野犬狩り//ハッカー

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 ──野犬狩り//ハッカー



 まずはリーパーの友人だというハッカーに会うために、私たちはTMCセクター8/4に車で向かった。


 セクター8/4 は一応セクター1桁台の場所になるが、ここまでセクター2桁に近いと治安はさほど良くはない。


 一応は大井統合安全保障から下請けとして業務を委託されている民間軍事会社PMSCが警察業務を行っていることになっている。しかし、実際のところは、質の悪い民間軍事会社PMSCというのは犯罪組織とあまり変わらない。


 コスト削減のためにドローンに任せきりで、裏ではセクター2桁を牛耳る犯罪組織と繋がって汚職に手を染めている。そういう連中なのだ。


「ところで、そのハッカーって本当に友人なんですよね?」


「何度も言わせるなよ。友人だ。前に仕事ビズの関係で伝手ができた人間だ」


「ハッカーとしての腕前は?」


「申し分ない」


 リーパーはそう言い、高速道路からセクター8/4に入った。


 そこはセクター3/1ほど煌びやかでもなく、かといってセクター13/6ほど汚くもなく、その中間にあるような、そんな場所だった。


 リーパーはそんな街の中をSUVで駆け抜け、ひとつの高層マンションの前で車を止めた。高層マンションというとそれなりのお値段がするところを想像するだろうが、私たちが訪れた高層マンションは昔作られた古いそれだ。


 建物の外壁は汚染された大気のせいでくすんでおり、あちこちに落書きされている。


 しかし、セキュリティはしっかりとしている。マンションに入るには自動小銃で武装した警備ボットが守るエントランスに入らねばならず、そのエントランスには監視カメラが山ほど。


 そんなエントランス前でリーパーが部屋番号を押して、チャイムを鳴らす。


『リーパー? 何か用なの?』


「ああ、カンタレラ。仕事ビズの依頼だ」


『来るなら来るって連絡してから来なよ……』


「それもよかったかもな」


『まあ、いいや。上がってきて』


 インターフォンの声は女性の声だった。それも若い女性の声だ。


「行くぞ」


 エントランスが内部から開かれ、私たちはエントランスからエレベーターに乗る。


 そのまま12階まで登り、エレベーターを降りると比較的小ぎれいに保たれた共用スペースである廊下にでた。


 リーパーはどこに行けばいいのか把握しており、私はリーパーにただ付いていった。


 向かった先の部屋の前には警備ボットが立っており、都市型迷彩に塗装された警備ボットが部屋に近づく私たちをスキャンする。


 問題はなかったのか、私たちは部屋の前に通され、中から複数のカギが開く音が聞こえていた。重々しい金属音が何度も響き、それから扉が開いた。


「よう、カンタレラ」


「リーパー。久しぶり」


 玄関で私たちを出迎えたのは、長身の白人女性だった。


 明らかに人工的である燃えるような赤毛をミディアムボブにした、澄んだ緑色の瞳の女性。顔立ちは可愛い系というより美人系で、全体的に線が細くて羨ましくなるぐらい綺麗な人だった。


 その女性的な体には何かのアニメキャラが書かれた派手で肩の出たTシャツとジーンズを纏っている。できる美人っぽい綺麗な人なのにアニメキャラのTシャツというのはかなりのギャップを感じた。


