第12話 自由交流食事会…2…

 シエナ・ミュラーを乗せたシャトルは、2番目に『ラムール・ハムール』のシャトル・デッキに着艦した。


 先に着艦したシャトルの右隣で停止する…保安部のシーラ・メロが、パイロット・シートから振り返った。


「…後部ハッチを開けます…」


「…ありがとう、シーラ…」


 降り立つと、もう眼の前にマリーナ・シェルトン副長が居た…背筋を伸ばして直立し…お互いに相手の顔を直視する。


(…私よりも少し背が高いかな…スタイルも私より好いわね…)


「…ようこそ『ラムール・ハムール』へ…シエナ・ミュラー副長…歓迎させて頂きます…私が貴女をお迎えする事ができて、嬉しいです…」


「…こちらこそ。マリーナ・シェルトン副長…お招き頂きまして、ありがとうございます…今夜は宜しくお願いします…」


 応えて握手を交わした…既に4機のシャトルは総て着艦して並んで停止し、後部ハッチが解放されている。


「…初めまして…『オーギュスト・アストリュック』のライアン・シーゲルです…お招きに与り、まかり越しました…今夜は宜しくお願いします…」


「…初めまして…『ラムール・ハムール』のマリーナ・シェルトンです…ようこそおいで頂きました。歓迎させて頂きます…」


「…初めまして…『フェリックス・ラトゥーシュ』のローリー・オリファントです…お招きに従い、お邪魔致します…宜しくお願いします…」


「…続きまして…『グラード・サマルカンド』から参りました、アシュレー・サラザールです…初めまして…お招き頂きまして、ありがとうございます…今夜はお世話になります…」


「…ローリー・オリファント副長…アシュレー・サラザール副長…ようこそ『ラムール・ハムール』においで頂きました…初めまして、副長のマリーナ・シェルトンです…今夜はどうぞ、ごゆっくり寛がれて…楽しんでいって下さい…こぞって、歓迎させて頂きます…では立ち話も無粋ですので、ラウンジにご案内します…こちらです…」


 先に立って歩き出したマリーナ・シェルトン副長の後ろに着いて歩き出したシエナ・ミュラーだったが、後ろからシーラ・メロがボトル・ケースを手渡した事で、カーステン・リントハートから託されたお土産を忘れていた事に気付いた。


(…私ったら何て事…)


 シーラ・メロには右手を挙げて謝意を伝え、思い直して後に続く…シーラは最後尾に着いて歩き出した。


「…やっぱり同じ軽巡宙艦ですから、構造は同じなんですね? 」


 『オーギュスト・アストリュック』のライアン・シーゲル副長が、席に着いてラウンジ・スタッフからお絞りを受け取って訊いた。


「…そりゃあ、まだファースト・シーズンですから当然でしょう…このままシーズンが進めば、自分達で改造出来るようになるかも知れませんがね…」


 そう言って『フェリックス・ラトゥーシュ』のローリー・オリファント副長が、手を拭いたお絞りを丁寧に畳んだ。


「…あの、マリーナさん…これは『ディファイアント』のチーフ・バーテンダーから託されて参りました…お土産です…どうぞ、こちらのバック・バーにでもお納め下さい…」


 そう言ってシエナ・ミュラーは、頭を下げながらマリーナ・シェルトンにボトル・ケースを手渡した。


「…あら、シエナさん…どうもご丁寧にありがとうございます…さあどうぞ、お座り下さい…」


 そう言ってマリーナは、ラウンジ・スタッフにボトル・ケースを手渡す。


「…お世話になります…」


 シエナも大型丸テーブルの席に腰を下ろした。


 この時点で全員が席に着いていた。


「…それでは、各艦に於いて副長の任に就いておられる皆様、改めましてようこそ『ラムール・ハムール』へおいで頂きました…当艦にて副長の任に就いております、マリーナ・シェルトンです…宜しくお願いします…全クルーこぞって歓迎させて頂きます…当艦艦長ブラッドフォード・アレンバーグの命令により、皆様に供させて頂く最初の乾杯は『ブラントン・ヴィンテージ30』を用いた、スリーフィンガーでのオンザロックとさせて頂きます…その後の飲み物や料理に関しましては、何なりとラウンジ・スタッフにお申し付け下さい…即時に対応させて頂きます…尚、当艦のマスター・シェフは各種の肉料理を得意としております…特にご要望がなければ、当バー・ラウンジ特製のステーキ・ディナーでのお持て成しとさせて頂きます…」


