第6話 試練の森と裏切りの影
王都セレスティアの朝は、魔法の街灯が薄霧の中でキラキラ輝く時間だった。佐藤遥は王宮の訓練場に立ち、胸の赤い宝玉を握りながら深呼吸する。昨日、国王から課された聖女の試練――魔獣退治、魔法制御、知識試験――の第一弾、「試練の森」での魔獣「シャドウ・ベア」退治が今日始まる。遥の心臓はバクバクだ。
「ねえ、遥、めっちゃカッコいいじゃん! この森、シルバの新しい友達いるかな?」
藤原凛が訓練場の端でスキップしながら叫ぶ。ポニーテールが揺れ、緑の腕輪が朝日に光る。足元のシルバが「キューン!」と鳴き、森の匂いをクンクン嗅ぐ。昨日、魔獣市場で「ウィンドラ」という飛行魔獣を見つけて興奮していた凛は、すでに試練を冒険扱いしている。
「友達って……戦うんだから、敵だよ! ていうか、リリアナ、どこ?」
遥が周囲を見回す。訓練場には、ガレンと数人の騎士が準備を進めているが、リリアナ・ヴェルディアの姿はない。昨日の高慢な笑みが、遥の胸にチクチク刺さる。現実世界のいじめの記憶――「佐藤、目障り」――が、ふと蘇る。
「リリアナなら、あそこ。派手な登場、好きそうね」
高橋美咲が本を手に、訓練場の入口を指す。彼女のショートカットが朝風に揺れ、青い本には新たな魔法のメモが書き込まれている。美咲の目は、いつものように鋭く、リリアナの動向をデータ化している。
入口から、金髪の巻き髪を揺らし、青いドレスをまとったリリアナが現れる。今日は戦闘用の軽装だが、宝石の髪飾りと魔法の杖がキラキラ輝く。彼女の後ろには、ヴェルディア家の従者が荷物を持ち、まるでパレードだ。リリアナが3人を一瞥し、唇を歪める。
「ふん、村娘たち、ちゃんと寝れた? 試練で惨めに負ける準備はいい?」
彼女が杖を軽く振り、魔法の光がチラリと輝く。訓練場の騎士たちがざわつく。
「惨めって! 負ける気ないから!」
遥が宝玉を握り、ムッとする。彼女の声に、シルバが「ウォン!」と吠える。
「うわ、めっちゃキラキラ! でも、シルバの方が可愛いよね!」
凛がシルバを抱き上げ、ニヤリと笑う。シルバが「キューン!」と鳴き、リリアナをじっと見つめる。
「負けるとか、データ的にありえない。リリアナ、ヴェルディア家の魔法は強いけど、連携じゃ私たちの方が上」
美咲が本を軽く叩き、冷静に言う。彼女の目は、リリアナの杖の紋章を分析している。
「連携? ふん、烏合の衆が何を。試練の森で、聖女の座は私がいただくわ」
リリアナがドレスの裾を翻し、ガレンに近づく。遥、凛、美咲は顔を見合わせ、闘志を燃やす。
試練の森は、王都の北に広がる深い緑の迷宮だった。巨大な樹木、魔法の霧、遠くで響く魔獣の咆哮。ガレンが3人とリリアナを森の入口に案内し、任務を説明する。
「シャドウ・ベアは、闇の魔力を操る魔獣だ。単体だが、動きが速く、霧で姿を隠す。倒せば試練の第一段階クリアだ。協力しろよ」
ガレンが剣を軽く叩き、馬車に戻る。リリアナが鼻で笑う。
「協力? 私一人で十分。村娘たちは足手まといよ」
彼女が杖を掲げ、単独で森に踏み込む。遥がムカッとして叫ぶ。
「足手まといって! 絶対見返してやる!」
「よーし、シルバ、ウィンドラ、行くよ! リリアナより先にベア倒す!」
凛が腕輪を光らせ、シルバが吠える。彼女が昨日市場で心を通わせた飛行魔獣ウィンドラ――青い羽の鷹のような生き物――が空から舞い降り、凛の肩に止まる。
「単独行動は効率悪い。リリアナ、計算ミスね。私たちは連携でいくよ」
美咲が本を開き、森の地図を投影する魔法を唱える。遥、凛、シルバ、ウィンドラは美咲の指示に従い、森の奥へ進む。
森は不気味な静けさに包まれていた。霧が視界を遮り、木々の間からシャドウ・ベアの気配が漂う。遥が宝玉を握り、緊張で汗をかく。
「なんか、めっちゃ怖い……ガルウルフよりヤバそう」
「怖いって、遥、炎でドーン! だよ! シルバ、ウィンドラ、気配感じる?」
凛が腕輪に触れる。シルバが低く唸り、ウィンドラが鋭い鳴き声で空を旋回する。
「データだと、シャドウ・ベアは霧で奇襲するタイプ。佐藤、炎で霧を焼き払って。藤原、魔獣で索敵。私は結界で守る」
美咲が本を掲げ、青い光で結界を張る。彼女の額に汗が浮かぶ。ルナ村以来、魔力の限界を補う新魔法を練習してきたのだ。
「結界!? 美咲、めっちゃスゴい!」
遥が目を輝かせ、宝玉を握る。彼女は目を閉じ、ガルウルフ戦の感覚を思い出す。
「燃えろ、霧を焼き尽くす炎!」
ゴオオッ! 遥の周囲に炎の渦が巻き起こり、霧が一気に晴れる。だが、その瞬間、巨大な黒い影――シャドウ・ベアが飛びかかってきた。3メートルの巨体、赤い目、闇の魔力が牙に宿る。
「うわっ、でかい!」
遥が後ずさる。シルバが吠え、ウィンドラがベアの目を狙って急降下する。
「今よ、佐藤! 炎を集中!」
美咲が結界を強化し、叫ぶ。彼女の声に、遥が宝玉を握り直す。
「くらえ、炎の槍!」
炎が槍の形になり、ベアの肩を貫く。ベアが咆哮し、闇の魔力を放つ。結界が揺れ、美咲が膝をつく。
「美咲、大丈夫!? シルバ、ウィンドラ、援護!」
凛が腕輪を光らせ、シルバがベアの足に噛みつき、ウィンドラが羽で目を撹乱。だが、ベアの力は圧倒的で、シルバが弾き飛ばされる。
「シルバ!」
凛が叫び、駆け寄る。その時、森の奥からリリアナの声が響く。
「ふん、みっともないわね。シャドウ・ベア、私が仕留める!」
彼女が杖を振り、青い雷撃を放つ。雷がベアを直撃し、動きを止める。だが、リリアナが不敵に笑い、別の魔法を唱える。
「霧よ、集え!」
突然、濃い霧が森を覆い、視界がゼロに。遥の背筋がゾクッとする。
「待って、リリアナ、何!?」
「うそ、霧!? シルバ、ウィンドラ、どこ!?」
「データにない魔法……リリアナ、わざと!?」
遥が叫び、凛が腕輪を握り、美咲が本をめくる。霧の中で、シャドウ・ベアの咆哮が再び響く。リリアナの笑い声が遠くで消える。
「聖女の座は私だけでいいわ。村娘たち、ベアの餌になってなさい」
彼女の裏切りが、3人をピンチに陥れる。ベアが霧の中から襲いかかり、遥が咄嗟に炎を放つが、霧で狙いが定まらない。シルバが傷つき、ウィンドラが混乱する。
「くそっ、リリアナ、許さない! 美咲、なんとかして!」
遥が宝玉を握り、叫ぶ。彼女の声に、美咲が立ち上がる。
「霧を破るには……新魔法、試すしかない! 佐藤、藤原、時間稼いで!」
美咲が本を掲げ、複雑な魔法陣を描く。彼女の額に汗が流れ、魔力の限界が近い。
「シルバ、ウィンドラ、頑張って! 遥、炎で援護!」
凛が腕輪を光らせ、シルバとウィンドラを鼓舞。シルバがベアの足を噛み、ウィンドラが霧を切り裂く。遥が炎を連射し、ベアの動きを遅らせる。
「美咲、急いで!」
遥が叫ぶ。美咲が最後の力を振り絞り、叫ぶ。
「ディスペル・ミスト!」
青い光が炸裂し、霧が一瞬で消える。シャドウ・ベアの姿が露わになり、遥が宝玉を掲げる。
「今だ、くらえ、炎の嵐!」
巨大な炎がベアを飲み込み、咆哮が森に響く。ベアが倒れ、静寂が戻る。遥がへたり込み、息を切らす。
「はぁ、はぁ……やった?」
「シルバ、ウィンドラ、よくやった! 美咲、めっちゃスゴい!」
「ふぅ……魔力、ギリギリだった。リリアナ、許さない」
遥が立ち上がり、凛がシルバとウィンドラを撫で、美咲が本を閉じる。三人は傷ついたシルバを支え、森の出口へ向かう。
出口で待っていたガレンが、倒したベアを確認し、頷く。
「よくやった。試練の第一段階、合格だ」
だが、リリアナが優雅に現れ、笑う。
「ふん、運が良かっただけね。私が霧を操らなきゃ、もっと簡単に倒せたわ」
「運!? あんた、わざと霧で!」
「うそ、めっちゃズルい! シルバ、噛みついちゃダメだよ!」
「データに記録したよ、リリアナ。次は逃がさない」
遥が拳を握り、凛がシルバを抑え、美咲がリリアナを睨む。ガレンが眉を寄せる。
「リリアナ、試練は協力が条件だ。次は注意しろ」
リリアナが「ふん」と鼻を鳴らし、去っていく。だが、彼女の杖に刻まれた紋章――黒い蛇のような模様――を、美咲がチラリと見つける。
「ヴェルディア家じゃない……あれ、カルトの紋章?」
美咲が呟き、本にメモを書き込む。遥と凛が「カルト!?」と振り返る。
「詳しくは後で調べる。けど、リリアナ、ただのライバルじゃないかも」
美咲の言葉に、遥が宝玉を握り、決意を新たにする。
「どんな裏があっても、試練、絶対クリアする!」
「うん! シルバ、ウィンドラと一緒に、リリアナぶっ倒す!」
「効率的にね。聖女の座、私たちがいただくよ」
遥が笑い、凛が拳を挙げ、美咲が小さく微笑む。試練の森を抜けた3人の背後で、魔獣の遠吠えが響く。聖女の道は、まだ険しい。
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