れとろいど!~ 親父の遺品は90年代製ぽんこつアンドロイド。テレホ世代の天使と送る、懐かしくて甘い日々~

くま猫

第一話:灰色の空と金髪の少女

「……はぁ」


 ため息。マジで、それしか出ねえ。 今日付けで、クビ。派遣切り、だってさ。 ……は? 俺、佐々木 継ささき けい。人生、詰んでね?


 追い打ち。 会社でクビ宣告された直後、スマホが鳴った。 親父が、死んだ、と。 ……タイミング、最悪すぎんだろ。


 何年ぶりだよ、この実家。


 玄関開けた瞬間、むわっ、と。カビと埃と、なんかよく分かんねえ生活臭。換気くらいしろよな、マジで。


 リビング、物散乱。床、ベッタベタ。


 オフクロが死んでから、親父――哲也てつやとは、ほぼ没交渉。


  最後に見たのは…いつだっけ。 白髪混じりの頭掻きながら、薄暗い部屋でモニターに向かう猫背。 …何考えて生きてたんだか。もう、分かんねえ。


 どうしようもねえ閉塞感。

  庭に面した引き戸を、ガラッと開ける。


「なぁおん」


 トタン屋根の上。黒猫。

  ひらり、と地面に飛び降りて、開けっ放しの古い蔵の中へ消えてった。


「おい、こら、危ねえぞ」


 親父のことだ。蔵の中なんて、ガラクタの山に決まってる。 野良猫が怪我でもしたら、寝覚め悪ぃ。


「……しゃーねえな」


 猫、追う。 蔵の中へ、一歩。 埃っぽい。カビ臭い。電気もねえのかよ、暗すぎ。 スマホのライトで照らす。


  古い家具、壊れた農具、なんだか分かんねえ機械の部品。 山積み。 親父、何溜め込んでたんだよ、マジで。


「…猫、どこ行った?」


 暗闇に目を凝らす。 奥の方。

 猫の目、二つ。ピカッ。 そーっと、近づこうとし



 た、その時。



「うわっ!?」


 足元! 何かにつまずいた! 派手に!

 前のめりに、倒れ込む!とっさに、手をついた。 その先に……。


(……なんだ、これ?)


 なんか、柔らかい? 弾力? むかし瞬間風速的にはやったマウスパッドみたいな……。むにっ、て。


 猫じゃねえ。デカすぎる。柔らかすぎる。

 つーか、なんか…人肌みてえな……? 



 ――その瞬間。



 デレレ~♪ ティラリー♪ タラリー♪ チャンチャンチャン♪



(は!?  セガサターンの起動音!?  なんで今!?)



 内心絶叫。 同時に、手のひらが触れてた場所から、虹色の光! 迸る!


「うおっ! まぶしっ!」


 目が眩む! 数歩、後ずさる! 光が収まる。 恐る恐る、目を開ける。

 そこには――!



 ありえねえモンが、立ってた。



 歳は…俺と同じくらいか? 少し下?

  綺麗な金髪。サラサラ。頭のてっぺんから、アホ毛、ぴょん。


  服…なんだこれ? フリフリ? 白いワンピース…?

 SFアニメかよ。未来的だけど、なんか…90年代っぽくね?


 顔、整いすぎ。 目、デカすぎ。 でも、表情、人形みたいに硬い。焦点、合ってねえ。が、ゆっくり目を開けて、俺を見た。


  そして。 か細い。けど、凛とした。抑揚のない、合成音声みたいな声で。


 言った。



「あなたが、わたしのご主人さまですか?」

「…………は?」



(――運 命 構 図!――)



 俺。 目の前の、超現実離れした光景に。 ただ、呆然。

 ご主人さま!? は?

 これあれだろ!?……蔵だし。

 …………いやいやいやいや !いや!! 待て、落ち着け俺!



(親父ィィィ! こんなヤベーもん遺して逝くなよ!)