 そう言ってマリーナ・シェルトンが右手を挙げるとすぐに5人のラウンジ・スタッフが歩み寄り、10秒も掛けずに5杯のバーボン・オンザロックを配した。


 中のひとつを右手で取って掲げたマリーナ・シェルトンが、乾杯の音頭を執る。


「…では、私達の出会いを祝い、より好い懇親・交流を願って、乾杯! 」


「…乾杯!! 」


 立ったままグラスを掲げ、ひと口呑んだマリーナがシエナ・ミュラーの右隣に座った。


「…ハイ、シエナさん…今夜は来てくれてありがとう…貴女とは、ちょっとゆっくりお話したかったから…」


「…ありがとうございます。私もマリーナさんとは、お話してみたいと思っていました…」


「…ありがとう…シエナさん…明日は朝から戦う事になるんだから、今夜は楽しく呑んで食べて、お喋りしましょう? バーボンは口に合います? 」


「…そうですね…そうしましょう…ウィスキーは、ゆったりとしたい時によく呑みます…」


 そう言ってシエナは、もうひと口含んだ。


「…シエナさん、アナタ…香水が趣味なの? 何だか珍しい香りだから…」


「…ええ、自分に合う香水を見付けるのが趣味のひとつです…でもまだ見付けられてないんですけど…」


「…アドルさんは、何て? 」


 そう訊いて、マリーナもひと口呑む。


「…似合ってるって、言ってくれました…でもその直ぐ後で、私にピッタリの香水を一緒に探しに行こうとも、言ってくれました…」


「…羨ましいわね…ブラッドはそんな事言わないから…」


 そう応えて、お通しのマッシュルーム・オリーブ・ソテーをつまむ。


「…でも…お付き合いされて、まだそんなに経ってないんでしょう? 」


「…そうね…初めて顔を合わせてから、100日くらいかしら…深い仲になってからは、2ヶ月くらいね…アナタとアドルさんは、初めて会ってどのくらいなの? 」


 そう応えて訊いてから、海藻サラダを箸でつまんだ。


「…やっとまる2ヶ月くらいですね…もっと長かったんじゃないかとも思いますが…」


「…でも、もう好きなんでしょ? 深いの? あ、これがチキンでポークにビーフね…シンプルなソテーだけど、味付けが微妙に違うの…私のおススメはポークね…」


 そう言ってポーク・ソテーも箸でつまんだ。


「…ええ、好きですね…でも、そこまではまだ…ありがとうございます…頂きます…」


「…アタシは、ブラッドに言ったのよ…アドルさんに惚れたって…そしたら、あいつ…『まあ、そうだろうな』って顔してた…」


 シエナはちょっと驚いてマリーナを観たが、ライトビアのボトルを取って口を付ける。


「…アタシとアイツは気性と好みが似ていてね…よく分かるんだ…もしもブラッドより先にアドルさんと知り合っていたら…何としてでも芸能人になって、彼に選ばれるようにしたわ…アドルさんに妻子があってもね…」


 そこで言葉を切ってバーボンをふた口呑む。


「…でもブラッドと先に知り合ったんだから、そんな事はしないわよ…惜しかった、とは思ってるけどね…シエナさん、食べたいものがあったら何でも言ってね? 何でも直ぐに用意できるから…」


「…ありがとうございます…じゃあ、同じバーボンをもう一杯と…おススメのステーキ・ディナーを頂きます…」


「…そう来なくっちゃ…シエナさんの事も好きだよ…」


 そう言ってマリーナは、近くのスタッフに注文を伝えた。


「…ねぇ、シエナさん…明日の戦いの結果がどんな事になっても『ラムール・ハムール』は【『ディファイアント』共闘同盟】に加盟するわ…ブラッドがこのゲームの中でアドルさんに再会して…アタシはその後、直接に彼から聞かされているから…」


