第3話 歓談から帰宅へ

「…ああ、アドル…悪いな、訂正だ…規制条項は無いと言ったが、ひとつだけある…シールドは使わない…お互いにな…どうせ撃ち合いに来てるんだ…シールドなんぞ使っていたら、かえって決着までの時間を引き延ばすだけだろう…」


「…まあ…それもそうだな…決着までの時間が長引けば…いずれ他艦が寄って来て、面倒な事になる…それは構わんよ…だが光学迷彩や、アンチ・センサー・ジェル…ミラージュ・コロイドの使用についてはどうする? 」


 4人は3秒程、顔を観合わせて頷く。


「…それらも使わない事にしよう…小手先・小細工無しで、ガチの撃ちあいだ…」


「…了解した…話は変わるが、君達はどうやってクルーを集めたんだ? 艦長役に選ばれた俺達は最初に530人のクルー候補者リストを貰って…その中から選んだだけなんだが…」


 そこまで言って、次はグレン・モーレンジを注いで貰った。


「…そりゃあ勿論…昔からの知り合いから初めて、片っ端から声を掛けたのさ…参加費用を80人で頭割りにしたって、結構な額だからな…30隻も沈めりゃあ、元が取れるからって言って、口説いたよ…」


「…俺とブラッドは『サンドラス・ガーデン』で結構絡んでいてね…気心は知れてるんだが、君達は『ガーデン』に入っていたのか? 」


「…入っていましたね…双剣遣いの『フェリックス・ゲラン』です…アドルさんのアヴァターは? 」


 そう言って、シャルル・ウォルフがオルメカ・ブランコのグラスを置く。


「…魔法剣士の『シエン・ジン・グン』だったよ…それでこいつが『マイク・ハーマン』…」


 これにはホステスさんの1人が反応した。


「…ええっ! 貴方があの『シエン・ジン・グン』様だったんですか?! 私も『ガーデン』には入っていて、彼を探していたんですけど会えませんでした…聴こえて来るのは噂ばかりで…」


 ホステスさんの1人が驚いて、嬉しそうに声を挙げる…シャルル・ウォルフも目をみはった。


「…ゲームの世界も狭いもんだな…お前の煙草、1本くれよ…」


「…ああ…」


 応えてブラッドにシガレットを1本、ボックスから取らせる。


「…私も参加していました…大弓おおゆみの『ソフィスト・アンディステネス』です…アドルさんが、あの18体抜きの『シエン・ジン・グン』だったとはね…言われてみればもありなん、ですが…」


 ジョルジュ・ライエが感心したようにグラスを掲げ、光に透かしてダルウィニーの色合いを眺める。


「…私も『サンドラス・ガーデン』にはアカウントを持っていますが、あまり入っていません…長槍ながやりの『モスコ・メネデウス』でした…あそこは1人じゃあまり楽しめないし、パーティーを組むのに難儀なんぎするもんでね…」


 飲み干したグラスを置くと、ホステスさんが次は何にしますかと訊いたので…エドワード・ピッカリングはハーパーを頼んだ。


「…『ガーデン』には…物凄く強い連中が確か、40人くらいは居たな…その中で何人くらいが『サバイバル・スペースバトルシップ』に参加していると思う? 」


「…さあなあ…お前と交信した時にも言ったが…居ても半分くらいじゃないか? 何せこっちは参加費用がべらぼうだ…おいそれとは登録できんだろう…」


「…登録できたところで…クルー集めで苦労するからな…」


 シャルル・ウォルフがピザを一切れつまんで口に入れる。


「…6th・ステージまでクリアしたふね…あと2隻居たよな? どう思う? 」


「…参加していたかどうか、か? 判らん…3人とも交信してないし、見掛けてもないそうだからな…だが、可能性はあるだろう……このシガレット…旨いな…何処で買った? 」


