第8話

「所長、大変です!!」


 何者かの慌てる声が聞こえたが......なんだ。部下ではないか。


「どうしたのかな?」

「か、怪盗、が明夜【ダイヤと真珠のネックレス】を盗みに来るようで......」

「なっ。私の美術館一、いや、世界一のネックレスをだと......?」

「はい、挑戦状の白い封筒が今朝、入口に置かれていました」


 私よ焦るな。まだ一日もあるのだ。警察へすぐさま連絡を入れ、警備を準備満タンにし、当日は開館しなければいいだけだ。そして、私の首にかけておけばもっと安心する。ただ、それだけすれば、ネックレスなど盗めるわけがない


「ならば、今すぐ警備を強化し、警察にも連絡を入れとけ」

「了解しました」

「では、ネックレスを持ってくるのだ」

「え......?」

「早くしろ!私が持っていれば安全だろうが!」

「そ、そうですね。今すぐ持ってきます」


 ふんっ。部下など私の言う通りに動けば良いのだ。




「館長、ただ今持ってきました」

「よくやった。では、あとは頼んだぞ」

「はい」


 館長部屋に戻って、ネックレスを首にかける。このネックレスが似合うのは私だけではないのか。そう思っていしまう。


―コンコン


「どうぞ」


 部屋の中に入ってきたのは、警備長だ。名前も顔もいちいち覚えてなどいない。なぜなら部下だから。


「館長様、今夜から、明後日の朝まで、警備長をさせていただきます、黒崎暁鴉くろさきぎょうあと申します。館長様も身を潜めていてください」

「うん。ま、じゃあ、早速警備始めてちゃって」


 色々、めんどくさかったので、警備長を追い出そうとする。


「最後に一つよろしいでしょうか。狙われているネックレスとは、どこに......?」

「それは、言わないとだめなのか?」

「はい、守れないので」

「ん、そっか。そのネックレスは、ここだ」


 私の首を見せる。警備長は目の色を変えた。


「そこ......ですか」

「ああ、なにか問題があるのか?」

「いや、ない、です。ただ、やっぱり、身を潜めておいてください。

「ああ。じゃあ、早く、警備始めてくれ!」

「了解しました」


 バタンッとドアが閉まり、少しホッとする。このまま、このネックレスを盗みたい。館長になってからずっと思っていた。それが、叶うのだ。


 なぜかって?

 


―怪盗が盗みに来る日に私が盗んでしまえば、私のせいではなくなるからだ。

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