 現実逃避と、親父へのツッコミ。

 目の前の美少女への困惑。 頭ん中、完全にショートしてる。



 彼女は、まだ焦点の合わない瞳で俺を見つめたまま、また口を開く。



「識別コード、RTO―1994。基本機能、オールグリーン。……ご主人さまとの接続、確認。自己紹介を開始します。私は――――」


「……、RTO…? ってことは、れ、レトロ…? の略称、とか?」


 RTO―1994。たぶん製造された年代のことだよな? 94年製? マジかよ! Windows 95より前じゃねえか! スーファミが現役バリバリだった時代だぞ! こいつ、マジで90年代のアンドロイド? 親父、アンタ一体何者だよ……。


 すると。 彼女の瞳が、ぱちくり、と瞬いた。 「!」 プログラム丸出しだった無表情が、ほんの少し、人間っぽく揺らいだ…気がする。


 口角の上がり方も、なんか、ぎこちない。 アホ毛が、ピコン、て動いたような……?


「――――レトロ、登録(エントリー)しました! それが私の名前なのですね、ご主人さま! 《ピポ》」


 両手を胸の前でパッ! 小首をかしげる! …90年代アイドルかよ! そのポーズ! つーか90年代のアンドロイドでもさすがに《ピポ》とか言わないだろ。……なんだよ……《ピポ》って、あまりにも個性ずけが安直すぎるだろ……。



「いや、知らんけど!? てか、なんで疑問形!? あと勝手に登録すんな!」



 全力ツッコミ。不可抗力だ。

 なんだこいつ! マジでアンドロイド?

 だとしたら、相当なポンコツ…いや、待てよ?

  ある意味、人間味…あるのか?



「ふえええん。一度登録したら変えられない仕様なんですけどー (´;ω;`)ウッ…」



 眉、ハの字。困り顔。 顔文字まで使うのかよ! アンドロイドのくせに! 妙に人間くせえ!



「しるかーーー!!!」



 頭、抱える。 クビ!!

 親父死亡! 遺品整理!

 謎のアンドロイド!(※ポンコツ疑惑あり)


 ……ああ、俺の人生、どうなるんだよ!?

 (まあ、もう詰んでるしどうにもならんやろなw)



 足元のガラクタを見やる。『ときメモ』のパッケージ。

 『たまごっち』の残骸。 そして、目の前の、

 やけに可愛い(そしてポンコツそうな)アンドロイド。 見比べる。



「ご主人さま、お掃除を開始してもよろしいでしょうか? この蔵は、かなりホコリが多いようです。《ピポ》ご主人さまの健康のためにも、換気と清掃が必要です!」



 レトロ(…って、もう自分で認めちまったよ!)は、どこから出したんだか、羽根つきのハタキを取り出して、パタパタやり始めた。


  動き、ぎこちねえ。 つーか、そのエグい長さのルーズソックスでホコリ巻き上げんな! 「……へいへい。好きにしろよ」


 壁にもたれて、その様子を眺める。……ヤバい。 マジでヤバいもん、引き当てたっぽい。 クビになった会社。よく分からん親父。そして、このポンコツアンドロイド。 問題、山積みすぎだろ……。


「はぁ……」


 今日、何回目だよ、このため息。 俺の世界は、まだ、色褪せた灰色だ。


「ご主人さま?」


 レトロが、こてん、と首を傾げて俺の顔を覗き込む。 大きな瞳。感情の色は、読めない。ガラス玉みたいだ。 アホ毛が、ふよん、て揺れる。


 でも、その仕草。

  なんか……ほっとけねえ感じが、する。

 ポンコツだけど、健気、みたいな?

 (あと、……やはり顔が良いからか?)



「……いや、なんでもねえよ」



 ぶっきらぼうに答える。

 こいつは、親父が遺した、超絶めんどくさい置き土産だ。


 とりあえず、この薄暗い蔵から出してやるか。

 最低限の面倒は、見てやるしかねえか。

  その先? ……知るかよ。


 考えは、まとまらねえ。

 でも、なんか。 ほんの、ちょっとだけ。


 こいつが来てから。 俺の世界は……変わる……のか?


 モノクロームだった俺の世界。


 淡い光が。 差した……。

 そんな気が、した。

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