せっかく地獄の日々から異世界に来れたのに死んだら元通りなんて絶対嫌なので私たちは最強能力で生き残ります

笑う門

第一巻 絆の炎

第1話 地獄みたいな日常と、突然の光

「はぁ……また今日も残業かよ」

佐藤遥さとうはるかは、コンビニのバックヤードでため息をついた。制服のエプロンが汗でじっとりと重い。もちろん疲れもあったのでそもそも体が重い気がする。16歳、普通なら高校生がこんな時間までバイトしてるなんてありえない。でも、遥には選択肢がなかった。労基に反してでもこの時間帯までアルバイトさせてほしいと店長に懇願したのは彼女だった。母親が過労で倒れてから、家計は彼女の肩にかかっていた。

「佐藤さん、ゴミ出しお願いね!」

「あっ、はい」

店長の声が響く。遥はゴミ袋を担ぐ。外はもう真っ暗で、空には星がちらほらと輝いている。前の公道を黒い車が通り過ぎていく。


学校ではクラスメイトに無視され、バイト先では使い走り。

「こんな毎日、いつまで続くんだろう。」

電車に揺られながら、遥はぼんやり窓の外を見つめた。闇に包まれた住宅街の景色が流れていく。通路を挟んだ隣の席では少女がイヤホンで音楽を聴いている。ショートカットの髪に、どこか冷めた目つき。その少女はちらりと遥を見たが、すぐに目を逸らす。まるで「関わりたくない」と言わんばかりだ。

「ねえ、お姉さん! これ、落としたよ!」

後ろから元気な声。遥が振り返ると、ポニーテールの少女が美咲の定期入れを差し出していた。笑顔が眩しいけど、どこか無理してるみたいに見える。美咲は無表情で「ありがと」とだけ呟き、受け取る。

三人は同じ電車に乗り、同じような疲れを抱えていた。でも、互いに知る由もない。遥は貧困と孤立に、ショートカットの少女・高橋美咲たかはしみさきは毒親のプレッシャーに、ポニーテールの少女・藤原凛ふじわらりんは虐待の傷に、それぞれ押しつぶされそうだった。

電車の揺れと溜まった疲れから、美咲はまぶたが重くなってきていた。しかしその瞬間、電車が大きく揺れた。

「――っ!?」

ガタン!

けたたましい音とともに、車内が暗転。遥の視界がぐるりと回り、頭を強く打つ。悲鳴と衝撃音が混ざり合い、意識が遠のく。

(……死ぬ、のかな)

そう思った瞬間、眩い光に包まれた。


目を開けると、そこは見知らぬ森だった。

「う、頭痛っ……って、え、どこ!?」

遥が慌てて立ち上がる。辺りは鬱蒼とした木々に囲まれ、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。制服はボロボロ、でも身体に怪我はない。

「電車の中で気絶したはずなのに、なんでこんな場所に?」

遥は訳が分からなかった。とにかく応答を求める。

「ちょっと、誰かいますか!?」

遥の声が森に響く。反応はない。すると、近くの茂みからガサガサと音が。

「うっさいな、叫ぶなよ。頭に響く」

出てきたのは同じ電車に乗っていたショートカットの少女・美咲だった。彼女は額を押さえ、明らかに不機嫌そう。制服のスカートには泥が付いている。

「え、あんた、電車にいた……」

「あんた、名前は?」

「えっわたし、佐藤遥です、、、」

「ふーん。で、ここどこ? 電車事故で死んだかと思ったけど、生きてるっぽいね」

突然名前を尋ねられ思わず答えてしまったが、自分の名前も名乗らない少女に遥は少し不快感を覚えた。すかさず聞く。

「それより、あなたは?」

「高橋美咲」

「あっ、ありがとう。よろしくね、、、」

そっけない反応にまたも遥は動揺してしまう。

二人が話していると、木の上からひょいっと少女が飛び降りてきた。

「うわあっ」

「なに?」

「やっほー! 二人とも生きててよかった! わたし藤原凛、よろしくね!」

凛はニコニコしながら手を振る。彼女の制服はなぜかほとんど汚れていない。

「なんでそんな元気なの!? ていうか、状況おかしくない!?木の上にいたの?!」

遥が叫ぶと、凛はケラケラ笑った。

「まあまあ、落ち着いて! 」

「いやいや落ち着ける訳ない!」

「なんかファンタジーっ?っぽいね、ここ。 木とかめっちゃデカいし、鳥の声もなんか神秘的!」

「ファンタジーとか言ってる場合じゃないでしょ。拉致された可能性もあるのに」

凛の木の上からの登場にもあまり驚いてない様子の美咲が冷たく切り返す。

「えー、拉致ならもっと怖い感じじゃない?」

凛は笑いながら返すが、遥は二人のペースに置いてけぼりだ。

その時、頭の中に直接響くような声が三人に届いた。

<ようこそ、エリュシオンへ。選ばれし者たちよ

「!? な、なに今の!?」

遥が慌てて周囲を見回す。

<我はこの世界の導き手。汝らに力を与え、試練を課す。生き残り、運命を切り開け。ただし、死ねば元の世界へ還る。それがルールだ

声は淡々と告げ、消えた。直後、三人の身体が光に包まれる。遥の胸には赤い宝玉が、美咲の手には青い本が、凛の腕には緑の腕輪が現れた。

「これ、なに……?」

遥が宝玉を握ると、不思議と身体の奥から熱い力が湧き上がる。まるで無限のエネルギーが詰まっているみたいだ。

美咲は本を開き、ページに無数の文字が浮かぶ。

「魔法の知識……? なんでも使えるみたいだけど、魔力消費がえげつないね」

「えっなんで魔法だってわかるの?」

「そう頭に説明が入ってきた」

「?」

よく分からない様子で凛が首を横にひねる。

「この腕輪、めっちゃカッコいい! ねえ、なんか動物の声聞こえない? すっごい近くにいる!」すぐに切り替え凛は目を輝かせ、腕輪を撫でる。すると、茂みから小さな狼のような魔獣が現れ、彼女にすり寄ってきた。

「え、ちょ、なにそれ!?」

遥が後ずさる。

「かわいいー!」

凛が抱きついている。

美咲が冷静に分析する。

「どうやら私たち、異世界に転移したっぽいね。で、それぞれチート能力を貰ったみたい。佐藤は魔力無限っぽい感じ? 私は全魔法使い放題。藤原は……動物使い?」

「魔獣使いだよ! なんか、この子たちと心が繋がる感じ!」

凛は魔獣を撫でながらニヤリ。遥は混乱しつつも、状況を整理する。

「つまり、電車事故で死にかけて、代わりにここに来たってこと? でも、死んだら元の世界に戻るって……」

「元の世界、か」

美咲の声が一瞬暗くなる。凛も笑顔がわずかに揺らぐ。三人とも、戻りたいとは思えない現実を抱えていた。

「だったら、絶対死なない。生き残ってやる」

遥が拳を握る。美咲と凛が彼女を見る。

「ふん、悪くない気概ね。ま、死ぬつもりはないけど」

美咲が髪をかき上げる。

「うんうん! せっかくこんな面白い世界に来たんだもん、楽しんじゃおう!」

凛が魔獣を抱き上げ、笑う。

三人はまだお互いをよく知らない。でも、この瞬間、かすかな絆が生まれた。

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