記録15 神殺しの機械

雨が止んだ。ロークが会長室に足を踏み入れた時、1階ではアイとファルクナスが対峙していた。


「女か?」

仮面をつけた長髪の影を見て、一人が呟く。


しかし、その声は警戒と侮蔑が交じり合った不明瞭なものだった。


「油断するな」

隊長の低い声が隊内通信を通じて響く。


ファルクナスは精鋭部隊であり、ここで足を掬われることは許されない。彼らは迅速に包囲網を構築し、数秒後にはアイを完全に取り囲んでいた。


静寂。


しかし、ただの沈黙ではない。獲物を狩る直前の捕食者のような緊張感。


白い煙が、アイの周囲を舞う。ファルクナス部隊はじりじりと距離を詰めるが、その時——


「Voooooooo……」

アイの心臓部にある核融合炉が呻るように稼働した。


薄紫色の光が彼女の全身を、血管を駆け巡り、人工筋繊維が淡く輝く。その瞬間、隊員たちの神経が一斉に逆立った。


「何だ、こいつ……!?」

誰かが呟く。


しかし、その答えを出す暇もなく——戦闘は終わった。





アイはすでに動いていた。

最初の標的の首を掴み、片手で握り潰す。骨が砕け、肉が裂ける鈍い音が響く。

次の瞬間、足元にいた二人の兵士が、視界から消えた。


否、正しくは**「粉砕された」**。


アイの蹴りが直撃した兵士は、内臓ごと破裂し、壁に肉片を撒き散らしながら崩れ落ちる。


「撃て!!!」

隊長が叫ぶ。


同時に、十数挺の銃口が一斉に閃光を走らせる。

しかし、弾丸はアイに届くことはなかった。

銃撃が始まる直前、アイの脚が地面を踏み砕いた。

超高出力の推進力を生み出し、一瞬でファルクナス部隊の間を駆け抜ける。

銃弾の嵐は、彼女がいたはずの空間を虚しく貫いた。


「何だこいつ……何だ……!?」


背後に回り込まれた兵士が、首を抉られ崩れ落ちる。

アイは迷いなく動く。狙うのは急所のみ。殺すための無駄のない軌道。


——処理。


一人の腕を引き千切る。次の瞬間、その腕ごと兵士の胸に突き刺す。


——処理。


銃を構えた兵士の背後に回り込み、その頭を掴み、地面に叩きつける。頭蓋が砕け、脳漿が飛び散る。


——処理。


隊長が必死に後退しながら指揮を取ろうとする。しかし、その口が何かを叫ぶ前に、アイの膝蹴りが腹部を貫いた。


「——っ!!!」


肋骨が粉々に砕け、内臓が逆流する。隊長の身体が折れ曲がり、次の瞬間、アイの片手がその頭部を鷲掴みにした。



「お、お前は……何なんだ……?」

隊長の声が震える。


アイは答えない。ただ、指に力を込める。


——処理。


頭部が握力に耐えきれず破裂する。

血飛沫が舞い、最後の兵士が絶命した。


戦場に静寂が戻った。


アイのスーツに一滴の血が落ちた。彼女はそれを一瞥し、無感情に拭い取る。

周囲には、肉片と血の池が広がっていた。


アイは静かに手をかざすと、次の瞬間、ファルクナス部隊の遺体が一斉に燃え上がった。


「処理完了」


それは戦闘ではなく、ただの"削除"だった。

彼女の中には、何の感慨も、何の迷いもない。


——人ではないのだから。


アイはゆっくりと歩き出した。

エリュシオン・パレスの更なる混沌へと向かうために。

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