第一世代の男

 「まさか、あの時のガキが来るなんて思わなかったぞ」


 ⋯⋯伊崎湊翔。


 あれから調べたぞ。


 初めてだ。

 人生で人を調べるなんて事をしたのは。


 「おぉ。イイとこ住んでんじゃん」


 「まぁな。俺も一応金は困ってねぇからな」


 年に数十億も貰って、組長と他に裏で繋がってる社長とかの店でタダ飯食らうからな。


 「ヤクザらしく、和室に座布団か。

 俺の性に合ってねぇが、今日は合わせるか」


 「お前日本人だろ?

 和室が合わねぇなんて珍しい事を言うもんだ」


 来る奴らは大体おぉって言うんだがなぁ。

 初めて見る反応だ。

 これはこれでおもろい。


 「おいしょ。おぉ、ありがとう」


 「いえ。お客様のもてなしは当然です」


 「煙草は何を吸う?」


 「じゃあおすすめを」


 「ん」


 顎で指示してコイツの真意を探る。


 「それで?どんな要件だ?」

 

 「まぁ一言で言えば、お前が欲しいってのは断られるとは思ってる」


 笑わせる。

 俺が誰かに付くような人間に見えているなんてな。


 「だろうな。

 俺が人に付くなんて思ってたらそれはそれで鼻で笑っちまうよ」


 「そう。

 とりあえず端的に言えば、保険を掛けたくてな。


 海外に行く」


 「ほう?

 なかなか面白い事を企んでるようだな」


 「まぁな。

 そこでだ──」


 奴は指を一本立てた。


 「あ?一億?」


 「⋯⋯100億」


 ──オイオイ。

 コイツ、正気か?


 「正気か?お前」


 「勿論。

 じゃなきゃこの俺がわざわざここまで足を運ばん」


 ふん⋯⋯どういうつもりだ?

 

 「100億?俺は何をするんだ?」


 「特別やることはない」


 「ない?」


 「基本は女とヤリまくってて構わん。

 カジノでも行けばいい。

 俺達も遊びで行くわけではないからな」


 「続けろ」


 「とりあえず、真壁銀譲と石田龍司の身に何か起きた場合、その為の保険を掛けておきたい」


 ⋯⋯護衛が主に心配されるなんてなんだしょうもない。


 「アイツらも地に落ちたもんだ。

 守る側の人間が護られる側に気を遣われるなんてよ」


 「何を言う。

 俺は円の内側の人間を誰一人失うことを許さない男だ。


 それが護衛でも同じ事」


 その眼光。

 どこまで行っても負けないぞという、強者の瞳。


 「⋯⋯そうかよ」


 「お前には素手での戦いは完敗だったが、学ぶところも多かった。


 ついでに喧嘩の極意でも教わろうかね」


 「あぁ。

 お前は戦いに関しては強いのだろうが、こと喧嘩においては大したことがないからな」


 「⋯⋯ふっ。痛いところを突かれる」


 俺にも、こういう奴が居たら──創一。







 「白い炎か」


 「ねぇ、どうしたの?」


 白炎。創一の技は、白く燃え上がる。


 アイツ、セカイにも入れている。

 やるようになったじゃねぇか。


 扉を開け、会話を交わす。

 そして主役の元へ。


 「す、すま、ない⋯⋯」


 「今まで見た中で、一番格好良かったぞ」


 「ぁ⋯⋯後は⋯⋯ぁ」


 「真壁銀譲。

 セカイに入れたようだな。

 ようこそ──人間のセカイへ」


 さっき名前を思い出した石田に預け、俺は尻拭いをしてやる。


 「て、てめぇ⋯⋯何者だっ!」


 「お前がシルヴァ・フロストか」


 「に、日本人が⋯⋯通訳なしで喋れるのかよ」


 「後ろにいる馬鹿どもと違って、俺は優秀でね」


 鼻で笑いながら親指であのバカ共を指して煽り続ける。


 「っ、そう言えば⋯⋯」


 そこで昔の事を思い出す。



 ーー無頼じゃない!アニキは誠実剛拳だ!



 「はっ。そうだ」


 「な、なんだ?」


 「あいつの事は無頼ではなく、誠実剛拳の真壁銀譲と呼んでやれ」


 「はぁ?」


 アイツは仲間を信頼しきれていなかった。

 だから預ける事をせずに一人で戦い続けた獣だ。


 だが、もうそんなことはしないだろう。

 セカイに入った時、俺は認めた。


 「"誠実剛拳──真壁銀譲"」


 ふっ、我ながらよく覚えているもんだな。


 「中々良い二つ名だ。

 男たるもの、相応しい二つ名ってのがいる」


 煙草に火をつける。


 「呑気に手で覆って──俺達は日本人みてぇに手加減とかしねぇぜ!?」


 「ん? 何言ってるんだ?