「そっちのちびっ子は?」


「この前、仕事ビズで拾った」


「拾ったって……。犬猫じゃあるまいし……」


 ほとほと呆れた視線をリーパーに向けたのちに、カンタレラさんは私の方を向く。


「初めまして、ちびっ子。お名前は?」


「ツムギです。よろしくお願いします、カンタレラさん」


「おお。行儀のいい子だね。よしよし」


 笑顔を浮かべて私の頭を撫でるカンタレラさん。扱いがもはや犬猫…………。


「で、仕事ビズなんだが」


仕事ビズの話なら中でしよう。入って」


 カンタレラさんに勧められて私たちは部屋の中に入った。


 カンタレラさんの部屋はよくある3LDKの部屋だったが、綺麗に掃除整頓された部屋だった。床にはごみや埃はなく、台所では傷ひとつない家事ボットが食器を洗っている。


 それより重要なのは部屋のひとつに置かれているサイバーデッキだ。


 サイバーデッキは一見するとリクライニングシートのようだが、頭を乗せる部位にBCIポートに接続するケーブルが付けられている。


「……これ、かなり高いサイバーデッキですよね?」


「まあ、商売道具だからね。ケチって命を落とすよりは借金してでもハイエンドモデルを買ってカスタムした方がいい」


 サイバーデッキというのはBCI手術を受けた人間がマトリクスに接続するために使用するコンピューターだ。


 マトリクス────。


 それは昨今の技術の発展により視覚化されたインターネットのことで、この時代には現実リアルに次ぐ第二の世界というようになっている。


 人々はアバターを纏い、BCIポートにケーブルを繋ぎ、マトリクスにダイブする。


「で、仕事ビズってのは、リーパー?」


「これを見てくれ。ジェーン・ドウからの依頼はこいつの殺害だ」


 リーパーがカンタレラさんにARデバイスを経由してデータを送信。


「────へえ」


 カンタレラさんがデータを見て少しだけ愉快そうに小さく笑った。


“ニュクス17”がジェーン・ドウの殺しの名簿ヒットリストに名を乗せたとはね。何をやらかしたのやら……」


「知ってるのか?」


「マトリクスじゃそこそこ有名人だから」


 どうやらこれから殺しに行く人のことをカンタレラさんは知っているらしい。


「こいつはアイス氷砕きアイスブレイカーを面白半分に作ってはばらまいていたハッカーであって、特に反企業コーポ的な思想は持ってなかったはずだけどね。ジェーン・ドウに命を狙われるとは」


 ご愁傷様というようにカンタレラさんが語る。


 アイス氷砕きアイスブレイカー────。


 それは侵入I対抗C電子機器Eというハッキングに対する防衛手段のことであり、氷砕きアイスブレイカーというのはそのアイスを突破するためのプログラムである。


「知り合いならそいつの居場所は分かるか?」


「知るわけないでしょ。マトリクスの、それもアングラの繋がりを現実リアルに持ち込むほどあたしは馬鹿じゃないよ。向こうも現実リアルのあたしは知らないし、あたしも現実リアルのニュクス17は知らない」


「そういうものなのか」


「あんたは相変わらずマトリクスには疎いね……」


 私でも分かる話なのだが。リーパーのネットリテラシーはかなり低そうだ。


「だが、その気になれば探し出すことはできるんだろう? 現実リアルで必要なことはこっちでやるから、お前はマトリクスでできることをしてくれ。報酬はジェーン・ドウの支払いの半分でどうだ?」


「いいよ。その話、乗った」


 リーパーの提案にカンタレラさんはあっさりと乗ってくれた。


「決まりだ。ボス、指示をくれ。俺たちは何をすればいい?」


 リーパーは満足そうに笑い、同時にそう尋ねる。


「そうだね。まずはあたしが情報を集めるから、その間の警護をしておいてもらおうか。ニュクス17は現実リアルで傭兵を雇ってるって話だし」


「了解。情報、待ってるぞ」


「ああ」


 カンタレラさんは後ろ髪を掻き上げて、首の後ろにあるBCIポートを剥き出しにすると、サイバーデッキからケーブルを引っ張ってきて接続した。


「どれくらいかかる?」


「早くても2時間、遅ければ12時間程度」


「なるべく早く頼む」


「じゃあ」


 そのままカンタレラさんはサイバーデッキに腰かけ、そのままマトリクスにダイブしていった。マトリクスにフルダイブしている間は意識はマトリクスに完全に移り、現実リアルのことが把握できなくなる。


「今はカンタレラさんに任せるしかないですね」


「そうだな。暇だ」


「じゃあ、どういう経緯でカンタレラさんと出会ったか教えてくれませんか?」


「あまり面白い話でもないぞ」


 私の求めにリーパーはそう前置きして話し始める。


「以前、ジェーン・ドウから護衛エスコートを依頼された。カンタレラはどうやら大井にとっては喉から手が出るほど欲しいが、他のメガコーポからは絶対に漏洩させたくない情報を握っていたらしい」


「それで知り合ったんですね」


「ああ。どこぞのメガコーポが送り込んできた刺客を俺がぶち殺し、カンタレラを上手い具合に逃がした。それでカンタレラには貸しがある。護衛エスコートをしながら、メガコーポのそれなりの敵と戦うのは楽しかったな」


 護衛エスコート仕事ビズってのは、ただの殺しの仕事ビズと違って別の技術が必要とされるから面白いとリーパー。


 守りながら戦うのに求められる戦術には頭を使わなければならない。その最適解を求めるのは楽しい。クリアできたときの達成感はたまらない。


 そう、リーパーは純粋に愉快だったというように語る。


「相変わらずゲーム感覚なんですね」


「ああ。この世は所詮はゲームなんだよ」


 私の言葉にリーパーはそう言ってサイバーデッキに座るカンタレラさんを見つめた。


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