第32話 舞い戻る英雄<<ヒーロー>>
ギリギリセーフ。
と言いたいところだが、理想的なセーフとまではいかなかったようだ。
空軍基地はとても広く、場所がわかっていても移動にかなりの時間を取られる。
途中走ったが、それでもこれが最速だった。
逆を言えば、ここに近づけば近づく程警備が強力だったので、警備隊長の一人を捕まえて道案内させた。そうすると下っ端の兵士はビビッて足早に逃げてくれて、少しは体力の消費を抑えれたというわけだ。
牧の安全を確認するまでは大きな騒ぎを控えていたが、どうやらもうその心配は必要ないらしい。
「私……信じてたのに……」
入口で少し中の様子を伺おうとしたが、それどころではないらしい。
こちらに注意を引き、会話で時間を稼ぎながらさり気なく確認していく方が良さそうだ。
「すみません。遅くなりました。ちょっと五十人ほど邪魔が入ったので、ちょっと彼らを(物理で)説得して(内臓を痛めつけて)道案内してもらってました」
その言葉に反応した人物に目を向ける。その奥には怯えた妊婦の姿もあった。薄暗い部屋のせいでここからではよく顔が見えないが、体系的にそう見て間違いなさそうだ。
多くの視線が揚羽一人に集まる。
「あっ、あげはせんせい!」
「うん。先生だよ」
「なぜお前がここに? お前は学園にいるはず」
二人を守るように前に出て敵意を向ける守護者――幻竜。
背後にいる者と比べると小物過ぎて……無視でもいいか。
「お前が『Luminous』の頭か?」
「俺ぇ? 違うよ。頭は彼だよぉ~。俺はただの傭兵さ☆彡」
視線を再び幻竜の方に戻す。
まさか守護者の地位に立つ物が国の代表として国家の成長のため尽力するのではなくその逆を実行するとはなんとも守護者の風上にもおけない。
「たしかにあの人形小娘の端末から学園にいると報告を受けたはずだが……」
そう言って再度確認する幻竜に、小田信奈のスマートフォンを見せる。
「これか? これは俺が入力した偽報告」
「どうなっている? でもたしかに位置情報は――」
「バカかお前。位置情報なんて衛星にハッキングすれば簡単に変えれる。お前は理紗の力を甘く見過ぎなんだよ。理紗は元情報戦力部のチーフ。他の部署に興味がないお前は知らないだろうがな」
「ぐぬぬ、イージスの為に働くからと命乞いをしておきながら、こんな損失を真似くとは人形小娘あとで覚えてろよ……死より苦しい道具としての人生をくれてやる」
「小田信奈はお前たち仲間じゃないのか?」
「仲間? アイツが? そんなわけあるか! アイツは期間限定の使い捨ての人形! 要が終わればスクラップ行きが確定してるんだよ」
「そういうことね」
「お前の相手はコイツ等だ! 来い、お前たち!」
幻竜が叫ぶと、今まで気配を隠していた幻竜直轄の精鋭部隊が姿を見せる。
「それだけ?」
「どうして『Luminous』が今までお前の情報網に引っかからなかったかわかるか?」
「わかれば苦労しない」
「教えてやる。それはコアメンバーが俺と俺の親衛隊だけで構成されているからだ! つまりこの国で俺たちを調べる行動は全て重罪となるからだ! つまり唯一俺を調べても罪を着せれない奴は必ず部下を動かす。そうすれば必ず俺の情報網に引っ掛かり調べることができなくなるか、権限足らずで真相に辿り着かなくなる」
揚羽は納得した。
だから田中が直接色々と調べ始めると、今まで出てこなかった情報が徐々に陽の光を浴びるようになったのだと。
まぁ、田中の情報網自体凄く広くて精度が高いってのもあるだろうが。
「さぁ、ギブアンドテイクだ」
気づけば、親衛隊が揚羽を完全に包囲している。
ただのお喋り好きではないようだ。
「学園を出る前応援要請をだした。今回は総隊長が直接指揮を執り動いている。お前たち投降しろ」
「はったりにしては上出来だな。総隊長は王城から基本出られない。そもそも殺せるのか? お前に? 分かっているだろう? 一般人となったお前が正規軍に歯向かうのだ。その行動が既に公務執行妨害となるんだぞ? それだけじゃないここは現職守護者の許可がないと立入禁止。お前はどの道重罪人。そんな人間の言葉に誰が耳を傾けると思う?」
「そう? ならおいで」
軽い挑発をすると、幻竜が叫んだ。
「やれー!!!」
その声を合図に一斉に親衛隊がバタッと音を立てて膝から崩れていく。
意識を失い、動かなくなった兵など怖くもなんともない。
時間稼ぎをしていたのは幻竜だけじゃないというわけだ。
「あれれ~皆倒れちゃったね~。顔色悪いし、不自然な意識喪失。効果範囲を限定した酸欠っぽいねぇ~。まぁ、俺には効かないけど?」
冷静な後ろからの解説に幻竜が後ろに立つ牧の腕を強く掴み人質にする。
そして入れ替わるように、
「おっ!? これは選手交代かな?」
指をぽきぽきと鳴らしながらイージスが立ちふさがった。
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