第15話 自由交流食事会…5…
…軽巡宙艦『グラード・サマルカンド』…
…バー・ラウンジ…
5人掛けの丸テーブルに着いている女性2人と男性2人…4人を迎え容れるように、立っている男性がひとり。
「…今回集結した5隻に於ける砲術長の皆さん…ようこそこの『グラード・サマルカンド』へ…改めまして私が本艦の砲術長を務めます、ジョシュ・セラーノです…挙って歓迎させて頂きます…お任せ頂ければ、上質ビーフ・ハンバーグステーキ・ディナーセットか或いは、ポークステーキ・ディナーセットのいずれかで、お持て成しさせて頂きます…またスピリッツとして世界に存在している酒ならば、総て取り揃えています…勿論他のお料理や、お酒のご用命にも即時に対応しますので、ご自由にどうぞ…では…我らの出会いを祝い記念して、まずは生ビールで乾杯しましょう…お取り下さい…乾杯! 」
「…乾杯!! 」
エドナ・ラティスは生ビールのグラスを掲げ、半分まで呑んで座ると直ぐに手を挙げた。
「…すみません…ハンバーグステーキ・ディナーセットでお願いします…お酒は、麦焼酎『かのか』をロックで…」
「…かしこまりました…他の方もご自由にお申し付け下さい…」
他の3人の内2人は、ハンバーグステーキ・ディナーで…1人が、ポークステーキ・ディナーセットを頼んだ。
エドナ・ラティスの左隣には、もうひとりの女性砲術長…『オーギュスト・アストリュック』の、ダーラン・ベルフォードが座っている。
「…ハイ…女の砲術長は私達だけだから、気楽に話しましょう…私はダーラン…ダーラでも良いですよ…エドナさんで良い? 宜しくお願いしますね…」
「…宜しく、ダーラさん…エドナでお願いします…乾杯しましょうか? 」
「…ありがとう、エドナさん…お受けします…じゃあ、乾杯……女優さんの中でも最強の射撃手である、エドナさんと直にお話できて嬉しいです…」
「…こちらこそ(笑)…ファースト・ゲームで6th・ステージをもクリアした艦の砲術長とは、私も直にお話したかったですから……私…結構射撃競技会には出てるんだけど…アナタとは今日、初めて会ったわね…競技会には出てないの? 」
「…ええ…私、3年前から海軍正規艦隊の艦載砲科教官を務めてるんですけど…それまでは警察官だったんですね…だから寧ろ…競技会には…参加するよりも、開催する方の立場だったんです…だから競技者として参加した事は1度もないの…」
「…そうなんだ…でも、アナタは私よりもずっと凄いよね…」
「…いやいや、とんでもないですよ…ウチらが6th・ステージをクリアした後で、エドワード艦長が言ってました…『…我々が獲得した成果などは、ゲーム大会開幕前に『ディファイアント』が成し遂げた【『ディファイアント』共闘同盟】結成と言う、巨大な成果に比べれば微々たるものである』…ってね…」
その時、右隣に座っている『フェリックス・ラトゥーシュ』のネスター・セガンがグラスを寄せる。
「…エドナさん、乾杯をお願いします…貴女のファンです…主演作は総て持っています…『ディファイアント』で砲術長に就かれた貴女と、同じ砲術長としてお話できて嬉しいです…」
先ずお互いのグラスを触れ合わせる。
「…ご丁寧にありがとうございます、ネスターさん…こちらこそ光栄です…宜しくお願いします…では、乾杯…」
「…ありがとうございます…どう致しまして…エドナさん…8ヶ月前に開催された、デルサコ国際射撃競技会を憶えていますか? 2回戦で貴女と対戦して…3 : 2 のセットカウントで下されました…」
「…え…と…あっ…憶えてます…あの時はもっと髪が短かったですね…」
「…そうですね…そろそろ散髪にも行かないと…それは置いて、トップ女優の中でも最強の射撃手である貴女を『ディファイアント』の砲術長にスカウトしたアドル・エルクさんの慧眼は…それだけでも尊敬に値するものです…」
「…あの…食べながらですみません…『フェリックス・ラトゥーシュ』の皆さんはどうして…私達と戦うことに同意されたんですか? 」
