39 リーインカーネーション
大仕事を終えた。みんなヘトヘトにくたびれていたので、後日打ち上げをすることにして、きょうは全員解散となった。
明日は月曜日だがお休みだ。とにかく家に帰ろう。いつもと違う経路で家に帰ると、なにやら賑やかな声がする。
玄関を開けると珍しくぽてとがしっぽをぶんぶん振りながら現れた。ヨシヨシすると素直に喜んでいる。かわいいところもあるじゃないの、と調子に乗ってずっと撫でていたら噛まれた。
「ただいま……」
「おにーちゃん、おつかれー!!!!」
「お兄さん、おつかれー!!!!」
「ながっちさん、おつかれー!!!!」
「健斗くん、おつかれー!!!! さあ、焼き肉開始だ!!!! まずはタン塩からだ!!!!」
どこで仕入れてきたのかずいぶん本格的な焼き肉セットが並んでいる。サンチュまである。いったいなにごとかと思ったら叔父さんの企画したご苦労さん会であるらしい。牛タンやモツの類はきょうを見越してお取り寄せしていたようだ。手を洗ってテーブルにつく。焼き始めてすぐ、配信者3人の底なしの食欲でどんどん焼けてどんどん減っていく。
「アカミチさん、それまだ焼けてないですよ」
「あ、教えてくれてサンキュ。おれ、色があんまりわかんない体質でさ」
みんなで焼き肉をつつきつつ、ダンフェスの思い出を語る。
「やっぱりスライム風ギャラクシーようかんがおいしかったな……ぶどう味で」
「わたしは物販で赤い閃光のクリアファイル買っちゃった。どうしてオタクというのはクリアファイルを買いがちなのか」
「わかるよ……ダンジョン配信者なんて突き詰めればみんなオタクだもんな。普通の人ダンジョン行きたいって思わないもん。おれもノギちゃんのTシャツ買っちった……」
3人ともなにやら満喫していたようで、企画した人間としてはちょっと嬉しかった。
「おにーちゃんは?」
「俺? ひたすらボヤ廃してましたよ????」
「おにーちゃん顔が怖い。あ、そのお肉焼けてます」
「楽しそうでいいじゃないか。来年は私も行こう。ボヤイターで様子を見て、あとはテレビで放送されるのを待とうと思ってたけど……」
「テレビは例年面白かったとこだけの切り抜きなんで、グッダグダのややウケシロウト漫才とか会場の民度の高さが観たいなら現地にいかないと」
アカミチさんはそう言っている。
「来年に向けてなにかアイディア考えないとな……ややウケ漫才とか歌とか、配信者に頼りっきりじゃダメだよな……」
「おにーちゃん、超ダンジョンフェスはさっき終わったんだよ!? もう来年のこと考えてるの!?」
「だって俺ライヴダンジョン社の社員だし……」
「じゃあ、ダンジョン珍プレー好プレーというのはどうだい? ダンジョン配信の動画はぜんぶライヴダンジョン社が権利を持ってるんだよね? そこから珍プレー好プレーとしてバズった動画を上映するとか……」
「ナイスです叔父さん!! 先輩に提案してみます!!」
「だからおにーちゃん、超ダンジョンフェスは終わったんだよ!?」
「終わっていない。来年も、その来年もあるのだ。輪廻転生が続くがごとく。リーインカーネーション……エッタラジェンダ……ドスティ……」
「お兄さんがインド映画のオチになった!!」
「おれたちは気楽にやってたけど、ながっちさんたち裏方の人間は大変だったんっスね……」
アカミチさんは禁酒しているそうなので、みんなでノンアルやジンジャーエールをおいしく飲んだ。疲れた体に炭酸と麦の味が染み渡る。うまい。
なんだかんだ眠かったので、焼き肉大会のあとは早めに寝た。アカミチさんはリビングに布団を敷いていた。泊まっていくらしい。
◇◇◇◇
次の日起きてくるとテーブルの上になにか紙が置かれていた。よく見るといつぞやの温泉の入浴券だ。4枚ある。叔父さんからのプレゼントらしい。
ヨーグルトに余っていた高級ハチミツをかけ、トーストにもハチミツをたっぷりかけて食べた。それからみんなで温泉に向かった。
「おれタトゥーびっちりだけど大丈夫かな」
アカミチさんが温泉に入るとなると心配するのはそこであろう。
「叔父さんが言うには和彫りモンモンぎっしりのヤのつく自由業の人も入りにくるらしいですよ?」
妹は先に叔父さんから話を聞いていたらしい。
「食事もできる銭湯みたいな感じだって聞きました。おもいっきりぐうたらしましょう」
というわけで温泉施設に入る。受付のおばちゃんに入浴券を提出しながら、アカミチさんが入れるか聞いてみると、「特にそういう規則はないですよ、というかうちの孫がファンなのでサインください」と言われた。アカミチさんは慣れた様子でさらさらとサインを書いてみせた。それから男女に別れて浴室に向かう。
カポーン……。
漫画ならそういう書き文字が書かれるところだ。
「地元にもこういう温泉、いっぱいあったな……」
「アカミチさんの地元って秋田ですよね。美人はいるんですか」
「秋田っつっても北の方で、秋田美人はあんまり採れないところだけど……やっぱ温泉は最高だ……田舎に帰ったときは近所の温泉、ぜんぶ刺青お断りだったんスよ。いま、子供時代以来の温泉に入ってます」
そういうわけで湯当たりギリギリまで温まり、そのあとあがってからカツカレーをガツガツ食べた。うまい。最高の休日だ。
エネルギーをしっかりチャージした。
さあ、明日からまたしっかり労働するぞ。(つづく)
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