 モブが一々うるせぇな。

 お前ら全員かかってこいって最初から思っていたんだがなぁ」


 言ってやると、全員の目付きが変わる。

 いいねぇ。そうでなくては。


 ⋯⋯やり甲斐がねぇってもんよ。


 「それに、お前──対等に戦ってるつもりだろうが、魔法なんてちゃちな真似しやがって」


 「っ、なんの事だ?」


 「あのバカ共に分かるわけもねぇだろう。

 どこの誰だか知らねぇけど、アイツは正々堂々実力で戦った。


 お前は魔法なんてズルをして負けた──どっちが優秀かが透けるぜ?」


 おぉ⋯⋯額の血管がメキメキ言ってるわ。

 やっぱ人を煽るのは楽しくてやめらんねぇよ。

 

 「俺の知ってるシルヴァは少なくとも単体で負けるような雑魚じゃなかったはずだがな」


 「⋯⋯黙れ」


 「さ、回復薬も飲んだか?

 あの一撃を喰らって起き上がれるのだから、まだズルをしているのだろう?」


 そう言って、俺は近くで俺を殺そうと見上げる一人の奴に羽織るスーツを折り畳ませる。


 「ここは暑くてたまんねぇよ。

 持ってろ。500万はするんだから」


 俺と目を合わせることもしねぇ。

 よく序列を理解しているな。


 いや、震えてションベンチビってるだけか。


 「弁償代は高く付くぜ?

 ──ふっ」


 歩き出す前、腰を捻って振り返る。


 「真壁銀譲。

 成長したな。それでこそ漢だ」


 俺の技を受け継ぎ、戦い方を受け継ぎ、人を導く事を覚えた。


 もうそんじょそこいらの人間に負けることはないだろう。


 「両手をしまうなんて、俺達相手によく出来たもんだぜ!!」

 「ハハッ!日本人め!

 調子に乗ってられるのも今のうちだけだぜ!!」


 余所見している俺に向かって数人が殴りかかりに来る。


 「──そう来ないとなぁ?」


 全ての攻撃を受け止める。


 「「「っ!?」」」


 腰を沈め、両肘を腰に当てて。

 避けず、ただその全てを受け入れる。


 「そうだよなぁ?」


 神門流極真空手──。


 「そうだ」






















 "正拳突き王牙"


 豆腐が弾ける感触。

 天井には吹っ飛ぶ血でいっぱいだ。


 「っ、は、ハァ?」


 飛びかかってきた三人の上半身はただの案山子同然。


 「な、そ、そんなわけ⋯⋯!!」


 「これでも加減してやったんだがな」


 「は、早く奴を殺せ!!」


 シルヴァの命令で全員が武器を持って俺に向かってくる。


 それを見て俺は、笑ってしまう。


 「久しぶりに身の程知らずと相手出来るなんて俺もツイてる」


 手を手刀の形に。

 創一の技を受け継いで魅せる日が来るなんて。


 きっとあの人なら、なんて言ってくれるんだろうな。


 かなり中二病拗らせてたし。

 でも多分。

 

 "別世界の神話から受け継ぎし者"

 "⋯⋯草薙狂仁"


 とかかな。


 「乱舞──空姫」


 踊るように手刀で全員の首をぶった斬る。


 「身゛の゛程゛知゛ら゛ず゛共゛が゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!゛


 ど゛い゛つ゛が゛俺゛を゛殺゛し゛て゛く゛れ゛る゛ん゛だ゛ァ゛ァ゛ァ゛!?」


 金属バットを振るうやつ。

 残念だ。


 「⋯⋯⋯⋯ハァッ!?」


 真正面から手刀とぶつかり合うが、まるで粘土だ。


 テンション上がるぜ。

 真っ二つに折れては、そのまま顔面にぶっ刺さっては壁に向かってぶっ放つ。


 「どいつだ?」


 斬って。斬って。

 ぶっ飛ばして、殴って、蹴って、振り下ろして、投げてへし折って。



 ーー古武術は受け身を取らせないことが強い。


 格闘技は戦わせることが目的なのだから武術と迎合しない。


 

 "壊道──獅子上げ"


 螺旋状に上げることで衝撃を腕全体に響かせる腕の骨を粉砕する事ができる。


 受け身を取れば、その衝撃は全身に響き、後遺症が残る。


 「どいつだ?」


 「すまねぇぇぇぇ!!

 ァァァァァァ!!!!」


 首を掴んで壁にぶつけて俺は鼻先まで近付いて訊ねる。


 「どいつだ?」


 一人一人目を見て訊ねる。


 「悪い!何でもするから!!!」

 

 どいつだ──。






























 「ど゛い゛つ゛が゛俺゛に゛届゛き゛う゛る゛奴゛な゛ん゛だ゛ァ゛!゛?゛


シ゛ル゛ヴ゛ァ゛!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る