人生とはタイミング
ふん。護衛と言っても所詮こんなものか。
なんとレベルが低い。
如何に石田と銀のレベルが高いがよくわかる。
「神村、大丈夫か?」
振り返ると、神村がぽけーっとしている。
「だ、大丈夫!!」
こんな現場を見て何も思わない方が不思議だわな。
軽く近付いて額に人差し指を当てる。
「っ、なんか軽い!?」
「おまじないだ」
精神系の魔法を掛けて落ち着かせる。
振り返ると連中は軽く死にそうなレベルでドン引きしているので、動けるくらいには回復させる。
「あっ!あれ?」
「軽い!」
自分の体を確認しながら互いに言い合っているのを見て、俺は神村の肩を軽く抱き寄せる。
「ちょ!!い、伊崎くん!?」
「そうそう。
神村、俺が何故このドレスをチョイスしたのか分かってなかっただろ?」
聞こえるように連中の方へと向きながら呟く。
よし、聞いてるな。
「もしかしたら──」
ケツポケから取り出し。
「本物の化物が生まれるかもしれない」
取り出したモノを神村の手に置いて、指を絡めながら握らせて収める。
「とりあえず元気だせよ、神村。
お前の魂は⋯⋯この世の誰よりも輝いている。
誰かが見ているさ」
ーー自分でも本当は分かっているんでしょう?
ーー不器用な魂。
けど、そんなあなたの傷をいつか溶かせるように、私は今日もあなたの為に祈ります
「ふっ。またな」
俺は神村の額をまた突っついて、横を通り半笑いの銀と共に、この場を去る。
「相変わらずぶっ飛んでるな、大将」
「あぁ? 銀ならあんな馬鹿な事するか?」
「しないな」
「だろ? どこのどいつだ?
あんな護衛如きが人様に向かってあんな調子こきよがってよ」
向こうでもいなくはないが⋯⋯
思い出すが、こっちよりも教育や教養はないし、権力を求めて戦果や成果が欲しいという事はだいぶ価値観変わるかと考えるのをやめた。
「伊崎くーん!!」
「ん?」
振り返ると神村が走って来ている。
もう車はそこだ。
銀にはアイコンタクトで先に行ってろと合図を送る。
「どうした?」
「ごめんね。ちょっと聞きたくて」
「あぁ」
「返事ってさ⋯⋯その⋯⋯やっぱり⋯⋯」
あぁ。そうだよな。
「ハッキリ言えば、今は難しい」
「っ、や、やっぱりそうだよね⋯⋯」
「神村、人生とはタイミングという言葉を知っているか?」
俺は空を見上げながら呟く。
「き、聞いたことがあるくらい?」
「俺は、神村の容姿が嫌で断った訳ではない」
「⋯⋯え?」
「さっきも言っただろうが、俺は今、誰かと恋をするということすら考えられないくらい忙しい日々でな。
時間ねぇし、誰か一人の事を考えられる余裕はないから受け入れなかった⋯⋯ただそれだけの事だ」
そう言うと少し俯いている。
「好意は純粋に嬉しい。それに偽りはない。
遠距離恋愛をしているカップルがいるだろう?
難易度が高いと言われている」
「う、うん」
「別れてしまうケースが非常に多いだろ?
それはタイミングが悪かったということだ。
人生はそんなタイミングの連続で出来上がっている。
だから面白いんだよ。
ここで受け入れなかったから、何かが生まれるかもしれない。
もしかしたら、予想なんてしなかった事が起こるかもしれない」
沈みかけの夕焼けが綺麗だ。
「神村」
呼び掛ける。
「はい!」
「今は難しいかもしれないが、もし、大人になってもそっちが変わらなかったら──その時は、また違う形で応える」
女ってのはなんて素晴らしい生き物なのか。
グラデーションみたく、嬉しそうに表情が明るくなる。
月夜から陽射しが掛かり登った太陽のようだ。
「これは提案だが」
「⋯⋯?」
「文化祭のダンス──」
まさか貴族のこんな経験が活きるとは。
「俺と踊ってくれないか?」
貴族の所作で笑いながら神村へと手を差し伸べる。
「よ、喜んで!!!」
恐る恐るだが、神村は震える手で俺の手を握ってくれる。
「ふっ」
「んふふ!」
「ツァールビィンクルガシン。
ランブルシスタイルバ」
(女はやはり、どこの世界も美しい)
「え?なんか言いましたか!?」
おぉ。無意識だった。
「いや、忘れてくれ」
すると向こうの方から神村の護衛が汗だくだくで走ってきている。
「神村、護衛が泣いてるぞ」
ハッとした神村は振り返って謝っている。
「じゃ、また会おうぜ」
「う、うん!!」
「そう」
「?」
「次学校来たら、大変だろうが、頑張れよ」
「え?どういう事?」
「またな」
俺は振り返らず、車へと乗りこんだ。
少し良い気分だ。
石田には何かあげないとな。
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