閑話:史上最強のファイター(後半)

 そして試合当日。

 東京のホールには観客が押し寄せた。


 今回、アルケミが出資している事もあり、様々な関係者が来客を匂わせ加えて前座としてパフォーマンスをした事で観客動員数が過去一だった事を後に関係者が知ることになったこの日、二人の因縁の戦いが切って落とされた。


 

 『いやー、二人の若者の戦いですよ!峯田さん』


 『ははっ、まぁまぁ昨今色々な問題がありますからあまり言及しない方が』


 『良いじゃありませんか。

 我々世代はやられたらやり返すのが基本でしたから』


 『是非とも星選手にはつい頑張って欲しいだなんて思ってしまいますよね』


 『鈴村ジム所属の大樹選手もかなりの力を持ってますから侮れませんね』


 『どれどれ⋯⋯おぉっ!

 大樹選手もキックの経歴が長いですねぇ!


 身長181cm、星選手は174cmですから、よく受けましたね』


 『それほど自信があるということでしょう。

 会見でもかなり自信に満ち溢れていた顔をしていましたからね。


 おおっと?両選手が入場してきます!』


 大樹陣営の方は全員が輩のような風貌の人間ばかり。


 対して星の方は静かな覇気を感じる人間たちが。


 『星選手陣営の人間ですが⋯⋯』


 『いや僕も言おうと思ってたんですよ!

 なんですかあの体格!

 あの人が出ないんです???ってなりましたよ!』


 解説が興奮している中、大樹は見せつけるように自身のフットワークを足を入れ替えながら行っている。


 『おおっ、大樹陣営は早速戦おうとウォーミングアップをここぞとばかり見せつけていますね』


 『いやー若いですね。

 戦術や動き方を見せつけては選択を狭めてしまいますから。


 しかし今までの戦績を見るとねぇ?』


 『おぉ!始まるようです!』


 『ルールは総合に近い何でもありのタイマン!


 ゴングが鳴りましたっっ!!』


 カンッッ!と場内に鳴り響いたのは良いが。


 その時───同時にどよめきが起こる。


 『なっ、なんだ?』


 な、なんのつもりだ星てめぇ⋯⋯!


 大樹の視界には、構えすらとらない星の姿。

 前傾気味に両腕をぶらんと降ろしているのがあまりにも異質で現代格闘技でも見たことがない。


 まさに獣。

 星の無表情も相まって、あまりにも放つオーラが異質だ。


 っ、何だこれはよ!


 さすがの大樹もこれには目が泳ぐ。


 『星選手の情報が全くありませんから、皆が注目していましたが、これは全く新しいスタイルと言った感じでしょうか?』


 『異質すぎる。

 いくら何でもありと言ってもこれは言葉が出ません』


 場内は静まる。

 

 だが、この男は引く事が出来ないのだ。


 クソッ、星の野郎。

 何調子に乗ってやがる。


 ファイティングポーズのまま、得意の足捌きを交差させ、くるっと不定期に入れ替えながら──前に。


 ふっ、会見の時は調子に乗りやがって。

 星──


 縮まった距離でどう差し込むかとそう顔を見た大樹は、心臓が止まった。


 それはまるで地獄の中で生きる人間の輝く瞳。


 暗闇で煌めくゴミ溜めにいるような。


 



















 "ダウン!!"


 はっ?


 次に瞬きをした時、自分の状態を見た大樹は素っ頓狂な声をあげる。


 何故か床に寝ている。

 セコンドのトレーナーが叩きつけながら必死に俺を起こそうとしてる。


 なんだ?

 何があったんだ!?


 "5!!!"


 「大樹!大樹!!!起きろ!!!」


 「っ!!クソッ!!!」


 視界と状況が晴れ、自分の状況に気付いた大樹は慌てて立ち上がる。


 『おお!ファイティングポーズを取ったぁぁ!!』


 『今、何があったか解説の方も分からなかったんですよね』


 解説陣が困っているのを他所に、星陣営は頭を抱えていた。


 「真面目過ぎるだろアイツ」

 「確かにそう教えたけど」


 それぞれ別方向に俯きながら頭を抱える。


 大将、これじゃ、興行として成立しないぞ?


 星の戦い方はまさしく王者の戦い方である。

 自分の領域に一歩でも入ったその瞬間から星の拳が飛んで来るという戦い方。


 しかし、今の星の一撃は銀譲達と戦っているときがデフォルトベースな為、大樹にとってはただの暴力。


 興行って馬鹿な俺でも接戦にしないといけないっていうのは分かるぞ?



 「⋯⋯っ」


 目の前にいる猛獣に大樹は完全に戦意がおかしくなっている。


 やべぇ。身体がふらつく。


 まともに顎に貰ったのか?

 この俺が?あんなカスに?


 距離を詰めたあの一瞬、心臓が止まったような感覚があったのが危険信号だったってわけか。


 くそっ、どう攻める?

 いや、これはボクシングじゃねぇ!


 『おぉ!大樹選手が一気に距離を詰めました!』

 

 『キックがメインな大樹選手ですが、タックル?』


 これな──


 星へのタックルは決まった。

 だが。


 全身から脂汗と寒気が止まらない。


 『おぉっと!?タックルかと思いきや──そのまま膝ァァァァァ!!!


 地面に大樹選手が沈められるぅぅぅ!!!』


 ーータックルされた場合の対処法?

 そんなの決まってるだろ。


 "何でもありの指が使えんだ。肋骨を掴んで膝入れて地面にぶち込め"


 "極道ならそのままブチ殺すがな"


 「っっっっッっぅ!!!」


 極められている大樹は顔を真っ赤にしている。


 見上げる先にいる星は爽やかに笑う。


 「大して強くなかったね」

 

 こ、殺して⋯⋯


 「そこまで!!!」


 絞め落とされたと同時、レフェリーが間に入り、大樹はなす術無しに敗北を喫した。


 「銀譲さん!!やりました!!!」


 大喜びで飛び跳ねながら女の子みたいに向かう星。


 「良い投げだったな。

 まぁ、今回が何でもありだったから良かったが、指が使えない時はいつものように──」


 「来た相手を迎撃⋯⋯ですよね?」


 「あぁ。初っ端の一撃、やり過ぎだ。

 あんなの常人が貰ったら死ぬぞ」


 ん?皆プロなんだから常人ではない気が。


 「ん? はい!そうですね!」


 多分分かってないな。

 それはプロの常人っていう話なんだが。


 そう思った銀譲だが、敢えて言及はせずに、星と一緒にリングを降りて祝勝会へ向かった。


 雛形星、1R2分、圧勝。


 後に伝説のファイターと呼ばれる男の記録が、この日から始まったのである。

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