第39話 宮廷からの知らせ
部屋に戻っても、俺はまだ姫さまの誕生日パーティーについて考えていた。
そんな俺を見ながら、レミィは心底呆れている。
「人間っていうのは心底バカだなあ。金がないならパーティーなんてやらなきゃいいのに」
「たしかにそうだよな。姫さまだって、そう考えているみたいだけど……」
「これに関しては嬢ちゃんが正しいよ。美味い飯を食って、二十年も生きてこられたことを素直に感謝すればいいだけじゃん。なんでそんなに金をかけるんだ?」
体面、しがらみ、権力の維持、どれもくだらないことに思えるけど、俺と公爵家では立場が違う。
一概に相手を否定はできない。
「偉い人たちっていうのは、妖精や精霊使いほど自由じゃないんだよ」
「ほーん……」
ただ、このまま傍観している気はない。
やっぱり姫さまのことが気になるからだ。
姫さまの本心を知って、なるべく意向に沿うよう手助けしたい。
「砂金でも探しに行くか……」
100グラム以上のナゲットが見つかればパーティーの足しにはなるだろう。
だが、レミィは首をかしげている。
「大きなナゲットがポンポン見つかるのか?」
「難しいだろうなあ」
初めてナゲットを拾ったとき、俺は地図で検索をしてあれを見つけた。
あれは74グラムもあったんだよね。
現金に換算したら116万9200レーメンにもなった。
だけど、あれクラスの反応はなかったんだよね。
地道に頑張れば短時間でもそれなりに集められると思うけど……。
「とにかく、明日になったら姫さまがどうしたいのか聞いてみるよ」
俺ひとりで考えても仕方がない。
それに、これは姫さまにお会いできる口実になる。
そうでもなければ、俺が堂々と姫さまの部屋を訪ねることなんてできないからね。
悩んでいる人たちには申し訳ないけど、俺は姫さまと話せる機会を大切にしたかった。
いろいろと気を揉んだが、朝食に現れた姫さまは普段の落ち着きを取り戻していた。
「おはよう、カミヤ。昨夜はすまなかったな。大声を出してしまって」
姫さまは気恥ずかしそうにしている。
「お気になさらずに」
「父はまだ来ていないか?」
「そろそろお見えになるでしょう。公爵も姫さまと話し合いたいとおっしゃっていました」
「そうか。だったらよいがな……」
少し遅れて公爵もやってきた。
姫さまは席から立ち上がり、ぎこちなく詫びを入れている。
「お父さま、昨日は失礼いたしました」
「よ、よいのだ。パレスの言うことにも一理あった。私は考えなしのところがあるからな。パーティーのことは二人でよく話し合おう」
公爵が歩み寄りの態度を見せたことで姫さまの緊張も緩んだようだ。
出費もいくらかは抑えられるだろう、と考えたのかもしれない。
肩の力が抜け、穏やかな笑みが戻ってきた。
「お父さまにカフェオレをお持してくれ。カミヤ、コーヒーのお代わりは?」
「いただきます」
和やかな雰囲気が戻ってきて俺も一安心だ。
ブラックラ公爵も安堵のため息をついている。
根はいい人だから、娘の言葉に思うところがあったのだろう。
これで反省してくれればいいんだけどね。
「そうそう、今朝、宮廷から大切な報告が届いたんだ。パレスにも相談したい」
カフェオレを一口飲んだ公爵がポケットから書状を取り出した。
立派な透かしや封蠟がついた豪華な封筒である。
きっと特別な報せなのだろう。
姫さまは公爵の顔をじっと見つめた。
「悪い知らせでしょうか?」
「そうではない。ダンジョンで七層へ向かう入り口が見つかったそうだ」
「なんですと!?」
姫さまの驚きように、俺までびっくりしてしまった。
七層へ向かう入り口が見つかることって、そんなに重要なことなのか?
新地開拓によって魔結晶の産出量は増えるかもしれないけど、ブラックラ家に直接かかわることはないと思うんだけどな。
それに、大きな声じゃ言えないけど、俺ならダンジョンの構造くらいすぐにわかってしまうのだ。
大騒ぎするほどのことじゃないと感じてしまう。
「姫さま、なにをそんなに興奮してらっしゃるのですか?」
「当然であろう。我ら王侯貴族はピアッツァの盟約により、侵入権が得られるのだからな」
「はぁ……」
よくわかっていない俺に姫さまは詳しいことを教えてくれた。
「すまん、カミヤが異世界人であることを忘れていたよ。カミヤはダンジョンについてどれくらい知っているかな?」
「魔結晶が産出されることと、同時に魔物も生み出されてしまうことですね。それから、稀に宝箱が見つかることも知っていますよ」
「まさにそれだよ。前人未踏の区域であるがゆえに、七層には宝箱がたくさんあることが予想される」
なるほど、それで興奮していたのか。
「七層にたどり着くことができれば、それらの宝を手に入れる確率が上がるということですね」
「その通りだ。しかも古参の貴族たちは、優先的に新区域を開拓ができるという決まりもある」
それがピアッツァの盟約というやつだな。
「でしたら、参加しない手はないですか?」
「そうなのだが、いろいろと問題もあるのだよ」
「と、言いますと?」
「まず、誰を派遣するかだ。信用のおける者でなければ、この役は務まらん」
宝を持ち逃げされてしまうかもしれないもんな。
「ただ、貴族の当主やその親族が直接ダンジョンへ赴くこともある。今回はわらわが出向いてもよい」
ブラックラ公爵は戦闘がまったく駄目そうだから、その方が現実的だな。
「でも、姫さまおひとりでダンジョンへ行くわけにはいかないでしょう? せめてドロナックさんが一緒でなければ」
「爺にはお父さまの手伝いがある」
なんとかいう国の大使がまだロウンドナにいて、ホスト役をブラックラ公爵が勤めているんだっけ。
その補佐をドロナックさんがしているのだな。
「爺は手が離せないゆえ、わらわが直接指揮を執る。副官はバルヴェニーに頼むのがよいだろう。あとは知り合いの冒険者を何人か雇い入れるしかあるまい」
女の子だけで大丈夫だろうか?
そりゃあ、姫さまもバルヴェニーさんも只者じゃないと思うけど、やっぱり心配になってしまう。
せめてバスカーさんがいれてくれればなあ……。
「それに、問題は人員だけではない」
「他にもあるのですか?」
「優先開拓には参加費用が掛かるのだ。その額、300万レーメンだ」
「けっこうしますね」
「さらに、新区域だけあって、どんな魔物やトラップがあるのかわからないという不安もある」
首尾よく宝箱が見つかれば、参加料は倍以上になって返ってくるだろう。
だが、宝箱が必ず見つかるという保証はない。
下手をすれば死傷者が出て終わりという結果もありうるのだ。
公爵は眉根を寄せながら姫さまは見た。
「パレスや、そなたはどう思う? 私は参加するべきだと思うのだが、これ以上借金を増やすのもよくないと思ってな……」
ブラックラ公爵なりに考えて、姫さまに意見を求めているのだな。
それに対する姫さまの答えは明快だった。
「私も参加するべきだと思います」
姫さまには迷いの欠片もなかった。
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