ガンインセクト

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第1話 孤島の蟲毒

 九曜カンパニー──複数の軍需企業から成る連合体──が所有する無人島を遠方に望みつつ、洋上には一隻の豪華客船が静かに浮かんでいた。船内の一室は会議室の様相を呈しており、中央に配置された長机の各席には、立体映像を投影可能なホログラムサイネージが設置されている。その場には数名の高位関係者たちが集結していた。

「今回の実験、どの部門が優位と見ますか?」

「強化外骨格開発部門でしょうな。今回も革新的な兵装を投入してきたと聞き及んでおります」

「支援兵装部門の動向も注目すべきです。テスターがの系譜らしい」

「コードFの血筋とは、また珍しい」

 スーツに身を包んだ男たち、白衣の研究者、ドレス姿の女性たち──彼らが交わす会話は、いずれも冷静かつ機密性を帯びたものだった。やがて、室内に初老の男が入室し、無言のまま上座の前に立つ。それを合図に一同は談笑を止め、起立して彼の言葉を待った。

「諸君、今回も参集に感謝する。我々九曜カンパニー創設より百五十年。この節目に、我が社の未来を左右する特別役員会を開催できることを、誇りに思う。挨拶はこの程度にしておこう──第32回ガンインセクトの開幕を、ここに宣言する」

 初老の男の宣言に、列席者たちは一斉に拍手を送った。

 やがて場が静まると、男の傍らに控えていた長身の人物が一歩前へ出る。眼鏡をかけたその男はマイクを手に取り、一つ咳払いをしてから口を開いた。

「会長、ご挨拶ありがとうございました。本年度役員会および第32回ガンインセクトの進行を務めさせていただきます、会長秘書課の芥川でございます」

 その名を聞いた出席者の一部が、小さくざわめいた。

「会議進行に移ります。皆様、お手元のホログラムをご確認ください」

 芥川の言葉と同時に、各席のサイネージから映像が浮かび上がる。九曜カンパニーのロゴと共に、「第32回ガンインセクト概要説明」の文字が表示された。

「ご存知の通り、《ガンインセクト》は当社が数十年にわたり実施してきた兵器開発競争の最終審査、すなわち“戦闘による選定”です。各部門が開発した兵器をバトルロワイヤル形式で実戦投入し、生き残った兵器とその開発部門に次年度の開発予算が与えられます。運用は、従来通りこども兵部門が手配する調整済みテスターが担当。実施ルールは明確。正午より72時間以内に、専用兵器を使用して他のテスターを排除すること。なお、テスターには脱走防止のため、頭蓋内に小型爆薬を内蔵済みです」

 窓の向こう、遥かに望まれる無人島──それこそが今回の実験舞台であることを芥川は示し、続けた。

「これより、各部門の兵器と運用テスターについて、各開発責任者より順次報告をお願い申し上げます」


 芥川の言葉と同時に、ホログラムには蠍のような形をした多脚戦車と、白髪で金色の眼をした無表情な少女が表示された。それと同時に、一人のふくよかな体形の男が席を立ち、皆に挨拶をする。


「強化外骨格開発部門の幾田でございます。我々の部門が開発した兵器の名称は、見た目通り、蠍の意味を持つキャンサーでございます。キャンサーはその見た目から多脚戦車のように感じられるでしょうが、こちらはれっきとした強化外骨格でございます。兵装は自動小銃と盾を装備した前脚2本、歩行用の脚が左右に各3本、光学ビーム砲を備えた尻尾が1本の、計9本のマニピュレーターを備えております。テスターは胴体部の座席に搭乗し、背骨にインプラントされた電脳接続基を接続して機体を操縦します。そのコンセプトは、人間が異なる生物の骨格を自由に操作できるようになったら、どのような戦闘力を発揮するのか?にあります。その点でキャンサーは前脚2本に尻尾と、テスター自身の両腕2本とで武器を操るため、圧倒的な火力を要するのに加え、計6本の移動用の脚で立体的かつ隠密性にも優れた機動を発揮するでしょう。テスターは本機体の性能を十分に発揮するよう調整したテスター、コード・アルファが務めさせていただきます」


 幾田の説明が終わると、次に少し瘦せ気味の男がおどおどと立ち上がる。ホログラムには戦闘コンバットスーツ一式と、茶髪のサイドテールで茶色の眼をした少女が表示された。


「……支援開発部門、コンバットスーツ課の漆原と申します。えー、我々が今回投入する兵器……兵器と言って差し支えないのか、分からないのですが、名称は身体能力向上アドバンスドスーツです。スーツの内訳は、ボディスーツとコンバットブーツとグローブ、胸当てと肩当てと肘当てになります。性能は身体能力を200%以上向上させることと、防弾防刃防火性能に優れている、といった点でしょうか……テスターはコード・ビルドとなります……以上です」


 漆原の簡素な説明に拍子抜けしたといった様子で、次に立ち上がったのは高価そうなスーツを身にまとった中年男性。ホログラムには一見変哲のないサブマシンガンとリボルバー、それに銀髪に銀色の目、それ以外はニット帽とガスマスクを着けていて容姿のよく分からない少女が映し出された。


「皆さま、はじめまして!銃火器開発部門通常兵器課の開発責任者、江藤司でございます!我ら通常兵器課は今回のガンインセクトに臨むにあたって、一つ、今までにない試みを実施いたしました。それは特殊技能研究部門との共同開発でございます。特技研といえば皆様ご存知、普段何の開発をしているのかよく分からない部門でございましたが、この度の我々との共同開発において、これまでにない実用性のある開発結果を生み出したのでございます。それは何か?ずばり、物質の転送装置でございます!いかんせん、まだ自由自在な物質転送とまでは行きませんが、特定の物質を特定の場所に転送することが可能となっております。それすなわち、銃弾と銃倉です。我らはこの技術に対応したサブマシンガンとリボルバーを開発することに成功し、銃弾の装填を必要としない、無限に銃弾を連射することが可能な銃を開発いたしました!まあ、無限といっても転送元の銃弾が尽きればそれまでなのですが、そこはご心配無用!銃弾は半無限に連射できるよう、転送元の倉庫に大量に保有しております故!テスターは銃撃戦に特化した調整を施されたコード・キャスターが担当させていただきます。彼女の特性と本装備の相性は、これまでにないレベルで高く、実戦における優位性は極めて高いと自負しております」


 自信に満ちた江藤のプレゼンテーションが気に食わないといった顔をして、次に席を立ったのは白衣の下に赤いドレスを着た女性だった。ホログラムには狙撃銃と恐らくドローン、それから金髪のポニーテールで青い眼をした少女が映し出された。


「同じく銃火器開発部門で狙撃銃課の責任者を務めさせて頂いております、奥寺と申します。通常兵器課は今までにない施策として他部門との共同開発をされたようですが、実は我々も戦術支援研究部門との共同開発に臨んでまいりました。その結果として我々が開発したのがドローン連動狙撃銃です。戦術支援研究部門が開発したドローン80基から各種情報支援を受けるオペレーションシステムを開発し、それを専用の狙撃銃に搭載することで劇的な狙撃能力の向上を達成することができました。テスターは狙撃能力を調整したコード・ダイバーが務めさせていただきます」


 奥寺が座ると同時にすっと背筋を伸ばし立ち上がったのは同じく白衣を着たそばかすの女だ。ホログラムに投影されたのは一見普通の外套スーツのようなもので、併せて金髪のロングヘアで金色の眼をした少女が映し出された。


「支援兵装部門特殊兵装課の貝塚です!我々特殊兵装課がこの度のガンインセクトで投入する兵装は、一言でいえば光学迷彩服となります。姿を隠すだけでなく、消音・消臭効果も高く、隠密性能だけで言えば今回の投入兵器の中では群を抜いている自信がございます。コンセプトはずばり生き残る、です。特殊兵装課は攻撃力に優れた兵器の開発は不得手ではございますが、だからこその豊かな発想力で本実戦に一風を巻き起こそうと考えております。担当テスターはコード・エコーです」


 貝塚とは対照的に、のらりくらりと姿勢の悪い初老の男が次に立ち上がった。ホログラムには刀剣と、黒髪ツインテールで黒目の少女が映し出されたが、この少女を見た周りは少しざわめいた。


「ああ、騒がれるのも無理はない。私は鬼怒川。支援兵装部門刀剣課のものだ。先にお伝えすると、ホロに映っている少女はお察しの通り、つまりコード・フォックスだ。今回の蟲毒において会長に特別に許可をもらって参加することになった。彼女が操る我らの開発した兵器は、こちらも見ての通りの刀だ。どでかい刀だ。名前は流体可変ブレード。刀身が液状化して形状が変化する。まあ銃火器がメインのガンインセクトで刀がどこまでやれるかは、フォックスの能力と併せて見もの、といったところだろうか。よろしく頼む」


 最後に立ち上がったのはなんとも特徴の無い青年だった。ホログラムに映し出されたのは一瓶の薬、それと灰色の髪をして青い眼をしている少女だ。


「身体強化薬開発部門の九条と申します。我々の投入する兵装は、部門の名前が示す通り、身体能力を強化する薬です。テスターはコード・ギフトが担当します。以上になります」


 7部門の発表が終わり芥川が口を開いた。

「それでは、以上で本戦に参加する全テスターと装備の紹介を終了いたします」

 芥川が静かに告げた瞬間、部屋の照明が一段階落とされ、ホログラムに無人島の俯瞰映像が映し出された。地形データと共に、複数の赤い点が島内に配置されている。

「初期投入ポイントはこの通り。公平を期すため、完全にランダムで設定しております。なお、各テスターには戦闘開始と同時に自身の現在位置と、最後に交戦が確認された敵の方向だけが伝えられます」

 芥川が手元の端末に指を滑らせると、俯瞰映像の中で各赤点が一斉に明滅した。

「早速ですが、こちらは……強化外骨格開発部門のテスター、コード・アルファでしょうか。彼女が目を覚ましたようです」

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