 温野菜サラダとビーフ・ソテーを食べて、そう伝えた。


「…なぜ…アレンバーグ艦長は、そう決めたのでしょう? 」


「…セカンド・ゲームの後でアタシに言ったんだけど…『俺はもう、あいつには到底敵わない…だから、付いて行こうと思ってるんだ』…ってね…」


「…勝てなかったからでしょうか? 」


「…それもあるけど、アドルさんの魅力だね…アイツはアタシとは違う意味で、アドルさんに惚れてる…って言うよりは、心酔してるって言う方が近いかな…アタシ達、あの時『クラブ・サマルカンド』で一緒に話を聴いていたけど…アタシでもビンビン感じたよ…怖いぐらいの人間的な魅力? ぐらいにしか表現できないけどさ…それでアナタが本当に羨ましいと思った…でも、それ以上にすごいと思ったのは、アドルさんの奥様だね…あのアドルさんをコントロール出来るなんて相当な女性ひとだよ…アドルさんから受ける怖さとは違う種類の怖さも感じる…会った事はないけどね… ホラ、シエナさん…このビーフシチューと…モツの煮込みも美味しいよ…ライスは貰う? 」


「…いいえ、マリーナさん…並んでいるお料理だけで、充分お腹いっぱいになれます…それよりマリーナさんは、私達よりすごいですよ…実は開幕前に2回、アドルさんのご自宅にお邪魔させて頂いて…奥様ともお話しさせて頂いたのですが、私達はお話しさせて頂いて初めて奥様の素晴らしさ・凄さ・怖さが分かったので…まだお会いしていないのに感じ取ったマリーナさんの方が、私達よりすごいです…」


 そう言ってシエナは、届けられたステーキ・ディナーに取り掛かり始めた。


「…あら、そう…ありがとうね、シエナさん…でもね…あの秘書さん? リサ・ミルズさんって言ったっけ? 彼女もかなり鋭いわね…何だかこう…レベルが違うようにも感じたんだけど…それに彼女も、アドルさんの事が相当に好きみたい…」


「…ええ…まだ若いですけど、優秀な秘書さんですね…そして会社の中では、彼女が1番アドルさんの事を愛していると思います…」


 シエナの応答に違和感を覚えたマリーナだったが、口に出しては何も言わずに微笑みを観せただけだった。


 ここでシエナの左隣に座ったライアン・シーゲルが、軽くグラスを掲げて観せる。


「…失礼します…『オーギュスト・アストリュック』のライアン・シーゲルです…シエナ・ミュラー副長とお近付きになれて光栄です…宜しくお願いします…では、取り敢えず乾杯を…」


「…初めまして。シエナ・ミュラーです…乾杯、お受けします…シエナと呼んで下さい…ライアンさんで宜しいですか? 私もお会いできて嬉しいです…シャルル・ウォルフ艦長とは先日、お会いしました…」


 そう応えて、お互いのグラスを触れ合わせる。


「…承知しています…ライアンで宜しくお願いします…【『ディファイアント』共闘同盟】は現在、27隻でしたね? 」


「…はい、そうです…」


 応えてまたひと口呑む。


「…食べながら呑みながらで失礼します…率直にお訊きしますので、ご気分を害されたようでしたら…申し訳ありません…」


「…構いません…どうぞ? 」


「…『ディファイアント』は『同盟』主宰艦であって、僚艦は26隻…シエナさんはそれぞれの艦長や副長の皆さんと面識があるものと思いますが? 」


「…はい…お会いしています…」


「…それらの方々は全員…アドル・エルク艦長を『同盟』の主宰として認め仰ぎ、支持して指揮下に入った事を受け容れてらっしゃるのでしょうか? 」


「…率直なお尋ね様ですわね…」


 応えてシエナは食べる手を止めて口を拭い、ひと口呑んで姿勢を正した。


「…恐れ入ります…我々も、生き延びられるのかどうかが掛かっておりますので…」


 ライアン・シーゲルもグラスを置いて背筋を伸ばした。


「…確かに…【『ディファイアント』共闘同盟】は結成されてまだ間も無く…まだ規模も小さいですね…セカンド・ゲームでの大乱戦に、辛くも勝利して生き延びましたが…それは貴方がたが来援して下さった事が、大きな要因であった…とも言えるでしょう…故に…全員がアドル・エルク主宰を100%信頼して忠誠を寄せているのか? と問うなら…まだ100%とは言えないだろう、とも思います…でも今はそれで良いと思います…『同盟』内に犠牲者は出ていませんし…アドル主宰は今後も敗けませんから(笑)…」


