第5話 魔王軍、進行開始

「拳闘家とは聞いてたけどここまで強いなんて」


 翌朝、俺はエイルと軽く手合わせした。幾ら強いといっても地球とは戦闘の技術が違うと思っていたのに、これが良い意味でびっくりだ。

 ジャブは鋭く、ストレートは破壊力抜群、紙一重でかわすスウェーも一級品。単なる時代錯誤な筋トレだけでなく体幹を鍛えてあるのがよくわかる。


「コジローこそ。ボクと素手で互角に渡り合えるなんてすごいよ」


 エイルは自分と競える相手がいて嬉しそうだ。


「アンタ、魔法剣士だよね」


 姐さんは呆気に取られてる。


「徒手空拳も心得があってさ。それより、エイルって足技を使わないのか」


 なぜかエイルはきょとんとした。


「足技?」

「蹴りとか」

「……蹴りって?」


 この反応、まさか……。


「こういうの」


 ドスンっと重たい音が響き渡る。

 サンドバックを木に吊り下げ、下段蹴りを放ったのだ。蹴った位置は太ももの側面あたり。

 エイルは蹴りの破壊力に慄いている。


「こんなの喰らったら相手の脚、折れちゃうよね」


 どうだろう?


「簡単には骨折しないだろうけど、決まれば並みの兵士なら倒せるぞ」

「これ教えて。いいでしょ」


 エイルが強くなってくれるのはありがたい。


「ああ。いいけど俺も魔法の修業したいな」

「それは合間見て私が教えるよ」


 そして……。


「あ~食べた食べた」

「あっちのご飯は美味しいわね」


 午前中はみっちり修行したし、天ざるもしっかり食べた。


「一休みしたら、再開しようか……待って、人の気配がする」

「ホントだ。でも、こんなところに?」

「私たちが言えた義理じゃないでしょ」


 3人で警戒しながら徐々に近づいてみると、森の少し先まで入ったところに女性が二人いた。


「おい、大丈夫か」


 一人は……多分軍服を着ている。女性兵士か。但しあちこち破けているし、血まみれだ。もう一人はこんな山に似あわないドレスを纏い、血まみれの女性に手を引かれてる。

 何かあったのだろう。


「怪しいヤツ!何者だ」


 女性兵士は力を振り絞り剣を構える。向こうからすれば見たことのない道着だし、本来ここは人のいないところだからな。


「待って、彼は私の仲間です」


 エイルが彼女の前に立ちふさがると、その女性はぽろぽろ涙を流した。


「エイル!エイルなのね。……おねがい、姫様を……」


 女性兵士は張り詰めた緊張が解けたのだろう、その場に崩れ落ちた。


「姫様!」


 エイルがドレスを纏った女性に駆け寄った。その女性は意識がもうろうとしている。けど外傷はなさそうだ。


「エ、エイルなの。本当に」

「はい。姫様。もう大丈夫です」


 なんでエイルがお姫様と知り合いなのか気になるがそれは後で聞けばいいだろう。それよりも。


「モ、モンスターが……」


 彼女が弱弱しい手で指さす方から、がさがさと葉っぱが擦れる音がする。音の数とぼんやり見えるシルエットから敵が多いことだけは確かだ。


「エイル、コジロー。二人を連れて戻りましょう。私が殿を務めるわ」


 二人の手当てが最優先だ。俺が女性兵士を背負い、エイルがお姫様を担いで撤退する。


「ステータスオープン」

「コジロー、悪いけど魔力切れよ。モンスターはゾンビとグール。4~50体くらい倒したわ。残りは半分かな」

「手当をお願いします」

「わかったわ」

「傷口を水で洗ってから包帯を使って。それと二人にはスポーツドリンク飲ませておいて」


 指示を出しながらテントを出ると、モンスターがまだ40~50体。そいつらが一か所に固まっている。そして中心には背が高く頭一つ抜きんでた女性と青いキャップが。


「エイル!」


 俺は一瞬焦ったが、その声はとても軽かった。


「楽勝楽勝」


 ストレートパンチで顔面をぶち抜くとは流石だ。いくらアンデッドといえど雑魚どもは顔がつぶされると復活できない。


「アイテムボックス」


 俺は二本の刀を取り出すと次々に連中の頭を真っ二つに切り裂いた。


「姐さん終わったよ」


 結局無傷で全滅させたけど、正直剣のおかげだと思う。並み大抵の剣だったらこんな簡単にはいかなかったと思う。


「姫様は」


 エイルは20体以上倒しているのに息一つ切らしていない。


「大したケガはないよ。こっちの女性も浅い切り傷だけだわ」


 姐さんは包帯をきれいに巻いている。多分軍で覚えたのだろう。


「あ、ありがとうエイル。アストランス。それと……」


 姫様はか細い声でお礼を述べようとする。


「自分はコジロー・ミヤモト。フィノーラ様の使いです」


 フィノーラ様の名前が出たとたん、彼女の目に灯が燈った。


「フィ、フィノーラ様の……お願いです。この国を救ってください」


 弱りきった体を起こしてまで俺にすがろうとするが、体力的に無理をしているのが判る。


「そのままでいいです。それより何が起きたのですか」

「私が外遊から帰る途中でした。突然大量のモンスターが現れ、同行した者は彼女以外全員」


 言葉にすることがつらいのだろう。姫様は首を横に振った。


「……う、ううっ……」


 女性兵士が意識を取り戻した。


「大丈夫?」

「……ブ、ブロゴに……」

「ブロゴって?」

「エウレシア王国の首都よ。これが魔王軍の侵攻なら確実に狙われるわ」

「こちら……エーテルです。アストランス様、どうか……」


 女性が取り出したのはMPを回復させる薬品だ。


「後はボクたちに任せて、二人はここで休んでいて」


 姐さんが飲み干したらすぐに向かう。その前にやれることはやっておこう。

 替えの包帯、栄養価が高く飲みやすいゼリー飲料、ミネラルウォーター、紅茶のペットボトル、サンドイッチを注文した。


 これでしばらく持つだろう。


「さあ、行きましょう。テレポーテーション」

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