偽りの聖女ですが、竜王と結婚させて頂きます。

@pinacoladas0x0

第1話

私が聖女だとわかったその日、人生が一変してしまった。


ーーーーーーーー


「ルヴィ、この花、君にとっても似合うと思うんだ!」

そうして差し出された白くて小さな花を受け取って匂いを嗅いでみる。

バニラのような独特の甘い香りが鼻をくすぐる。

「ありがとうございます、ハインケル様!すごく嬉しいです」

「本当によく似合っているよ。思った通りだ」

そう言って微笑む彼はとても優しい顔をしていた。




思い出せる記憶の中で一番古い記憶を夢に見て目覚めた。

あれからもう十数年。

思い出の中のハインケル様は幼くて可愛かった。

あの頃が懐かしい。

寝台でまどろんでいるとノックの音が聞こえる。


「ルヴィリアお嬢様、おはようございます。今日はハインケル殿下とお会いになる日ですね」

そう、そうだった。

公務で忙しい婚約者にやっと会える日。

胸が躍るのを隠すこともせずエミリアに笑いかける。


「そうね、今日は一段と可愛くしてもらおうかしら」

「任せてください!」

侍女のエミリアは腕が鳴る、と言わんばかりに張り切ってみせる。

鏡台の前に座るとエミリアが私のストロベリーブロンドの髪を結い始めた。


「お嬢様、今日のドレスはいかがされますか?」

「そうね、久しぶりにハインケル様に会えるのだからおしゃれしないと。この間買った青いドレスにしてくれるかしら」

「お嬢様の瞳の色のドレスですね!大変よくお似合いでしたから、殿下もきっと褒めて下さいますよ」

「ふふ、そうだといいわね」


優しい彼ならきっと何を着ていても褒めてくれるだろうけど。

しばらくぶりに会うハインケル様のことを考えているとあっという間に時間が過ぎてしまう。

「できましたよ。とてもお綺麗です」

「ありがとう、エミリア。それでは行ってくるわ」



馬車に乗り込み王城へと向かう。

選別の儀が近いため街は沢山の人で溢れている。

(私も選別の儀を受けるのね…万が一にも聖女なんてことはないと思うけど、緊張するわ)

100年に1度現れるという聖女---ヴィストリア聖竜皇国にはある伝説が遺されている。



1000年前、吸血鬼の軍勢が攻め込んできた。

その時聖女様が現れ竜王様と共に魔王軍を退け、お二人は天界へ移り住まれたという。


しかし人の身である聖女様は永遠に生きることはできない。

そのため竜王様の哀しみを癒すべく、100年に1度、聖女の力を持った娘が生まれると竜王様の花嫁となるべく天界へ送られるのだ。



竜王様は本当に聖女様の代わりを求めていらっしゃるのかしらーーー。

疑問を抱いているうちに馬車が王城に着き、いつもの庭園に通されハインケル様を待つ。


辺り一面を覆う白く小さいシルクスの花。

私によく似合うと言って下さった後、私のために庭園をシルクスでいっぱいにしてくれたのだ。

私はそんな優しいハインケル様が大好きだ。


幼い頃から、聖竜皇国の第一皇子としてお生まれになったハインケル・ルーク・ヴィストリア様の婚約者として定められ、厳しい后教育を受けてきた。

辛いことも多かったがハインケル様のためなら頑張れた。

横に並んで恥ずかしくないよう必死で努力をしてきた自負がある。

いつ結婚しても大丈夫だと自信もついてきた。

しかし、最近ハインケル様が変わってしまったように思えるのだ。


「待たせたね、ルヴィ。今日も綺麗だよ」

「ハインケル様!ありがとうございます。ご公務の方は落ち着かれたのですか?」

「それがなかなか片付かなくてね。寂しい思いばかりさせてすまない」


「謝らないで下さい。大変なご公務をこなされているハインケル様を責めるつもりなどございません。王位を継ぐためとはいえ、ご無理は程々になさって下さいね」

「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」


心なしか彼の瞳に翳りが見られる。

近頃のハインケル様はどこか遠くにいる人のような錯覚を覚えてしまう。こんなに近くにいるというのに、心が通じ合っていない気がする。

昔はこんなことはなかったのに…最近は特にお忙しそうだから私に構う余裕がないのね、と自分を納得させる。


「ところでルヴィ、君も選別の儀にはでるんだろう?僕の婚約者だからといって選別を受けないわけにはいかないからね。竜王様に君をとられてしまわないよう祈っているよ」

「まぁ、ハインケル様。いけない方。聖女に選ばれることは皇国一の名誉でございます。ご冗談でもそんな事仰ってはいけませんわ」


「はは、そうだね、不謹慎だった。でも本当に君が選ばれてしまったら僕たちは離れ離れになってしまう。そんなこと耐えられないだろう?」

「そのようなことにはなりませんわ。私のような者が聖女であるはずがありませんもの」


「あぁ、そうだといいね」

私を見るハインケル様の瞳はどこか冷たい光を帯びていた。

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