02.さらばマイアミ

 悪党がのさばるこの世の楽園マイアミ。そこで働いていたころのブライアンの仕事は違法薬物のシノギをしょっ引く刑事”デカ”だった。自慢のGT-Rのエンジンをレッドゾーンまで回し、悪党どもとのカーチェイスは日常茶飯事=それを飯の種といていた。

 喧嘩、売春、強盗、ドラッグ…この街ではそんなイカレタ犯罪が季語となる。春は特におかしな奴らが多くなり犯罪件数はうなぎ上り、まったくこの国は自由が過ぎるぜ女神様!

 この街で生まれ育ったブライアンにとって無法の風の匂いはとても居心地よく、まるでママの胸に抱かれているような郷愁を感じるほどだ。犯罪の無いマイアミなんざマイアミとは呼べない、もしあんたがマイアミへ来たならツナの入ったサンドイッチをおススメするぜ。シーサイドのテラスのある店で食うツナサンドは最高だ。遠くに聞こえるコップカーのサイレンとカーチェイスの騒音を肴にツナサンドを食えたのならようこそマイアミへっていうヤツだ。


 しかしそんなホームタウンのマイアミをブライアンは追い出されてしまう、仕事でヘマをやらかしてしまったからだ。いつものストリート、いつものカーチェイス、そして愛車GT-Rのエンジン音。じゃじゃ馬を駆り違法ドラッグを捌く悪党どもを追いかけるさなか、コップカーを撒く悪党どもの銃撃を華麗にかわしながらホシの車のタイヤを打ち抜こうとした瞬間だった。

 悪党どもが車のシートで吹かすドラッグの煙、それを吸い込んでしまったのだ。直吸いではなく空気と排気ガスで薄められているとはいうものの、今回ブライアンが追う物はマフィアがあらたに調合して世に出回りだしたばかりの超が付くほどヤバイブツ。

 その煙をコンマ1mgでも吸引してしまえば最後。トリップ状態で酩酊したブライアンは愛車の操作を誤りクラッシュ、大事故を引き起こしてしまう。

 当然ホシは取り逃がし、しかも運が悪いことにクラッシュした先にあったのは立派なブロンズ像。鋳造された人物はこの街で一番ビッグなボス…、マイアミ市長のブロンズ像だった。そのマイアミ市長の首を愛車GT-Rでへし折ってしまったのだ。


 大失態を犯したブライアンは警察署の署長から大目玉を食らい、はるか辺境の地…ジャパン。そこのオオエドタウンへと左遷される。

 最後の出勤日。仕事でヘマをしたブライアンへの周囲の目は冷ややかだった。いつも明るく挨拶をして天使のようなスマイルをしてくれる受付のナンシーも、打って変わって今日はとても冷ややかだ。まあテキサスのド田舎へ左遷されるよりはマシか…。

 ブライアンは荷物をまとめながら新天地へと思いを馳せる。名をジャパンとかいったか?…知らない国だが俺の愛車GT-Rが生まれた国だ。不思議な縁だ、見知らぬ土地だが不思議と嫌な気はしない。


 失った愛車の故郷に左遷か…それも悪くはないかもな。しかしジャパンのオオエドにはツナサンドはあるかな?そんな新天地への希望だけを荷物にブライアンはマイアミを去る。

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