2ページめ

 おろちが死んだ日のことを書く。


 その夜、妖医はぼくに人間らしい食事を出した。

 いつのまにか庵には扉が増えていて、促されて見に行くとトイレとお風呂があった。

 当然のように体のサイズに合った服を提供された。

 気付けば庵の片隅は畳敷きの小上がりになっていて、柔らかな布団が整えられていた。


「疲れているでしょう」


 妖医は微笑んだ。

 今日は寝ておしまいなさい、と。


 進められるがまま布団に入り、何もない天井を見つめると、部屋全体が薄暗くなり、あっという間に微睡む。


 この部屋には、灯りがない。

 なのに、行灯を消したようにふっと闇が来た。


 なぜだろう、と疑問を持って初めて、

 ぼくはおろちの屍がいつの間にか部屋から消えていたことに気付いた。




 思い出せない。

 おろちが死んだあと、ぼくはなぜ、何事もなかったように食事をして寝支度を整えられたのだろう。

 あんなにも大好きな、かけがえのない、おろちが死んだのに。


 考える間もなく、意識が落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る