24 どうでもいいことを思った
次の日起きてくると、ぽてとは「おさんぽ おさんぽ おさんぽ」とボタンを連打していた。叔父さんはいつもより少し寝坊してしまったらしく、陽が昇る前に散歩に行けなかったらしい。
「ごめんよぽてと。お散歩は夜にしよう」
確か「いやだ」と登録しているボタンはないはずなので、反抗することはできないのでは……と思ったら、ぽてとは「ウウー、ガルルルル」とチワワらしからぬ反応をした。それは猛犬のリアクションではないのか。
「おはようございます」
穂希さんが起きてきたら、ぽてとは「ほまれちゃん だっこ」を連打し始めた。分かりやすいやつだ。穂希さんに抱っこされてよしよしされて、いくらか機嫌をなおしたらしく、ぽてとはペット用ベッドにとっとこ歩いて行ってこてんと寝てしまった。
「分かりやすいやつだ……朝ごはん、簡単なのでいいかな」
「もちろんです。それにしてもワンちゃんってかわいいですね」
穂希さんは単純にぽてとにめちゃめちゃ好かれているのだ、という気もする。白目をむいてベロを出して寝ているぽてとの顔写真を撮り、叔父さんの作ったご飯に納豆と味噌汁、ヨーグルトの朝食をやっつけてきょうが始まった。
◇◇◇◇
職場についてパソコンを起動する。夜中の流れをざっとさらい、ノギさんが穂希さんと一緒の配信をするのだ、という予告をしているのを見つける。
妹はこれを観られないのか。
そう思いながら「おはようございます! だんだん夏が遠ざかっていく……きょうも1日頑張りましょう!」とポストする。
『ながっちさんおはようございます!』
『おはようございます! 北海道はもう秋に片足突っ込んでます!』
などのリプがどしどしつく。
「おはよーながっち。楽しそうだねー」
きのうから今朝にかけての犬用おしゃべりボタンの話をする。
「へえーそんなオモチャあるんだー。チワワって賢い子めっちゃ賢いらしいもんねー」
「うちの犬は賢いのかな。どっちかっつうとよくない性格してるんだと思います」
「そう?」
「ええ。同居人の女の子の名前のボタン連打したり、色ボケ犬ですよ、チョッキンしてるのに」
よほどおかしかったのかみー先輩はゲラゲラ笑った。他の部署の人にガン見されていないか心配だったがとりあえず大丈夫なようだ。
「さて。ダンフェスのプログラムはできたね……上に通してオッケーが出次第、ポスターとかフライヤーとかパンフの印刷お願いしちゃおう。東京ドームを使ったとにかくでっかいイベントだからね、たくさんの人に来てもらわないと!」
みー先輩はパソコンをカタカタして、出来上がったプログラムを上の人に送ったようだった。
えがそー先輩もいつのまにか出社してきていて、相変わらずビン底メガネを光らせて撮ってきた写真を眺めている。
「……これ……いいと思う……」
クリックした写真を見せてもらう。穂希さんだ。勇敢にファングタートルに向かっていくところ。その写真を「#きょうのダンジョンオフショット 強い心!」としてUPする。
妹がボヤイター観てたらなあ。
そんなふうに思う。
『ほまれちゃんだ!』
『ぷにきゅあ的な相棒どうしたん……?』
うーん。骨折してお休み中と書きたいが俺はあくまで公式さん、配信者の個人的な情報は流さないほうがいいと思われる。
そう思っていると穂希さんが引用リポストしてきた。
『相棒のさやかは骨折してお休み中です! そう遠くないうちにダンジョンに戻れるかと! 標準医療の進歩!』
画像が添付されている。病院の中庭で撮ったものだ。妹も元気そうにしている。たいへん安堵した。
◇◇◇◇
そういうふうに、1日1日を懸命に生きていたら、だんだんと超ダンジョンフェスの開催が迫ってきた。
妹はまだしばらく休まねばならないようだが、とりあえず骨は無事につながって、日常生活は介助なしでできるようになったらしい。
そういうわけで退院と相成り、ひさかたぶりに家に帰ってきた妹を見て、ぽてとは知らない人にそうするように「ウー、キャンキャンキャン!」と吠えた。忘れたのか。お前、そんなにバカだったか?
と思いきや茶の間に設置されたボタンを踏んで「さやかちゃん なでなで」を繰り返している。覚えてはいるが病院の匂いがしたのだろう。
「ぽてと……あんたこんなすごいオモチャ買ってもらってたの」
「さやかちゃん なでなで」
「はいはい、なでなでね」
妹がぽてとをなでなでして、ぽてとは嬉しそうにしっぽを振っていた。
「歌の練習は調子どうだ?」
「うん、穂希ちゃんも外さなくなったし、問題なさそう」
妹はテレビをつけた。なにやらニュース速報が入っている。
「ダンジョン配信者の赤川道也容疑者(配信者名アカミチ、24歳)を逮捕 泥酔して公園で全裸になった疑い」
……はぁ?
ど、どゆこと……?
とにかくヤバいことが起こってしまったのは分かる。妹たちのダンフェスでのステージがおじゃんになりかねないし、最近ではアカミチさんはアンチもすっかり静かになって人気配信者として活動していた。そのイメージもぶっ壊れる大事件ではないか。
バラエティ番組が終わったあと、ちゃんとしたニュースで報道されていたのは、護送車で警察署にしょっぴかれていくすっぽんぽんのアカミチさんだった。こんなに体じゅうタトゥーだらけだったのか、とどうでもいいことを思った。(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます