初恋

 女の世界は男の子が思ってるより酷いと思う。


 「⋯⋯しなさい!」

 

 「女として産まれたのだから!」


 お淑やか、前に出るな。

 何度言われたか。


 あとは。


 「お顔を綺麗にしないと」


 女に必要なのは容姿。

 容姿が悪かったら全てが駄目になる。


 「あなたの娘が次の世代を担うなんて無理に決まってるでしょ!!」


 あぁ、どうしよう。

 ママだけが味方なのに、ママをまた困らせてしまう。


 原因不明の病気だ。

 

 「真彩まあや

 私はあなたが醜いだなんて思わないわ。

 私の子供だもの。

 魂はいつか進化するものなの。

 ほら、一緒に祈りましょう」


 ママはいつもたった一人で祠で祈っている。

 ずっとだ。


 何か起こるわけでもないのに。


 でも、ソレに何かがあるのかも分からないけど、何か震えるモノを感じるのは私でも分かった。


 「真彩、いい? 神様はいっぱいいるの。

 誰かが見てくれてるからね。

 全てお見通しなんだから」


 ママは有名な祈祷師。

 古い家で、天皇陛下とお話したこともあるんだって聞いた。


 周りからは昔のママの話を聞くと天真爛漫でじゃじゃ馬だったって聞いて、笑い方や喋り方に少し出ていたりしていたのでそれだけが私の生きる楽しみだった。


 外に出れば周囲からは奇怪な眼で見られ、男の子からはイジられ。


 娯楽もないここで、私はママの昔話だけが全てだった。


 だから、私も同じように祈るようになった。


 「真彩。感じるの。

 誰かがあなたを見ている。


 心臓、頭。

 全ての動きがサインを出しているから」


 分からなかったけど、でも。


 "不思議と、鼓動の波が広がると、揺らぎを感じる事ができた"


 ママには言わなかった。

 恥ずかしかったから。


 能力のようなものは日に日に力を増し。

 けど、家柄だけが良く、そのまま何も言わずに時は過ぎた。


 




 「⋯⋯っ」


 そう。あの日だ。


 入学式の日。


 見つけた。

 意味不明なほど揺らいでる魂を。


 見た瞬間、その場で気絶した。


 あそこまで魂が真っ二つになっている器を初めて見た。


 大体の人間には色々なパターンで見えることがほとんど。


 色が黒で大半を占めている人間。

 白が勝っているパターンや半分だけど色が弱いとか。


 だけど、ぴったり5050で白と黒で激情の波がぶつかり合っている魂を見たのは初めて。


 しかも、黒い方はとてつもなく深い闇。

 だけど白い方は、どこまでも浄化をする⋯⋯光。


 ここまで美しい人間の魂を見たことが無かった。


 どちらも輝いているのだ。


 全てを照らす光と、全てを呑み込む闇。


 完璧に整っている人間を見たのは。

 でも、別にそれだけ。

 興味だけだった。 





 「邪魔なんだけど」


 「あっ」

 

 こぼれ落ちる資料。


 学校での扱いには慣れている。

 私は存在してるだけの豆粒。


 息をしたら周りからは凄い目で見られる。

 別に、好きでこんな見た目で生まれてないのに。


 地面に落ちた先生のところへ持っていくみんなのやつを──


 すると、しゃがもうとする私の視界は影で埋まる。


 「ん、落ちたぞ」

 

 「っあっ、あり⋯⋯」


 そう。入学してから半年。

 あの日に見た同い年の男の子だ。


 「"女"も大変だな。部屋はどこだ?」


 「あ、あっ⋯⋯だ、大丈夫!!」


 「大丈夫⋯⋯って、そんな顔してたらそりゃ手伝いたくもなるだろう?」


 と、私の前髪をサラッ、サラッて!!


 「おぉ、ごめんごめん、女なのに隠すのが珍しくてな──」


 恥ずかしげもなく接してくるのだ。


 人生で感じたことのない気持ち。


 「何してんだ?行くぞ」


 変わった男の子。

 指を差して、口撃しない人。


 「ここか?」


 「あっ、うん!」


 その時。


 「あれ?伊崎くん!?」


 クラスのリーダー格だ。

 秋山、アイツが全てを動かしているんだ。


 「おう。別に大したことねぇから」


 「大したことあるよ! 