「…エドナさん…他の3艦の皆さんも多分…同じなのではないだろうかと思いますが…少なくとも我々はその心中…心底に於いて【『ディファイアント』共闘同盟】への加盟は…肯定しています…おそらく…明日の戦いの結果がどうなろうとも、多分4隻とも『同盟』には加盟するでしょう…」
「…ネスターさん! だったらどうしてわざわざ戦うんですか?! 」
「…エドナさん…『同盟』に加盟すれば我々は『ディファイアント』と戦えなくなります…だからこそ我々は今、観たいんです…アドル艦長の知略・戦略・戦術・戦法…貴女の砲撃もね…そして同時に我々のそれらも観て欲しい…アドル艦長に…貴女にもね…だから明日の戦いは、加盟前の我々に出来る最初で最後のアピールなんです…全力でいきますよ…」
「…分かりました、ネスターさん…明日は私も『ディファイアント』も、全力でお受けします…」
そう応えてエドナとネスターは、またもう1度静かに杯を触れ合わせた。
「…エドナさん、私とも乾杯をお願いします。私も明日は貴女と撃ち合えるのが楽しみですよ…」
そう言って『グラード・サマルカンド』のジョシュ・セラーノが、右側から笑顔でグラスを掲げる。
「…お受けします、セラーノさん。乾杯…」
「…エドナさん、私ともお願いします…」
左側からも声が掛かる…『ラムール・ハムール』のレックス・ダンソンだ…自分よりも数才若く観える…が、素晴らしい長身で…かなりのマッチョだ。
エドナも笑顔でグラスを掲げた。
「…おふたりとも、射撃競技会で数回お見掛けしましたね…対戦はありませんでしたが…」
「…憶えていて下さって、恐縮です…明日は最初で最後の対戦になりますが…全力でいきますので、遠慮なく撃ち込んで下さい…」
「…お互いに全力で、思い切って撃ち合いましょう…悔いの無いように…」
「…分かりました。こちらこそ、宜しくお願いします…今は同時にメイン・パイロットの皆さんも会合に参加されていますね…ご存知の事とは思いますが…私達、砲撃管制官の腕や眼がいくら良くても…それだけでは戦えません…機関部ともそうですが、特にメイン・パイロットとは速くスムーズで確実で合理的な連携が不可欠でしょう…常にそれを意識して、お互いに心掛けていなければ…自信を持って主砲のトリガーは引けません…百も承知の事とは思いますが、改めてお互い…肝に銘じたいですね…」
「…流石は『ディファイアント』で砲術長の任に就かれるエドナ・ラティスさん…私も重々に承知しているつもりでしたが、改めてのご教示には真に痛み入ります…そして益々明日の戦いが楽しみになりました…」
「…全く同感です…差し支えなければお応え頂きたいのですが、アドル艦長から受ける指示や教示とは…エドナさんにとってどのようなものですか? 」
「…アドル艦長からの指示や教示は…身構えていても、想像を遥かに超えるものですが…いつも実行・実践してから納得します…」
「…ねえ…エドナさん…アナタ…アドル艦長の事…相当に好きだよね? 」
左隣からダーラン・ベルフォードが流し目で訊いた。
「…好きですね…愛してます…でも…奥様やお嬢さんを驚かせたり、脅かしたり悲しませたりはしません…絶対に…」
「…まあ…快いでしょう…今夜は自由交流会ですから…宴会ですから…もっと呑んで、食べましょう……皆さんにボトルのお代わりをお願いします…」
ネスター・セガンがその場を執り成すように努めて明るく言い、自分で乾杯の音頭も執った。
その後も、呑んだり食べたり雑談したりと続いてはいたが、交流と呼べるようなレベルに迄は至らなかった…砲術長と言うポストは戦闘・攻撃部門の要でもあるので、話せる内容は自ずと限られてくる…艦内での人間関係についてもあまり言及できないから、会話そのものもあまり盛り上がらない…それでもエドナ・ラティスは、彼らが『同盟』に入ってくれれば同じ仲間になるから、様々な状況交流に於いても忌憚の無い話し合いが出来るようになるのだろうと思いながら、トップ女優のスキルを駆使して…愛想笑いと相槌と…過不足も影響もない受け応えで、その場を和ませながら過ごしていた…出来れば早く終えて帰艦したい……
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