好きになったひと

野宮麻永

第1話 来るもの拒まず 去るもの追わず

来るもの拒まず

去るもの追わず




でもね、来るものなんてないから、拒みようがない。


去るものは――




立春は春の始まりで、旧暦では1年の始まり。

新しい季節の訪れを祝い、前向きな気持ちでスタートするはずだったのに……



わたしの中でたったひとりの家族だった、お祖母ばぁちゃんを亡くした。



亡くなってから、お祖母ちゃんが献体登録していたことを知った。

そして搬送も火葬も全て大学病院が費用を負担してくれるというのを聞いて、納得した。

高校生のわたしは右も左もわからなくて、頼れるひともいなければ、お金もない。だから、これはきっとお祖母ちゃんが考えた末の選択に違いない。


でも……納得はしたつもりだったけど……けどね……


わたしのところに戻って来てくれた時には、小さな箱に収まるほどの大きさになっていたお祖母ちゃんを見て、からだ中がぎゅうっと痛みに蝕まれた。


冷たくなってしまったからだに、ずっとしがみついていたかったわけじゃない。

ただ……大切なひとを失ったのに、最後の時間があまりにも短かすぎたから。


やり場のない気持ちは宙ぶらりんのまま、ふたりで暮らしていた広い家で、ひとりぼっちになった。






去るものは……追いかけたくても手が届かないところへ行ってしまったから……追うことも叶わない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る