もしも俺にだけ無防備な姿を晒す隠れ美少女の親友と同居することになったら
こばやJ
1章『同居人は突然に』
第1話 突然の同居宣言!
「春馬ママぁ~、助けてぇ~」
「俺はお前のママじゃねぇ」
とある日の昼休みの中頃。
情けない声と共に駆け寄ってくるクラスメイトの男子の一人を、俺は一蹴する。
どうせ頼んでくることなんて決まっている。
弁当が好みじゃないから美味しくアレンジしてくれ。
制服がほつれたから直してくれ。
居眠りでついた寝癖を戻してくれ。
おおかた男子が俺に求めてくる助けなんてそんなもんだ。
「学ランのボタン取れたから直してぇ~」
ほらな。大当たり。
「前も言ったが、自分で直そうとは思わないのか?」
「……制服が血まみれになっちゃうだろ?」
「なるわけねぇだろ。どんだけ針を刺すつもりだよ」
「俺はほら、女子力の高い春馬と違って、不器用だから」
「不器用ねぇ……」
女子力。俺はこの言葉が嫌いだ。
別に身に着けたくて器用になったわけでも、クラスメイトのママをやってるわけでもない。
ただ致し方なく、いろんなものを身に着けてきただけに過ぎない。
それが気づけば『女子力』という形でもてはやされ、『クラスのママ』篠崎春馬で定着してしまっている現状だ。
不器用なら不器用なりに、試行錯誤をしろと声を大にして言いたい。
俺にだって昼休みの時間があるわけだし。
「というわけだからあと頼むわ! 昼休み終わる前に、教科書借りてこないとだし!」
「おい、ちょっと待て! やるとはまだ一言も言ってないだろ!」
「お礼は
「送っといたって言われても……」
断る間もなく去っていたクラスメイトを尻目に、ボタン修繕のお礼というものを確認してみる。
と言っても大体予想はついていた。
所詮男子の考えることだ、単純明快。
送られてきた写真を即時消そうとするその時だった───。
ピコンッ。
「……ん?」
短い通知音。またもLAIN。
また何かトラブルか? そう思いながら俺はメッセージ欄を開く。
『今回の報酬はなんだった?』
「───げっ」
不意打ちにも程がある内容に、思わず小さく嫌悪感を口から出していた。
『なんでもない。気にするな』
『気にするなってことはないだろ? キミがどんな報酬を貰ったのか、親友として知りたいのは当然のことなんだし』
『とか言って、からかいたいだけだろ』
『それは否定しない』
否定しろよ!
「……はぁ」
めんどくさい。本当にめんどくさい。
いつものやり取りだからこそ、心の底からめんどくさい。
無理やり制服修繕を押し付けれられ、勝手に報酬として写真が送られてくる。
その度に報酬内容を聞いてくるのだから、めんどくさい。
チラリと後方に目をやると、教室の隅で読書に勤しむフリして俺の事を観察してくる親友、今田美咲がセーターをダボつかせてヒラヒラと手を振っている。
「ニコニコして楽しんでやがる……」
めんどくさいと思いながらも、俺は俺で楽しんでしまってるのだから人のことを言えない。
しかしまぁ、なんとも悲しいかな。
男子と女子がこうやってアイコンタクトだけに留まらず手を振られてる状況だと言うのに、誰からも揶揄されることがない。
理由は明白。美咲の容姿にあった。
やや赤みがかった黒髪を後ろで二つ結びにした髪型、特に目立つ容姿をしてる訳でもない、いわゆる地味系女子。
男女のそういったやり取りに敏感な男子には、興味のないタイプというわけだ。
俺としては見た目で人を判断するのはどうかと思うけど……。
対する美咲は、さほど気にしてないようだ。
それよりも今は俺をからかうのに夢中になっている。
『で、どんな内容だったのか教えてよ。別にどんなにえっちなものでも怒らないからさ』
『それは白状したら怒られるやつでは?』
『じゃあ、えっちなやつなんだ』
誘導尋問は酷いと思う。
というか、別に写真を送れと頼んだ覚えすらない。
何故か男子たちの共通認識として報酬=グラビア写真になってるようだ。
一度も求めてないし、普通に手間賃をくれ。もしくは自販機の紙パックジュースでもいい。
『勘弁してくれ。そういうのに興味が無いわけじゃないけど、俺には俺の好みがある』
『どうせおっぱいの大きい子が好きなんでしょ?』
『……否定はしないけど』
『えっち』
うーん、この!
