………ちょうど私の部屋の横空いてたから紹介したの。」



ウインクをするこの女にも姉貴にもいつまで経っても勝てない気がした。このうるさい隣人がいる煩わしさより、遠くで暮らす姉が少しでも安心するなら……それでいい。……なんて思ってしまう。


「あんた、親友の弟が隣人なんて嫌じゃねえの?」プライバシーの侵害…まで行かないけど、前よりは顔を合わせることが多くなるだろうし……


「……え?………なんでさ、嫌なわけない!……あの子の弟なんだから、私にとっても可愛い弟みたいなもんなんだから」断言なんてされるから、「……あ……そ。」と小さく返し、俺はため息をついた。


正直……めんどくさい。姉貴と全然違うタイプの静音はうるさいし、すぐ手が出るし、ずばずば物事を言うし……これから面倒な日常が始まる。……そう思った。


でも、姉貴が決めた家だから仕方がない。

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