「…最初はハイラム・サングスター艦長からのお裾分けでな…それで初めて知った…以降の購入はリサさんに頼んでる…」


「…アドル…お前、会社じゃ係長だよな? だがその実、待遇はもう役員クラス…だろ? 」


「…まあ、そんなところだな…4月からは課長に昇進するから基本給は上がる…俺が社員である影響で、業績も株価も右肩上がりだから、今期のボーナスはけたが違うって話だ…艦長としての役職報酬と、配信番組での出演料も入る…もう毎週月曜日は特別功労休暇と言う事で、会社での業務は免除されているし…運転手付きの社用車が俺専用に充てがわれている…役員クラスの待遇と言っても間違いじゃないだろう…ただ…二重雇用を指摘されるかも知れない…その場合、俺が何かを表明するのはマズいだろうから…会社の広報が、対応すると言う話は聞いているがな…」


「…二重雇用にはあたりません…アドル係長は、リアル配信番組『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』からの、出演要請に応じて出演されていると言う形態ですので、そのように主張できますし、証明もできます…指摘された場合には、そのように対応します……それに弊社は『ロイヤル・ロード・クライトン』としても、このゲームに参加しておりますので…その線に於いても、反論を主張・展開して証明できます…」


 リサが落ち着いて静かに言い切る…あまり呑んだり食べたりはしていないようだ…私は口許に持って行こうとしていたグラスを下ろした。


「…ウチの会社が『ロイヤル・ロード・クライトン』をゲームに登録したのは…そのセンもあったのか……」


「…アドル…お前…つくづくすごい人達に支えて貰ってるな…『共闘同盟』に…今は27隻か…それをまとめあげて、あれ程の戦果を挙げられた理由が…今、解ったよ…だがお前と戦ってみたい気持ちは変わらない…今のお前と『同盟』に対する俺達の評価とは別に…4対1の戦いはやらせて貰う…好いな? 」


「…ああ…好いよ…それは俺も望むところだ…それにひとつだけ言わせて貰えれば、俺の方がやり易いんだよ…」


「…どう言う意味だ? それは…」


「…君達は対艦戦闘に於いて巧者きゅうしゃだ…であるからこそ解る話だと思うが…自分以外総て敵と言う状況は、逆から観れば却ってやり易い…状態を気にしなきゃならない味方がいないんだからな…だからこそ、18体抜きなんて真似も出来る…」


「…なるほどな…言われてみれば、腑には落ちる話だ…」


「…それに…関係者の皆さんは全員…アドルさんの事が大好きなんですね…」


 そう言って小さい溜息をきながら、飲み干したグラスを置くマリーナさんだ。


「…ああ…そうだ…アドル…解ってきた…お前の魅力…って言うのかな? それは、一緒に同じ立場で同じ事に話しながら取り組んでいく中で…いつの間にか惹き込まれていく…って所だ…『ガーデン』の中でも感じていたけどな…やっぱりお前は普通でも、只者でもないよ…」


「…そこまで言えるお前も、只者じゃないと思うよ…実はこのゲームに参加して…周りからその点を指摘されるまで…俺も自分のこの特質? には気付いちゃいなかった…自分についちゃ鈍いって所と、女房がわざと気付かせないようにしてたって所もある…」


「…どうしてですか? 」


「…そりゃあ、レベッカ…他の女が近付いて来るのを防ぐ為だろ…して観るとアドル…お前の奥さんも相当な人だな…」


「…全く同感です…」


 これにはリサとシエナとフィオナが同時に応えた。


 驚きの波紋がその場に拡がったが、気にしない風を装って干したグラスを置き、サンドイッチをつまんだ。


「…それにしても、ハイラム・サングスター中佐を説得して『同盟』に組織したのは、すごいと思いますよ…」


 自分の煙草を出して咥えながら、エドワード・ピッカリングが言う。


「…実は『同盟』の構想を最初に推して賛同してくれたのが、中佐だったんだ…それが強力な後押しにはなったね…」


「…アドル…お前、中佐にスカウトされるんじゃねえのか? 」


「…ああ…もう何度も誘われてるよ…断ってるけどな…」


「…なんで? 」


「…生臭いのは嫌なんだよ…それに『運営推進委員会』もキナ臭過ぎる…ゲーム大会はいつ終わるか分からないけど、もうイイやって思ったら…ゲームも会社も辞めて、カフェダイナーを開くんだ…それだけはもう決めてる…」