仕方ないだろ。気になるもんは気になるんだから。
とはいえ、だ。
『見た目じゃ人間性まで測れないだろ?』
やっぱり外見だけで判断するような男にはなりたくないよなぁ。
その後、しばらく美咲からの返信は無かった。
どうせいつもの突発的なやり取り。
区切りが来て飽きたのだろう。
そう思った俺は渋々、カバンに常備している針と糸を取り出し、押し付けられた制服のボタン直しを始めることにした。
ゆっくりと深呼吸をして集中へと向かう。
集中して集中して、周りの音を遮断する。
やがて気持ちの準備が整うと、的確に制服へと糸を通し、的確にボタンを縫い直していく。
ひとつ、またひとつ作業を進めもう間もなく修繕が終わろうとしたその時───。
「……春馬のバカ」
小さく、けれど確かに俺を呼ぶ声がした。
俺の事を名前で呼ぶ人物はそう多くない。
そう例えば、美咲とか。
ふと気になり教室の隅に視線を向けてみると、そこには美咲はいなく、ただ本だけが座席においてあった。
「サンキュー、春馬ママ! 助かった!」
「それなら良かった。それと報酬の話なんだが、出来れば……」
「あぁ分かってる。次はもっといいやつ準備しとくから!」
「いや、自販機のジュースの方が───って聞いてすらいねぇ」
放課後になり、昼間の男子生徒が制服の受け取りにくる。
ボタンのほつれを確認するなり、颯爽と帰るもんだから、報酬の訂正をできずに終わる。
写真データじゃ腹は膨れないんだよなぁ。
「それに、さっきのよりもっといいやつって……」
昼休み、送られてきた写真を消去する寸前、チラリと目にした内容を思い出す。
煌びやかな海。白い砂浜。ちょっぴり大人びた表情。
そして、ストライプ柄のビキニに包まれた慎ましくも立派な───。
「まーたおっぱいのこと考えてる?」
「うわっ!? み、美咲!?」
背後から声をかけられた刹那、俺は脳内メモリーからも昼の写真を削除した。
俺は何も見なかった。何も考えなかった。
「驚くことはないでしょ。あ、もしかして図星? 春馬って見かけによらずムッツリ?」
「見かけによらずってなんだよ。今日の献立を考えてただけだよ」
「ふーん? ちなみにどんなおっぱいだった?」
「そりゃ、ストライプビキニに優しく包まれた育ち盛りの……ん?」
「やっぱりおっばいのこと考えてたんじゃない」
親友だけあって美咲との会話は油断ならない。
それはチャットであっても変わらない。
いつだって俺は美咲に振り回されてばかりだ。
その場限りのごまかしなんて効いた試しがない。
特に胸の話になるとそれが顕著に現れる。
仕方ないだろ。ほぼ毎日のように写真が送られてくるんだから。
「さて、今日はどこ寄ってく? 昨日はレストランで晩メシにしちゃったから、それ以外で頼みたいんだけど」
席を立ち上がり、カバンを持ち上げる。
まばらに教室に生徒が残ってる中、俺はいつものように美咲と共に廊下へ出る。
二人っきりの下校。その道中、寄り道するのがお決まりになっている。
俺も美咲も、家に帰ったところで誰も居ないから自由なもんだ。
二人揃って両親が仕事人間というのがもう面白い。
おかげで自炊能力が身についてしまい、こんな生活が楽しく思えてしまっている。
こう思えるのはきっと美咲のおかげなんだろうな。
そんなことを考えてるとさっきまでスマホとにらめっこしていた美咲が口を開く。
「ごめん、ちょっと今日は用事があるからこのまま帰るね」
校門に到着すると、寄り道ルートではなく自宅方面に足先を向ける美咲。
「用事? 珍しいな」
「急に決まったことだから」
「そか。気をつけて帰れよ」
「うん。また後でね〜」
久々の一人での帰り。
もの寂しさを覚えながらも、晩飯の献立を考えながら俺も帰路に着く。
昨日はハンバーグを食べたし、一昨日はナポリタン。
なるべく種類を被らせないように考えると……今日は鮭にでもするか。
「……ん? また後でってどういう事だ?」
献立のメインが決まったところでふと美咲の発言に違和感を覚える。
今日はもう、食材の買い出し以外で寄り道しないし、どういう意図だろうか……。
ピコンッ。
「……誰だ?」
美咲の去り際の言葉に思考を巡らせていると、LAINにメッセージが入る。
放課後にメッセージが来ることなんて滅多にない。ただ数人を除けば。
「親父からか。生活費足りてるかの確認か?」
ビンゴ。仕事が忙しく、そして仕事が大好き人間な親父様でした。
大抵届くメッセージは決まっている。
生活費は足りているか?
いついつ帰る。
次はどこどこに出張が決まった。
大方こんなもんだ。
さてさて今回はどのようなご要件でしょうか?
『知り合いの子を家で預かることにした。あとは頼む』
「……は???」
この時ばかりは、クソ親父と叫びたくなった俺を許して欲しい。
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