 この子に任せてればいいんだって」

 

 「⋯⋯⋯⋯」


 無言で秋山を見下ろして数秒。


 空気は徐々に冷えていく。


 「ど、どうしたの?」


 「いや? 秋山だっけ?

 神村は割と丁寧に物を扱う人間だぞ」


 「え?なに?」


 意味不明な言葉に、秋山は口元を歪めている。


 「ん?秋山達ってさ、神村の事でよく悪口言ってるじゃん?」


 「い、いや、そんなことないって!

 悪口じゃなくて、本当の事だって!」


 「本当の事?」


 少し躊躇っていたけど、これまでのことが嘘のように吐き出していく。


 「努力もしない!

 家柄に頼ってる!

 自分から行動もしなければ大して凄いところもない!


 蔑まれて当然でしょ!」


 ⋯⋯そんな風に思ってたんだ。秋山って。


 私は伊崎君の方へと視線が移っていた。


 ぽけ〜っとして。

 頭の上にはてながある。


 「神村が努力してないのか?」


 「そうでしょ!?

 んーなんで伝わらないの!?」


 「そう思ってるのは秋山達だけじゃね?」


 「は?」


 「神村さ、飯とか気を使って毎日食べてるぞ?


 休み時間も料理のレシピ本読んでたり、太る原因を探してたりしてた。


 家柄って言っても、特別金を使ってないみたいだし、掌を見たら分かる。


 運動してるよ。筋トレ。


 それに、物を扱う時は凄く丁寧だ。

 一度貰ったものを大切にする人間は精神性が高い。

 

 上履きはしっかり揃えて音を立てないようにしてるし、スカートの整え方も。


 秋山たちより行動もしてて努力してるのに、何故馬鹿にされてるのかがあんまりよく分からんくてな」


 その場にいるのが色々な意味で辛くなった。

 


 ーー誰かが見てるよ



 あぁ。


 頭の中で昔の言葉が張り付く。

 なんでこんな時に気持ちが揺れる事を言ってくれるの。

 

 今、顔変じゃないかな?


 「わ、私だってそんなのやってるよ!」


 「そうか? まぁ別にいいんだけど」


 「別にって」


 「いや、それが相手を攻撃する理由にならないだろ。


 まぁ誰がいじめられてようが構わないが──」


 

 "俺は頑張っている奴に何か文句を言えるほど偉い人間ではないからお前らが不思議に見えただけだ"



 あぁ。

 

 ーーうわぁ!化物ダァァ!

 ーーきったねぇ!頭爆心地っ!

 ーーおいやめろよ!

 


 この場からいなくなりたい。

 頭の中で完結したい。

 こんな人居るわけない。

 きっと幻想だ。


 「伊崎ーポッケから手をだしとけよー」


 「うーい」


 先生に注意されて私達の横を通り抜けて、伊崎君は少し身体を捻ってこっちを振り返る。


 「まっ、十人十色⋯⋯だっけ?

 世界には色んな人間がいる。


 俺らなんて短い人生しか生きねぇ物差しで馬鹿にできるほど優れた生きもんじゃねぇんだから⋯⋯精々、毎日やれる事をやる。


 積み上げる事が人生だぞ、クソガキ共」


 少し先で振り返って彼はそう呟くように言い放ち、手を上げて消えた。


 毒だけ吐いて。




 でも、この日、私は恋をした。

 中身なんて知らない。


 だけど、魂を見れば分かる。


 毒を放つほど不器用で、魂は激情の波同士がぶつかるんだもん。


 良い人に決まってる。

 あんなに人の中身を見てくれる人だ。

 何より、私を見てくれる人。


 なんて言われるか分からないけど。


 でも、人生で傷を負ってもいいかな。

 1度くらい、ワガママを望んだっていいかなと思った。


 帰ったら、彼が幸せになれるように祈ろう。

 きっと伊崎くんも色々な葛藤があったに違いない。


 そんな唯一の人。

 どんな人なんだろう。


 知りたい。

 好きな食べ物とか、タイプとか。


 あー、恋ってすごいな。

 短時間で人を狂わせるんだもん。


 彼が、今日も幸せになれるように。

 祈ろう。

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