「…へえ…良い計画だな…上手く辞められれば好いな…」


「…まあ、祈っといてくれよ…」


「…シエナ・ミュラーさん、マリーナ・シェルトンです…宜しくお願いします…」


「…宜しくお願いします。シエナで好いですよ…」


「…ありがとうございます。じゃあ、私の事はマリーナで…」


「…ハイ、マリーナさん…とても素敵ですね…」


「…ありがとうございます…シエナさんは、アドルさんの事が好きなんですか? 」


「…マリーナ…」


「…好いんですよ、ブラッドフォードさん…ええ、好きですよ。でも、私だけじゃありません。全員が好きです…」


「…本当に?! 」


「…ええ! そう…」


「…だから『ディファイアント』は強いんですね…」


「…そうね。ありがとう、マリーナさん…」


「…エマ・ラトナーさん。改めて、初めまして。レベッカ・スロールです…」


「…初めまして、レベッカ・スロールさん。宜しくお願いします。エマで好いですよ…」


「…ありがとう、エマさん。宜しくね。私の事もレベッカと呼んで下さい…あの時には突然に失礼しました…」


「…好いんですよ、レベッカさん…貴女に私を墜とすつもりが無かったから、私は今もここに居られます…今は貴女に敵わないけど…いつかは、貴女と肩を並べられるくらいに強くなります…」


「…エマさん、私からも失礼をお詫びします…『ちょっと遊んで来い』と言ったんですが…やり過ぎでした。申し訳ありませんでした…」


「…大丈夫です、ブラッドフォードさん。過ぎた事ですし、気にしておりませんから、お気になさらないで下さい…」


「…ありがとうございます、エマさん…そう言って頂けると、助かります…」


「…レベッカさん…いつか本物のサーキットや空を…一緒に走ったり、飛んだりしたいですね…」


「…ありがとう、エマさん…ファースト・シーズンが終わったら、私からお願いします…ひとつだけ教えて? あの時…アドル艦長がもっと早く迎えに来ていたら、どうなっていたかしら? 」


「…そうですね…10秒も掛からずに、貴女は撃退されていました…」


「…撃墜じゃなくて? 」


「…そう…アドルさんは、参加者を無闇に戦死扱いにはしません…敵であってもね…」


「…そうだ…『ガーデン』の中でも…こいつが息の根を止めたのは、余程よほどどうしようも無いクズ悪党だけだったさ…だから、味方も仲間も多かった…」


「…それで…どうする? まだここで、呑み食いしながら喋るか? 金もかさんできてるし…どんどん戦う気持ちが薄れてきてるようでもあるがな…」


 ジョルジュ・ライエが干したグラスを置いて、煙草も揉み消した。


「…そうだな…お開きにしよう…会計を、お願いします…」


「…分かりました…」


 初めての超高級クラブだったが、料金は予想よりも安かった…卸したボトルを総て私の名で入れても、ビット・ロッドにチャージされている金額の22%だった…ダラダラと居座らなかったのも良かったのだろう…その場に居た全員で連絡先を交換し合い、握手を交わして別れを告げる…運転手さんが待機していた飲食店に席を移して、補足的な食事を摂って帰路に着いた。


「…皆…急な話だったのに、来てくれてありがとう…」


「…どう致しまして…そんなに遠い距離でもなかったです…」


「…リサさん…運転手さんに言って、全員の家を回って貰おう…」


「…アドルさん、公共交通機関パブリック・トランスポートは稼働しています…最寄りのステーションまででお願いします…」


「…分かった…話は変わるけど…反対しないでくれて、ありがとう…」


「…反対なんてしませんよ。だって『ディファイアント』は負けませんもの…」


「…そうですよ。この前アドルさんが構築した、あのシステムがありますから…絶対に勝てます…」


「…うん…皆、ありがとう…とにかく…皆を落胆させないように…全知全能を尽くすよ…だから…皆の力を貸してくれ…」


「…勿論です…」


「…任せてください…」


「…ありがとう…副長は今日の事を全クルーに通達…フィフス・ゲームに向けて、心身共に万全とするようにと添えてくれ…」


「…分かりました…」


 その10分後にリムジンは最寄りステーションのサークル・エントランスに滑り込み、彼女達はリサも含めて全員が降りた。

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