異世界教師になったら全員メスガキでしたw でも俺、マジで教育するつもりなんだが!?

ものなり

プロローグ:ようこそ、先生──Xクラスへ!

 あの日から、俺はチョークを握っていない。


「先生、いつか……私、ちゃんと笑えるようになるかな?」


 そう言った彼女の顔が、今でも脳裏に焼きついて離れない。


 春先、雨の止んだ夕暮れ。あまり感情をみせることがない少女が、教室の隅で呟いたあの言葉。


 その言葉に、何も答えられなかった自分が今も脳裏に焼き付いている。


 その数日後、彼女──《来栖 天音 (クルス アマネ)》は、学校から“姿を消した”。

 そしてそのまま……。


 俺は、教師を辞めた。


 25歳で教壇に立ち、夢中で生徒と向き合った6年間。


 ──最後の一年が、すべてを変えた。


* * *


 ──あれから十年。


 俺は、《風見 港(カザミ ミナト)》


 今は、中堅広告代理店に勤務している、41歳の独身だ。


 そして、かつて、熱血と理想だけで突っ走った“元教師”だった。


 だが、あの出来事を境にすべてが崩れた。来栖 天音を救えなかった自分を許せず、

 俺は教壇を去り、静かに街を離れた。

 

* * *

 

 その日、俺は駅のホームにいた。


 仕事帰り、少しばかりの酒を引っかけて、ほんのり赤ら顔で、ふらついた足取り。


 電車の到着を待ちながら、スマホのニュースアプリを眺めていた──そのときだった。


「キャッ……!」


 細い悲鳴とともに、前方の女子学生がホームから足を滑らせ、線路へと倒れ込んだ。


 一瞬の判断だった。考える前に体が動いていた。


「危ないっ!」


 俺は駆け出し、彼女の体を抱きかかえるようにして……そのまま、強い衝撃とともに意識を失った。

 


 ──次に目を覚ましたとき、そこは真っ白な空間だった。


「カザミ ミナト……教育者として、君の魂はまだ役目を終えていない」


 目の前に立つのは、人のようで人でない、奇妙な存在だった。姿は光に包まれ、


 その声は直接心に響くように感じた。


「ここはどこだ……俺は……死んだのか……?」


「正確には、君の“命脈”はここで分岐する。選択次第で、再び目覚めることもできる」


「選択……?」


「君には、まだ救える者たちがいる。だが、それはこの世界ではない。異なる理と魔法が存在する世界──《ユグドラ=リオ》にて、君の教育が必要とされている」


「まさか俺に……教師を、もう一度やれってのか?」


 あまりに唐突すぎる申し出に、苦笑すら出た。


 だが、俺の胸の奥で、何かが微かに反応していた。

 あの教室、あの子の言葉が──。


「君に授けよう。教育の魂が選んだ特別なスキル──

 《導刻記憶(レガシア・インストラクター)》を」


 瞬間、光が俺の胸に飛び込んだ。


 知識が流れ込む。指導技術、心理分析、戦闘訓練、魔導教育に関する膨大なデータ。


 これは──ただの教師スキルじゃない。”導きと記憶を刻む教育の魔術”。


「君はこの世界の“教師”として、生徒たちを導く者となる。願わくば、もう二度と誰も見捨てることなきように──」

 


 目覚めた。


 ざらついた風。見慣れない空。奇妙な塔のシルエット。


「おぉ! キミが新任の先生かね!」


 いきなり現れたのは、ひげをたくわえた派手な老人。奇妙な帽子とローブをまとっている。


「私は学園長の《ゼリオ=グラムハルト》! 歓迎するぞ、異世界教師くん!」


 そう、俺はここ、《王立マギア学園ユグドラ校》の“Xクラス”の担任として、

 もう一度、教壇に立つことになったのだ。

 

* * *


「……というわけで、今日からこのクラスを受け持つことになった、《ミナト=カザミ》だ。よろしくな」


 そう言った俺の前に、静寂は──訪れなかった。


「……うわ、マジモンの“おじさん”じゃん」


「え、誰コレ? 地味すぎw」


「まさか年下スキーなタイプ? 先生〜それセクハラです〜w」


「はいはい静かにー! おじさん、泣いちゃうよ〜?w」


 ……なんだこのクラスは。


 なぜか全員、女の子。そして……


 全員、メスガキ。


「いい?あたしら、そんじょそこらのバカじゃないから!超優秀な問題児だから!」


 《レイラ=バルナ》。足を机にのせて腕を組み、超上から目線。しかも教科書を焚書してる最中だ。


「異世界から来たと聞いてますが……えぇ、確かに“異”ですわね。常識から異常に外れていて」「先生の存在がXクラスより危険って、面白いジョークですね」


 《フィリス=フォン・グランディール》。小声の辛辣な皮肉が地味にくる。


「わぁ〜い!新しいおにーちゃん先生だぁ〜っ!

えへへ〜♡ じゃあ今日からさ、あたしのこと、“おひざの上”で授業してね〜? ねっ?」


 《ミミ=フェリシア》。ぜか俺のシャツの袖を握ってる。離す気がない。距離感ゼロ。危険。


「で、先生。何教えてくれんの〜? “おとなの授業”ってヤツ〜?」


「どうせすぐ辞めるでしょ? 前任のセンセーも、三日で逃げたし?」


「先生は、どんな魔法の爆発が好きですか~?」


 他の生徒も言いたい放題……。


 俺は……


 こいつらに、教育を……するのか……?


 ──こうして俺は、“メスガキだらけの異世界学園”で、再び教師としての人生を歩み始めることになった。


 だが誓おう。


 もう二度と、生徒を見捨てたりしない。


 どんなに煽られようと、めげずに、諦めずに、最後まで導いてやる!


「……よし。やってやろうじゃねぇか」


 俺は黒板に、再びチョークを走らせた。


 書かれた言葉は──《教育再臨》。


 教室は一瞬ざわつき、そして――また笑い声が響いた。


「やっばw、黒板に本気で書いちゃったw」


「そういうの、前世の記憶ノートにでも書いておいてくださいな」


「だめだよぉ~ミミ、先生のこと“好き”になっちゃうとこだった~♡♡♡……ぷくくくっ!」


「ねぇねぇ、センセー! これってギャグだったの? マジボケだったの?」


 ──くそぉ、こいつら、煽り性能高すぎる……!


 でもな。いいか、お前ら。

 覚悟しとけ。俺が、お前ら全員を“真の冒険者”にしてやる!


 ──ようこそ、先生。

 ここが、あなたの新しい“教室”だ。

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