第15話 隠密行動とは
翌日。
大きなアクビをしながら、とても偉大な魔法師には見えない雰囲気を纏った揚羽が出勤した。
そのまま自分のデスクに腰を降ろすと、一斉に視線が向けられる。
耳を澄ませばひそひそ話でなにかを言われている気しかしない。
とりあえず聞こえていない振りをしつつ今日はどうやって一日を過ごそうか考えていると一人の女性教員が後ろを通り過ぎて行った。
その時「保健室」とささやかれた。
揚羽はタイミングを見計らって自然な形で席を立ち、近くの先生に「トイレってどっちですか?」と質問してから職員室を出た。
それから――しばらくして。
トイレ経由で保健室に来た揚羽は朝の珈琲を飲んでいた。
保険医の田村は盗聴防止用の特殊な結解を張ってから話始めた。
「昨日の頼まれた小田信奈という人物についてですけど、表向きは亡くなったことになってますね」
「つまり?」
「本当の理由は拉致された。ってことが調査の結果わかりました」
「誰になんの目的で拉致されたの?」
「さぁ?」
「へぇ?」
思わず、変な声がでてしまった。
「だからそれを今日調べに行きましょう、というのが私の報告です」
思いもよらない展開に言葉が詰まってしまう揚羽をおいて田村は続ける。
「王都中央区に空軍基地があるのはご存知ですよね?」
「うん。他国のお偉いさんがプライベートジェット機で偉そうに来る方の基地でしょ?」
中央区には空軍基地が二つある。
一つは本来の使われ方をする基地。
そしてもう一つは。
国内警備と併用して他国の重要人物のお出迎えや女王陛下や政治家を護送するために設置された軍事施設基地。そこは最新技術の塊で空軍基地に置いても最先端のステルス戦闘機が常に配備されておりそんじゃそこらの火力では落ちる所か痛手すら追わない場所となっている。
「でもそこに何があるの?」
「あそこは他国の重要人物が来ます。その中に『Luminous』の手先がいるとの噂がありました。上手くいけば『Luminous』に関する情報が手に入るかもしれません」
他国の重要人物。
その場合、ただ犯罪者と繋がりがありそう。という疑惑だけで事情聴取ができない。正当な手続きと理由がなければならないのだが、そんなことをしている間に大抵の場合逃げられてしまう。犯罪者も捕まらない努力を常にしておりアンテナを張っているからだ。
「わかってると思うけど、あそこは守護者から許可を得た人間以外立ち入り禁止エリアだから入るの苦労しない?」
「いるじゃないですか」
「ん?」
「元守護者」
「つまり昔の立場を使って強引に行けと?」
「はい!」
満面の笑みで答えた田村に「おいっ!」と間髪入れずにツッコミを入れる揚羽。
「冗談ですって。牧さんのカウンセリングが正午からなので午前中に戻ってくることを考えれば一人隠密行動が早いでしょ」
「つまり誰にもバレないように侵入しろってわけね」
「それが一番早いかと思います。しかし……」
「どうしたの?」
「昨日の一件で揚羽先生の単独外出禁止令を主任の先生方が出されているんですよね」
「ならどうすれば……」
「そこで全てを解決する人を呼んでおきました。待ち合わせ場所はここです。アポも取っていますのでご安心ください。揚羽先生は学園長の代わりに来客対応ということにしておきます。そうすれば主任の先生方も文句は言えないはずです」
「いや、嘘はよくないでしょ」
「いえ。協力者の方が学園長に直接話を付けてくれたみたいで、そういうことにしておけと言われました。外野の文句は直接学園長が聞くようにしてくれたみたいです」
揚羽はふとっ思った。
学園長ともコネがあって特別監視区域の一つである空軍基地にアクセス許可を持つ人物とは一体誰なのか? と。
ただの一般人やそこら辺の有名人でもそんなことは不可能だ。
情報戦において田村理紗はとても優秀である。
そんな田村が小田信奈が拉致された理由が付き止めれなかった理由――なにかあるはずだ。
いつもの理由での拉致なら何かしらの記録に残っているはずである。
恐らくその記録は『Luminous』にとって残したくない記録だったのは間違い。
だったらその協力者とやらに会いに行く以外の選択肢はない。
「行ってきます」
「はい。お気を付けてください。ううん……紅さん気を付けて」
懐かしい響きにふっと鼻で笑って揚羽は田村から受け取った住所まで足を運んだ。
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