休日おおむね朝の趣味ご飯

青王我

肉うどんアーリオオーリオ

 朝、といっても10時を回ったくらいだから昼前かもしれない時刻、私はキッチンで1人分の食事の用意をしていた。休日の朝はだいたいこんな時間に食事を摂る。


「ん、何作ってるんだ?」


 そこへ水を飲むために起きてきた親父がやってくる。


「うどんが余ってたから、適当に作るつもり」

「たまには食おうかな。2人分に出来る?」

「いいよ。材料はちょうど2人分あるし」


 しかし親父が食うとなると適当なものは作れない。

 ああ、ここで言う適当というのは『失敗してもいい試作品』のことだ。私はよくこういう時に適当ではなく『てけとー』なんて言ったりもする。


「うーん、じゃあ、アレを作ってみようかな」


 さっそく私はキッチンに材料を並べ始めた。

 菜種油、ごま油、オイル漬け刻みニンニク、粉の黒胡椒、冷凍の豚こま肉、それと乾麺のうどん2人分。


「まずうどんを1分短く茹でる」

「理由は?」

「焼きうどんじゃない焼きうどんを作りたいんだ」


 つまり、フライパンで温める時間を逆算するわけだ。

 茹でている間に、豚肉を解凍しておく。解凍した豚肉はボウルに入れ、醤油を多めに掛け回し、粉の黒胡椒を振ってから箸で解しながら馴染ませる。


「マグロのヅケの感覚だね、熱しながらだとまんべんなく味が回りにくいし」

「なるほどね」


 うどんが茹で上がったら、少し茹で汁を残して別の器に移しておく。これはパスタソースを絡ませるための手法を真似たものだ。作りたいのは言わばうどんパスタなので麺は締めない。

 それからフライパンで菜種油大さじ3、ごま油大さじ2、オイル漬け刻みニンニクを温める。茹でている間に使い終わった調味料は手早く片付けておく。


「あ、唐辛子入れていい?」

「激辛じゃなければ、いいよ」


 私はガッツリ激辛が好きだ。そのために料理用の一味唐辛子を常備してあるほどに。しかし親父は辛口好きではあるが得意ではないので加減が必要だ。

 唐辛子をさっさか入れて、ごく弱火で熱していくと自家製のニンニクラー油が出来上がる。そこへ醤油で漬けた豚こま肉を投入するのだ。


「もう出来上がるから、お茶とか、配膳よろしく」

「あいよ」


 中火にして豚こま肉を炒め、火が通ったら移しておいたうどんを茹で汁ごとフライパンへ投入する。ここでうどんを温め直しながらざっくりと全体を絡めたら出来上がりだ。

 大皿にフライパンの中身を空け、フライパンをささっとすすいだら完成品を親父の元へ運ぶ。


「で、これは何?」

「肉うどんアーリオオーリオ」


 親父は大皿の中身を一口食べるなり、納得した様子で呟く。


「ああ、ペペロンチーノ」

「そうそう。焼きうどんっぽいけど焼いてない。調理手法はしっかりパスタなのでアーリオオーリオってワケ」

「なるほどね、いや旨いよこれ」


 私はまず肉を口に運ぶ。多めの油で炒めるようにした豚こま肉にはしっかり醤油の味が染み込み、その柔らかい歯応えと共に舌を喜ばせる。後味の胡椒もまた良い。

 次いでうどんを食べると、油に溶け込んだニンニク、唐辛子、豚肉の脂、そして醤油がうどんのザラザラした表面に絡みついて濃厚な旨味を堪能させてくれる。


「うん、想像した通りに出来た気がする」


 言葉通り、この料理は参考にしたレシピが無い。これまでに見た製法やレシピを合成して、なんとなく作った代物だ。だからこそ、想像通りに出来上がると達成感がある。

 食べ終わってまだ11時。休日のことだから昼は2時くらいになるだろう。


「そんじゃ、俺はまた寝るかな」


 歯磨きをしに洗面所へ向かう親父を尻目に、私は後片付けをし始めるのだった。

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