「…分かりました…期待以上のお答えを頂きました…もう一度、乾杯をお願いします…今のお答えで、4人の艦長がこの戦いに合意した理由わけが、私なりに解りました…」


「…そうですか…どう致しまして…では、乾杯…」


 改めて、グラスを触れ合わせた。


「…初めまして…『フェリックス・ラトゥーシュ』のローリー・オリファントです…宜しくお見知り置きの程をお願いします…ローリーでお願いします…」


「…初めまして…ご丁寧にありがとうございます…『ディファイアント』のシエナ・ミュラーです…こちらこそ、シエナで宜しくお願いします…」


 挨拶を交わして、またグラスを触れ合わせた。


「…失礼ですが、シエナさんが【『ディファイアント』共闘同盟】の副宰ふくさいでいらっしゃるのですか? 」


「…いいえ、ローリーさん…現在の『同盟』に副宰のポストは設定されておりません…食べながらでごめんなさい…」


「…いいえ、構いません…私も食べながら伺っておりますので…またこれも失礼ですが、もしもアドル主宰の身に何かアクシデントがあった場合…『同盟』はどうなりますか? 」


「…それはアドル主宰が、そのアクシデントでこうむったダメージのレベルによって、対応して発動する体制と当面の措置そちが定められています…申し訳ありませんが、その内容についてをここで詳しく申し述べるのは、ご容赦下さい…」


「…分かりました…理解しております…ありがとうございました…こちらこそ、すみませんでした…」


「…いいえ、どう致しまして…ご理解頂きまして、ありがとうございます…」


 ひとまず話が区切られたので、また呑んだり食べたりに戻る…流石にマリーナ・シェルトンが言った通り、肉料理に於いては特筆すべきセンスがある。


(…でもまあ、ウチの巨匠マエストロには及ばないけどね…)


「…あ…あの、シエナさん…離れた所からすみません…『グラード・サマルカンド』のアシュレー・サラザールです。同じ女性副長として…是非、お話したいのですが…」


 聞いたマリーナ・シェルトンは2人のラウンジ・スタッフに言って、1人にはシエナが座っている席の料理と飲み物の総てをアシュレー・サラザール副長の右隣の席に運ばせ、もう1人にはシエナを丁寧にその席までエスコートさせた。


「…ハイ、アシュレーさん…初めまして。先ず乾杯しましょうか? もうかなり呑んでるから好いよね? シエナ・ミュラーです…5隻の中で3人が女性副長だから、女子会ができるね(笑)? 」


 アシュレー・サラザール副長の右隣に座って、笑いながらグラスを触れ合わせる…アシュレーのメインディッシュも同じステーキ・ディナーだったが、魚料理にサラダも複数並べられていた。


「…美味しいね? 」


「…ええ、とっても美味しいです…あの…シエナさんとお話するのを楽しみにしていました…同じ女性副長と言う事もありますけど…あのアドル艦長をどのようにサポートされているのか、よく伺って勉強したいです…」


「…アシュレーさん…まだフィフス・ゲームでしょ? このゲーム大会…まだ始まって5回目ですよ…まだそんなに大した事は出来ていません…アドル艦長の指示に即時対応するだけで精一杯です…アドルさんは私達のおかげだって、いつも言ってくれますけど…アドルさんそのものが凄過ぎる人ですから…」


「…アドルさんの事…好きなんですか? 」


「…恋愛とはちょっと違うって考えなきゃいけないって感じながらなんだけど…好きですよ…でなきゃ、一緒にはやっていけないでしょう? 」


「…そうですよね…艦長の事…好きにならなきゃいけないのかな…」


「…そんな事はないでしょう…ただ…尊敬できないような人だと…一緒にやっていくのは、ツラいでしょうね…私はピッカリング艦長が、どんな人かはまだ判ってないんだけど…」


「…エドワードは、アドル主宰の事をよく褒めています…『あんな人は、滅多にいない』って言ってました…きっと…彼もアドルさんの事は、かなり尊敬していると思います…」


 そのアシュレーの返答を、彼女の横顔を微笑んで観ながら聞いていたシエナだったが…彼女に顔を寄せると声を落とした。


「…ねえ、アシュレーさん…アナタ…2人っ切りの時は『エド』って、呼んでるでしょ? 」


 座ったままだったが、アシュレーは驚いて跳び退った…瞬間、シエナが彼女の右腕を掴んで、椅子から落ちないようにしたほどだ。


「…ど…どうして知っているんですか? シエナさん…お願いです…この事は誰にも…特にウチのスタッフには言わないで下さい…でないと…」


「…大丈夫よ、アシュレーさん。誰にも言わないわ…さあ、もう少し食べましょう…その前に、もう1度乾杯ね? 」


(…4隻それぞれの副長が、どんな人だか心配だったけど…これなら4隻が『同盟』に加わったとしても、何とか仲良くやっていけそうだわ…)

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